敵を知ることは大事
レイラは、シェイナとパティリエカとエギナとブルーディスを伴い、控室へと戻った。
「本当に年寄り連中は頭が固い上に憶病だ! そうやってもたもたしている間に国が滅ぶとなぜ分からないのか!」
エギナは頭に血を登らせ、吠える。
一方、ブルーディスはただ黙って成り行きを見守っていた。彼は非常に腕の立つ騎士ではあるもののあくまでパティリエカの護衛が任務なので、口を出せる立場にないからだ。
エギナも、本来なら口を出せる立場ではないのだが……
こちらは、養子に出されてるとはいえ王の実子なので、他の者もあまり強く言えないというのもある。
そんなエギナに、レイラは、
「エギナ様のおっしゃりたいことも分かります。ですが、私としても、今はまだ時期尚早と考えます。<魔王>なる者の詳細さえ掴めていない現状では、確実な勝利をお約束することはできませんので」
冷静に告げる。しかしエギナは、
「お前までそんなことを言うのか!? お前はデモニューマ共を見事に退けてみせたじゃないか!」
と不満げだ。そんな彼女に対してもレイラはあくまでも穏やかだった。
「エギナ様。戦というものに<絶対>はありません。だからこそ、敵を知ることは大事なのです。エギナ様も、私と手合わせした時には、私の力をご存じありませんでした。だからこそ、私に勝負を挑むことでその力を知ろうとなさったのではありませんか?」
端的なその指摘に、
「あ……!」
エギナはハッとなり、
「それは……まあ、確かにそうだが……」
と口ごもった。レイラは続ける。
「私の郷里に、『彼を知り己を知れば百戦殆うからず。彼を知らずして己を知れば 一勝一負す。彼を知らず 己を知らざれば 戦う毎に必ず殆し』という言葉があります。この場合の<彼>とは<敵>を表し、<己>とは<己自身>や<自軍>を表しています。
これは、『敵と味方の力を正しく把握し備えれば勝てるが、味方の力のみをよく理解している場合には勝つこともあれば負けることもあり、敵の力も味方の力も分かっていない場合には何度やっても勝つ見込みはない』という意味のものです。
エギナ様。戦に絶対はありませんが、それでも、勝利の可能性を高めることは可能なのです。私は、皆様に勝利をもたらしたいと考えています。そのためには備えが必要なのです」
穏やかに、しかし毅然とした態度で、語ってみせた。
そんなレイラに、その場にいた全員が姿勢を正す。外套を作っていたニューティさえ手を止めて見入っていたのだった。




