幻のようにさえ
こうして、パティリエカから国王に取り次ぐことになったものの、
「お姉さまの馬車ではここから先は入れませんので、私の馬車に移ってくださいませ」
その言葉に従い、パティリエカの馬車に、エギナと、シェイナを抱いたレイラが乗り込んだ。
この時にも、レイラの動きは、まるで天から下ろされた糸で吊られてでもいるかのごとく、まったく危なげないものだった。
そんな彼女の姿に、パティリエカが見とれていた。するとエギナが、
「お前にも分かるだろう? レイラの素晴らしさが。レイラがこの国に表れたのは、まさに天啓なのだ。彼女と共に魔王に立ち向かえとの、神のお告げなのだ!」
エギナが興奮した様子で説くもののパティリエカの耳には届いていない様子だった。その顔は陶然として、まるで愛しい相手の顔に見惚れているような、十歳程度の子供のそれとは思えない、艶めいた表情であった。
明らかに、エギナが興奮している部分とは別のところに心を奪われているのが分かる。
そう。パティリエカは、レイラの所作を含めた姿に見惚れているのだ。輝くようなプラチナブロンドの髪はどこまでもなめらかでサラリと流れるように伸び、碧い瞳は神秘的な輝きを放ち、それでいて、この世の一切合切を見通すかのように真っ直ぐに据えられていた。
ほんのりと桜色に染まった唇もまるで宝石のようで、あまりにも整った体つきとも合わせて、もはや幻のようにさえ現実味を失わせた。
なのに、確かにそこに存在するのだ。
さらには、デモニューマと呼ばれる恐ろしい獣を一瞬で退けるほどの力も秘めつつ、その所作はどこまでもたおやかでもある。
『本当に冗談ではなく、彼女は、神が我らに遣わした<救世主>やもしれぬ……』
すっかり心を奪われたかのように呆けている主人の傍らで、ブルーディスだけは辛うじて平静を保ちつつ、そんなことを考えていた。
ゆっくりとした速度ながらもそうしているうちに馬車は国王がいる城の最奥部へと辿り着き、五人は衛士に出迎えられて王宮へと足を踏み入れた。王には、先に、門番からの報せが届けられている。それを待つために馬車はゆっくりと進んだのだ。
「パティリエカ様。他ならぬ貴女様とブルーディスの言なればこそ此度の謁見は認められましたが、本来ならば有り得ないことなのです。もし、陛下のお眼鏡に叶わなかった時には、謹慎では済まないかもしれません。お覚悟を」
衛士の中でも特に上位の者と思しき厳格そうな人物が恭しく告げた。しかしそれに対しても、
「案ずるな! この者はお前達のそれが杞憂であることをすぐに証明してくれるわ!」
エギナが自慢げにそう声を上げたのだった。




