お姉さま
「お約束がなければ、たとえエギナ様といえどもお取次ぎできません」
門番の兵士は愛想なくそう言ったものの、
「そんなことは百も承知だ! だが、これは我が国<ベル・ルデニオーラ>の大事に関わることだ! 約束などと言っている場合ではない!!」
エギナはまったく引き下がる様子もない。
「ですが、エギナ様……!」
門番の兵士としても折れるわけにはいかず、
「ええい! 融通の効かん奴め! そのようなことで咄嗟の時に国を守れるか!!」
と強弁するエギナと押し問答となる。
そこに、
「これは、何事ですか? お姉さま」
新たに近付いてきた馬車からいかにも屈強そうな衛士を伴って、おそらく十歳くらいと思しき、豪奢なドレスをまとった少女が下りてきて声を上げた。
「おお! パティリエカか! お前も言ってやれ、この分からず屋の石頭に!」
エギナは少女に向かってそう声を掛けるものの、『パティリエカ』と呼ばれた少女も
「お姉さまが何をおっしゃっているのか、このパティリエカにはさっぱりですわ。見れば門番は自身の役目を忠実に果たしているようにしか私には思えません。道理をわきまえていないのはエギナお姉さまの方ではございませんか?」
見た目にそぐわない堂々とした口上を述べる少女に、
「お前もか! パティリエカ!」
エギナは悔し気に地団太を踏んだ。明らかに十歳以上年上であろうエギナの方が幼くさえ見える。
なのにやはりエギナは諦めず、パティリエカの後に控えていた、いかにも<強者>という雰囲気を放っている偉丈夫を指さし、
「なら、お前の自慢のブルーディスと手合わせさせればいい! そうすれば私の言ってることが分かるはずだ!」
とも言い出した。
しかしパティリエカも譲らない。
「いい加減になさいませ! お姉さま! このような場所でそのような真似ができるはずがないのがなぜ分からないのですか!? 今のお姉さまの振る舞いは、お姉さまを養子に迎えてくれたバルシア侯の顔に泥を塗るものだとなぜ分からないのですか!?」
物腰はあくまで優雅でありながら一歩も引かないその姿は、なるほどエギナの肉親であると納得させられるものだった。
その一方で、パティリエカの言葉から、エギナが<バルシア侯>という人物の家に養子に出されていることが窺えた。ここまでの彼女の行状を見るに、王族としての席に加えておくことができなかったがゆえの苦肉の策であったのだろうということも窺える。
レイラは、一連のやり取りを、馬車の中でおとなしく聞いていたものの、シェイナは二人のあまりの剣幕にまたも怯え切ってレイラに縋りついていたのだった。




