<この世界>がいかなるものであるのか?
いかなる通信も給電網も機能しておらず、衛星とさえ連絡が取れない。たとえ地上で途轍もない大災害があり一切のライフラインが失われたのだと仮定しても、それ自体が自立したロボットでもある各種衛星まで連絡が取れないというのは、明らかに異常だった。
自身の通信機能が損なわれているのかとも思ったものの、彼女が発信した電波の一部は電離層で反射して戻ってきているのを確認。通信機能そのものは健全であることがこれで確認された。
だから、彼女と通信できるものが存在しないということだ。
『このような状態にある惑星は、先ほどの生物とも合わせて、私のデータベースには該当するものがありません。これではまるで、フィクションにある<異世界>ではありませんか』
とも考えてしまう。
自分に縋りついて泣く少女を抱いたまま、レイラは僅か数秒の間に自らが置かれている状況を検証してみせた。
とは言え、
『<異世界>に転送される』
などという事態は現実には起こりえないと、ロボットである彼女は当然考える。
なので、
『<この世界>がいかなるものであるのか?』
という点については現時点では詮索を避け、少女の保護を優先した。
さりとて、
『警察とも連絡が取れませんから、頼るのは難しいでしょうか』
と判断。そこで、
「私の名前は、レイラ。正式名称は<タリアP55SI>と申します。お名前を窺ってもよろしいでしょうか?」
と、極力柔和な話し方を心得つつ、問い掛けた。すると少女は、
「シェイナ……」
しゃくりあげながらも、なんとかそう応えてくれた。そこでレイラは、
「シェイナ、どこか行く当てはありますか?」
とも問い掛ける。
それに対して、少女は、<シェイナ>は、
「街に…行こうかと思ってた……街に行ったら、どこかで下働きでもできるかと思って……」
消え入りそうな声で。
<訛り>のような語彙の変化は見られるものの、レイラに搭載されたAIは、すぐさま解析を行い、補正を加えていく。彼女のデータベースにある数万通りの<人間の話し方>と照らし合わせて、少女が言葉に込めた意図を探り出す。
『児童労働ですか。過酷な環境のようですね』
レイラは改めてシェイナをそっと抱き締めながら彼女の境遇を想った。
となれば、この、シェイナと名乗る少女の保護が今は重要である。
『街に行けば、なんらかの治安機構もあるかもしれませんね』
そう考え、まずはシェイナが目指していたという街に向かうことに。
なお、レイラはロボットなので、保護責任者の承諾なくシェイナを保護しても<誘拐>には当たらない。むしろ、
『本人の窮状が客観的事実として確認できれば、ロボットは保護を優先するべき』
と決められている。
ここで迂闊に加害者の下に連れ帰ったりすると、逆上した加害者がさらに暴走する事例も少なくなかったからだった。




