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瓢箪から猫  作者: 戒名鍋
序章
1/2

旅立ち


かっこいい序章にあこがれがあるのですが難しいです


「トラスケよ。お前も年が明ければ十六、一人前になる。この機にお前の亡き父と祖先を祀ってけじめをつけてきなさい」


「はい?」




トラスケが村長の息子の次期村長に呼び出されて、ハイハイ、どこぞにお使いですか?、と出向いてみると改まって座らされ、唐突に言い渡された。




「分からないか、よく聞きなさい。お前は父と先祖を祀っていない。これは大変に人の道に悖る。もう子供だからで済まないという話だよ」


「祀るというと、あの。村にお堂でも建てればよいでしょうか」


「何を言っているんだね。この村はお前の生地、先祖の地ではないだろう。祖先の地に参って祀ってきなさい」


「なるほど道理に適った大変結構なことです。ところでわたしは父のことも、村の在所もよく覚えていないのですが」


「だからこそ、今まで獣のように疎かにしてきたものを、人の道に立ち返りなさいということだよ。良い機会だ、母も連れて行きなさい、道筋を覚えているだろう。母に夫孝行をさせてやれる、お前も立派な孝行だ。善は急げだ。いつ向かうかね」


「ええと、生地は西の果ての蛮族蛮人の地との際で今も大変乱れていると聞きます。村が潰れたあとどうなっているかも分かりません。冬も近づいていて長旅は厳しいのですが」


「そう言った下賤な話ではない。道徳、徳の道の話をしているのだよ。お前は祖先も父もどこぞのものとも知れず祀ってもいない人間未満からまっとうな人間になれる。それを教え諭し導く俺も徳を積める。大変良いことではないか」




話がかみ合わない。悪意からか口減らしの類かと思ったが、どうにも本気で善行のつもりらしい。徳や孝や礼の理屈はトラスケも少し知っているし、村にも祖廟があって一族の先祖を祀っている。大変結構なことだ。母アカネは確かに出戻りだし、余所の一族の夫との間のトラスケ共々、理屈でいえば余所者だ。だが、しがない農民や農村の暮らしの中でわざわざ系譜だのの筋を通すのは現実離れしている。




真意はどうあれ、最近は村の差配も任されている次期村長にそうせよと言われたら、しなければ村に居場所はない。




これからの季節に足腰も弱ってきた母と二人でトラスケは経験のない長旅、半ば死ににいくようなものだ。記憶にほぼなく、話で場所くらいしか知らない生地への旅を考えながら、一応は聞いてみる。しれっと少しでも成算があるように要求を盛って。




「お教え大変ありがとうございます。旅の支度はいつ整えていただけますか。ご助力いただける方はどちら様でしょう。わたしから挨拶に伺えば宜しいですか」


「これはお前の一族の話だよ。ひとに頼って任せてどうする。全てを自身で為してこそ孝だろう」




ダメだ、悪意がある方がまだまし、絵空事の徳に

酔っている。






こうして唐突に母アカネとトラスケの旅立ちが決まった。

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