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仮設風向計/詩集その3

封印(他2篇)

作者: 浅黄 悠

「封印」


本を閉じるように

封をした


大切なものばかりだから

別れは見えないように

生きてきた軌跡は生々しく

自転車が通る真夜中に喉に手をあてがう

そんな風に笑わないで

膝をついてしまいそう


白銀色の理想

過去に戻りたいとは思わないけれど

憧憬を手繰って思い出すのは決まって過去のもの


切子のグラスを買ってきて

包み紙が残っていた

役に立たないもの

理解の及ばぬもの

ジョークも通じない今はそれだけが救い


いつか

本のページは白紙が続き

人類は在りながらにして黙りこむかもしれない

その場所は満たされたことへの返答か

あるいは


心を壊した語り手の話を聞いたことがあるなら

本当に大事なことは黙っておくのです

染み込んで蒸発するまで

肉薄した刃を突き刺すかどうかはあなた次第


そのうち私は何も語れなくなるかもしれない

サンダルを脱ぎ捨てて凍り付く

あの子が永遠を得て

青い稜線やプールの水の揺らめきと無縁になる

そんな未来も形になって垣間見えた


箱の上で突っ伏し

指を組んだまま

いつまでも名残惜しく思っているのも

私だというのに


早くしなくては……いけないのに……

そのたび指が震える

身体が冷える

どうしてここはこんなに複雑なのでしょうか

私はどこへも行けない




______


「腐っても夢」


透明なのに

誰も使っていない泉

君の瞳はそんなところ


砂の中に埋まった宝物を

覚えていても

君は笑わない

掌に乗るぐらいの重り

それぐらいの時間


始めから知らなかったふりをする

望んでいなかったふりをする

恥ずかしいことだとむきになって

クリスマスプレゼントの贈り主を否定しているように


路上に丸められた広告

皆どんなパラレルワールドに生きているんだろう

右手に穢れない水晶玉

柔らかく生まれ変わることができたら


今に優しい言葉はない

誰も彼も去っていく

他人事じゃなかったなんて悲しいね


これはもう僕が持つものじゃない

力尽きてすらいない

今日も君はひとりで首を振る


それでもこれは夢だ

いつまでも僕の希望

僕以外この価値が誰に分かるものか

暗転した瞳の中に黄昏の光が差す

心から笑いながら

顔を覆いながら




______


「夜の杖」


簡素な服から

都会の鉄錆びの匂いがする

夕日の手前に雪が舞う

気が付けば彼岸の時期

淀んだ空気を焦がし

黒い影が空を渡る

闇は暖かい


ここには本当などどこにもない

どうして先に行ってしまったのだろう

否、始めからわたしは一人だった


硝子の列車がゆく

その酷い淡白さ

赤い記憶が雑踏に混ざる

いつまでも帰る場所の無い人ばかり


蝋燭が消え

眠るかわりに

君はゆっくりと腕を伸ばして泳ぐ

熟さない血を見せつけるように


そのまま早く月から墜ちてきて

花弁吹きすさぶ時間はどこに

今は全てが絵空事と同じ

鞄に置いてきた懐中時計

銀の鎖だけちぎって手元へ

次は、次は、

次はわたしが__





読んで頂きありがとうございます。



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