今日は良い天気
ろうそくの火が揺れる。カーテンの閉め切った部屋に、魔法陣が描かれている。
「本当に帰ってしまわれるのですか?」
「うん、限定コスも早く試着してみたいし。それに……」
部屋の外から足音がして、扉が開く。家来を引き連れて入ってきたのは闘技場で見た国王だった。
国王はあおいの前に跪いた。何事かとあおいはびっくりする。
「どうか私の国に留まって、宮廷魔術師になってくださいませんか?」
「大変ありがたい申し出ですが、家族を待たせているので」
「そうですか……。それは残念です。ですがいつでも私の国へおいで下さい。宮廷魔術師の席は空けておきますので」
魔法陣が光り出す。移転魔法が発動したのだ。
「あおい!」
「キャロライン!」
二人がぎゅっと抱き合い、別れの挨拶をする。
「限定コスありがとうね! このことはずっと忘れないよ」
「私もあおいがいてくれて楽しかったわ」
あおいの視界が光に包まれる。
気が付いたとき、あおいはパソコンの前で倒れていた。
閉め切ったカーテンから日光が漏れ出ている。
「うーん、はっ、そうだ」
パソコンを起動して今日が何日か確かめる。ディスプレイの右下には6月6日と表示されていた。
6月6日はあおいがパソコンに吸い込まれた日だ。ということは……。
「こっちではあまり時間が経ってないんだ」
そのことを確かめるように急いでゲームにログインする。
「カイトくん、起きてる?」
「起きてるよー」とチャット欄に文字が表示される。
「今日って何日?」
「えっと、6月6日だな。それがどうかした?」
「いえ、何でもないです~」
そっか、帰ってきたんだ。あおいは考えた。だが妙な感じだった。キャロラインのいた世界に行く前と、帰ってきた後では、自分の中の何かが大きく変わってしまったような気がした。
「リスさん、その装備どうしたの!?」
「えへへ、気づきました? もう手に入らない限定コスなんですよ~」
「すごい! 手に入れられて良かったね」
カイトが驚きのエモーションをする。
「ところで、これから狩りにいかない?」
カイトがあおいをPTに誘う。
だが、あおいは拒否ボタンを押した。
「どうしたの? 今日は何か用事?」
「ううん、ちょっと外の空気でも吸って来ようと思って」
あおいはそうキーボードに打ち込んでエンターキーを押した。
あおいは席を立った。そして部屋を出て玄関を飛び出し、黄金色の太陽の眩しさに目を細めた。
「おはよう、あおい。今日は良い天気ね」
声の主は母親だった。玄関に立って優しい笑顔をあおいに向けていた。
確かに良い天気だった。雲一つない快晴だった。暖かな風が髪の毛をくすぐり、気持ちよかった。