異世界へ召喚される
夜、自分の部屋で寝ていると、誰かに名前を呼ばれて目を覚ました。
「だれ……?」
眠い目をこすりながら、上半身を起こす。
そして、電気の消えた部屋の暗闇を透かすように、周りを見渡してみる。何も変わったところはない。
誰かに呼ばれたと思ったのは、夢の中でのことだったのだろうか。二日続けて同じ夢を見るなんて、なんか嫌だなと思いながら、横になろうとしたときだった。
「あおい、私を助けて」
!
体が驚きで跳ねる。
確かに今声が聞こえた。
おそるおそる声のした方を向くと、机の上に乗っかっているパソコンの電源がひとりでに入った。
「わ、わわわわわ。なに!? 幽霊!? 超常現象!?」
恐怖で混乱した頭で考える。しかしすぐに冷静になって、パソコンの不具合かもしれないと思いなおした。
「そ、そうだよね。勝手にパソコンがつくこともあるよね。……ひぃ!」
思わず悲鳴が出た。
画面に少女の姿が映ったのだ。
怖い。なにこれ。怖い。という思考で頭の中が埋め尽くされる。
「どうか、私を助けてください」
「ひゃあ! また喋った。は、早く消えてください。悪霊退散悪霊退散……」
見よう見まねで手のひらを合わせて、ぶつぶつ唱えてみるが、効果はない。
「あおい、助けて」
「ええい、こうなったら電源ぶち消しだぁー!」
布団をはねのけて、勢いよく立ち上がると、パソコン目掛けてダッシュした。
「あっ」
だが、足元も見えない暗闇の中で、走るなんて不注意すぎた。
ベッドから転がり落ちたぬいぐるみのうさちゃんに途中でつまづき、体が前のめりになり、足が地面から離れた。気が付いたら顔からパソコンの画面に突っ込んでいくところで、パソコンのなかの少女が驚いたように目を丸くしていた。あおいはぶつかると思って目を閉じる。しかし、あおいの体はそのまま画面の中に吸い込まれていった。
誰もいなくなったあおいの部屋は、今までもそうであったかのように、しんと静まり返っていた。
ゴツンという鈍い音がして、額と額がぶつかった。
「いたたたた」
「せ、成功だわ。やったぁ」
「成功……? いったい何が……? って、ええ!? ここどこ……。それにあなたは?」
あおいは痛む額をさすりながら、あたりを見渡す。
カーテンの閉まった長方形の窓があり、隙間から気持ちのよさそうな日光が漏れ出ていた。薄暗い室内にはベッドや本棚などがロウソクの火で影を揺らしている。他に目を引くのが、部屋の床いっぱいにチョークで書き込まれた魔法陣だった。そして目の前には額を抑えながら歓喜の表情を浮かべる少女が一人。
「あの、あなたは?」
その言葉でやっと我に返った少女は、スカートを指先でつまんで持ち上げて、膝を折り曲げる。
「ようこそ、あおい。あなたは私の勇者様です」