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ひきこもりでネトゲ廃人

 「えへへ、この装備とっても可愛いです」


 昼間なのにカーテンが閉め切ってある部屋で、あおいはパソコンに向かってマウスをクリック、カチカチと鳴らしていた。その姿は廃人と言っても差し支えないものだった。


 目の周りには大きなクマができている。画面を見つめる目はうつろそのもの。半笑いを浮かべている口元からは、よだれが垂れている。人さまには絶対に見せられない姿だった。


 あおいが何をやっているかというとネトゲ(MMORPG)である。本物の人生を始めようというキャッチコピーに嘘偽りはなく、ネトゲ中毒になってしまう人が続出していた。そのなかの一人があおいだったのである。


 そのあおいは今、自分のキャラクターのコーデを考えているところだった。


 「うーん、このドレス可愛いです」


 そんな至福の時間を邪魔する者が現れた。母親である。

 扉の外から声だけが聞こえる。


 「ねえ、ちょっとは居間に顔を出したらどう?」


 無視するあおい。しかし、そのクマのある顔からは、さっきまでの笑みが消えていた。


 「そう、お母さんたち、あおいが出てくるのいつまでも待ってるからね。あおいが好きだったとっておきのクッキー作っておくから、いつでも食べにおいでね」


 優しい言葉を言い残して母親は戻っていった。

 その言葉は、あおいの目に、ひきこもる前に見た優しい母親の微笑みを幻視させていた。


 あおいは耳を澄ませて遠ざかっていく足音を聞く。あおいの顔が青ざめたのは、こんな自分が母親の近くにいる資格なんてないような気がしていたからで、母親の声の聞こえる範囲でネトゲをやっていることに罪悪感を覚えていたからである。自分は引きこもりでネトゲ廃人なのに、迷惑しかかけていないのに、こんなにも優しい言葉をかけてもらえるなんて。


 あおいの頬を涙が流れた。


 「リスさん、相変わらず装備のセンス良いね」


 ゲーム画面に目を戻すと、同じクランのカイトがあおいのキャラの近くでぴょんぴょん飛び跳ねて存在をアピールしていた。


 「えへへ、ありがとう」

 「もし時間あったら、今から狩りに行かない?」


 カイトからPTに招待される。もちろん時間は無限にあるので喜んで行くつもりだった。表示された参加ボタンにカーソルを合わせクリックする。

 ピコンと効果音が鳴って、PTが組まれる。カイトの名前があおいのキャラクターネーム(混沌のリス)の下にHPとMPと共に表示される。


 ちなみに、なぜあおいのキャラクターネームが混沌のリスなのかと言うと、かつて友達から雰囲気が小動物というかリスっぽいと言われたからなのと、なんとなく混沌って闇属性っぽくてかっこいいと思ったからなのだが、後者に関しては中二病過ぎたかと今となっては少し後悔している。

 本人は気づいていないが、混沌という物々しい強大な力を感じさせる言葉と、非力さを連想させるリスとの組み合わせは不格好で笑いを誘う一方、他のプレイヤーから親しみを感じさせる一面もあった。


 「よし、じゃあ行こう!」


 ゲームの中だけの関係であっても、仲の良い友達がいるのはとても楽しいし、安心する。ネトゲ廃人が言う言葉ではないかもしれないが、ゲームには良いところもいっぱいあるのだ。

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