2話 生きるための『努力』
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僕は自分の住処に戻るなり、いつもの日課に取り掛かる事にした。
僕の日課とは、村の近くに生えている魔草や魔茸など採取して、それを魔素と物体に『分解』することだ。
因みに僕は、現在実家から勘当されており、食べるものを自分で手に入れなければいけないのだ。
故に生き残る為には、今の日課をこなす必要があるのだ。
そして何故、魔草や魔茸を分解しているかというと、基本的に『魔』と名が着くものを人間が口にする事は出来ないからだ。
もし口にすればたちまち激しい眩暈や、吐き気に襲われると言われている。
因みに僕も勘当されて食べるものに困った際に、誤って魔草を口にして酷い目にあった事がある。
あれ以来、魔草を見るだけで寒気がするんだけど、それ以外に食べられるものがないから仕方がなく採取しているのだ。
しかし厳密に云えば"僕が何もせずとも食べられる植物は生息している"のだ。
...だがこの村の周辺で生息していて、かつ人間が口に出来るものは全て村が管理しているのだ。
そしてそれを勝手に採取したら即お縄になるのだ。
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この世界の常識では、勘当されたら”旅に出るか”それとも”死を選ぶか”の二択と云われているが、僕のような弱者が村から離れたら、間違いなく魔物に殺される。
故に"死を選ぶ"しか道は残されていなかったわけだが、当然自分から死にたいと思う人間がいるわけがない。
だから僕は、自分で生き残る新しい道を探したのだ。
そしてその結果見つかった方法が、この『分解』だ。
最初は魔草も食べ続けたら、耐性がついて食べられるようになるかも知れないという無茶な実験から始まった。
...まぁ結果は、言わずもがな吐しゃ物しか生まれなかった。
次に『茹でたり』『煮たり』『焼いたり』してみた。
...その結果は"紫色の液体や煙を発生させる機構を生み出した"だけだった。
結果なにも実らず、全てを諦めた。
そして暫く何も食べていなかったせいで、僕の体力は限界に近付いたようだ。
このままでは不味いた思った僕は、咄嗟に近くに咲いていた魔草を手に取り、口に運ぼうとしたが、食べるのやめた。
...大人しく死のう。
そう思ったんだ。
そして次第にふらふらする頭の中で、ゆっくり走馬灯を流れ始めた。
...流れ行く走馬灯の中では、何故か一度神官に『錬金術師』について問い出したシーンを思い出していた。
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「---錬金術師って何が出来るんですか!?」
「...申し訳ないけど、僕には錬金術師について知っている事は何もないんだ。...そしてそれは、誰に聞いても同じ事を言うと思う...」
神官の青年は、本当に申し訳なさそうな顔をしながら、僕にそう教えてくれた。
「...じゃ、じゃあ僕の存在価値って...」
この世界の仕事は全てジョブによって選ばれる。
故に何もする事が出来ない僕は、この世界から隔離されてしまったのだ。
その場で絶望した僕に、神官の青年はある事を僕に教えてくれた。
「...これは誰にも言わないで欲しいんだけど、僕の所属する教会には古くから伝わる昔話があるんだ」
...昔話?
いきなり何を話してくれるんだ?
「...大昔、教会に黒い外套を羽織った謎の男が現れたんだ。その男は教会の中央に最奥まで進むと、唐突に両手を地面に触れて何かを発動したらしいんだ」
「何かを発動?」
「そう、それがスキルなのか魔法なのかは分からない。...だけどその瞬間何かが『壊れた』そうなんだ」
「...?」
「何が壊れたのかは分からないそうなんだ。...ただ教会全体に彷徨っていた不思議な存在が霧散したような感覚に陥ったみたいなんだ」
「そして何かが壊れた事を確認した男は、徐に教会を去ろうとしたから神父が止めたらしい。"何をしたのか"、"貴方は何者なのか"...と」
「そしてその男はこう答えたそうだ。"杜撰な神々に喧嘩を売ったのだ"と、...そして"私は『錬金術師』だ、可能な限り後世に語り続けよ"とね。...だからこの話を知っている教会関係者は、君の存在を嫌うかもしれない。けれど僕には、君にはそんな事は関係ないと思う。...だから今の話を何か役立ててくれ。僕に出来るのはここまでだよ」
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...僕が思い出せたのはここまでだ。
それ以降の記憶は失われていた。
当時の僕はまだ10歳で、あの話からを何かを得る事は出来なかった。
それでも今は風前の灯火だからだろうか、彼が何をしたのかが分かるような気がしたのだ。
...彼はきっと何かを"消滅させた"...いや違う。それだと『霧散』という表現はおかしい、では"蒸発させた"のか?...これも違う気がする。
薄れ行く意識の中、僕はまだその正体を推理していた。
...霧散ということは、何かの集合体が...何かの力によって、結束していた力を失ったという事...だから.........『分解』...?
...そして、僕はここで意識を失った。
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それから暫く経ち、何故か死に損なった僕の手には『ただの草』が握りしめられていた。
大幅修正致しました。