▼03.雪囲い
空はやうやう白く。風はめためた寒い。
冬の寒さが本格化して久しい今日この頃。山の頂上のあたりがうっすらと雪化粧されているのを確認したお父さんが雪囲い(人によっては冬囲いと呼んだりもする)をすると言い出したため、僕と嗣深はその手伝いをしていた。
「行くよ、二枚運びだ……!」
「ひゅー、やるねつぐにゃん!」
「くくく、僕が男の子だということを証明してやるぜ……!」
ちなみに、雪囲いというのは、雪国で雪が本格的に降る前に、家の窓などを防護するため木の板などで封鎖する事を言う。
これをしっかりしておかないと、本格的に降り始めたら1mとかを平気で超える雪が道路に積もるので、屋根から落ちてきた固まった雪とかが窓にぶつかった拍子に割れたりして大変危険なのである。
東北の田舎が広がる山地であるこの鳴海では毎年恒例の儀式だ。
「義嗣、危ないから一枚ずつ運ぼうね?」
「ぷえー」
僕の身長よりも大きな板を二枚まとめて運ぼうとしたら、二枚ともひょいっとお父さんに持っていかれてしまう。
くっ、男の子らしいところを見せてやろうと思ったのに。
身長が178もあって体躯も良いお父さんは、僕が割と顔を真っ赤にしながら運んでいた板を軽々と運んで行くのを複雑な顔で見送る。
それにしても作業着越しでも分かるガタイの良さだ。うちのお父さんただのフリーライターの筈なのにあの筋肉はどうやってつけたのだろうか。やはり筋トレか。筋トレなのか。
欠かさぬ筋トレがムキムキを作るというのか。僕も毎日ちゃんとやってるのに全然身長伸びない上に脚以外には筋肉も殆どつかないというのに。
「さぁつぐにゃん、私が用意したこれを二人で運ぼう」
「うーむ仕方ない。まぁどこかぶつけたりしても危ないしね」
お父さんの背中を見ながら一人で考え込んでいたら、嗣深が新しい板を持ち上げて片側の端っこをこちらに差し出してきたので、服を汚さないように注意して受け取ってから運び始める。
それにしても毎回思うのだけれど、この板って半分くらいに切ったら盾として丁度良い大きさなのでは?
僕が持つと半分に切っても身長よりちょっと低い程度だからタワーシールド的な感じになりそうだ。
これを左手に持って、右手に大剣的な物を持って、フルプレートメイルとか着込んで戦いたい。
何と戦うのかとかは訊いてはいけない。男の子の浪漫である。
「ねぇつぐにゃん。この板、半分に割ったら盾によさそうじゃない?」
「まさしく僕が今考えてた事を言うのやめてくれませんかね?」
双子だからとはいえ、こういう時に大体嗣深と僕の考える事は一緒だ。
まぁ小さい頃から一緒に居て、似たような物ばかり好んでいた故に当然といえば当然だけれど。
「やっぱり考えるよねー。大盾は浪漫だよね!」
「浪漫だねー」
「大盾二刀流、いや、二盾流をしたいよね」
「攻撃どうするのさ!?」
訂正。まったく同じことを似ていなかった……!
「大盾二個だよ!? 浪漫の塊だと思わないの!?」
言われて想像してみる。
ゴツい、全身が隠れるほどの大盾を二個構え、全身鎧に身を包んだ騎士が、シールドを構えて突撃してくる姿を。
「……すごい浪漫だと思う!」
「でしょー!」
トリケラトプスがティラノサウルスに勝っちゃうみたいな浪漫があるね。
実際の戦場では圧し斬る大剣よりも、刃毀れも気にしなくて良いし鎧の上からでも有効打になるメイスとかが主流だったというし、大盾での突撃とか最早、これは最強と言っても過言ではないのでは……?
「大盾は最強の武器だった、というわけだね、嗣深!」
「いいえ、どう考えても大盾は防具だと思いますつぐにゃん」
「君が言い出したことじゃありませんかね!?」
僕の叫びに、嗣深は何故か「困ったお兄ちゃんだなぁ」みたいな顔で肩をすくめてきた。
解せぬ……。