第45章 複雑怪奇な上地一家
第45章 複雑怪奇な上地一家
しかし、お宅の話が事実だとすると、上地親子はどんな家庭なの・・・・
紗枝のあの言葉が今も心に残る。
“貴瑛お姉ちゃん・・・可哀想だもんね!!”
“紗枝が独り占めしちゃ・・・・・!!”
“お宅と貴瑛ネエ・・・お似合いよ!”
あれは、本心から・・・それとも私をひき付ける為の方便!
ちょっと待って、本当に紗枝ちゃんの誘拐は嘘なの?
あのお宅の言葉が引っかかる。
本当に紗枝ちゃんの体には、ICチップが埋め込まれているの?
IQ195は本当の事なの?
だとしたら・・・・、あの子の狙いは何?
それに、母親の枝美子は生きているの・・・・?
もしも、その条件が揃えば紗枝ちゃんの失踪(誘拐疑惑)も頷ける。
それとも、翔市が刺された様にソフトを狙った輩の犯行・・・・
その魔の手から逃げるために姿を隠した・・・??
ああ、わからない・・・・
一方貴瑛の父親桜井宗太郎は、気になる事があった。
紗枝は自分の孫では無いかと、数名の腕利きの探偵に調査を依頼していた。
宗太郎は、浦安へ壮大なプロジェクト、そう、ディズニーランド計画が持ち上がり、そのチャンスをうまくつかんで財をなした。
ディズニーランド建設予定地を、早くから政治家から情報を買い、投資していた。
それが、桜井コンツェルン、そう桜井家の繁栄の源だ。
しかし、宗太郎自身は家庭には成功したと言えるかは甚だ疑問だ。
桜井貴瑛は、再婚した後に出来た子だ。
先妻はその当時の宗太郎の非情とも言える行いに、
地元漁民から相当誹謗中傷され、逃げるように家を出た。
その時1人娘を連れて・・・・・、何れかの地へ・・・・
それが、紗枝の母親枝美子ではないかと閃いた。
いや、そう確信したのだ。
“ネエ・・・叔父さんたち・・・!”
「うん・・・」
“私を施設に入れるために来たのでしょ?”
「・・・・ん・・・まあ・・・この病院の事もあるからね!」
“それよりも、貴瑛お姉さんを私からどかしたいのでしょ!?”
「えっ・・いえ・・まあ・・そう言う事になるかな・・・!!」
“大人は素直が一番よ!”
「えっ・・はい!!」
その時の紗枝の言動、しゃべり方声の質に何故か懐かしい思い出が、
始めは、苦々しい思いでじっと事の成り行きを見守っていた宗太郎。
だがどんどん、それが少しずつ確信へと変わっていく自分に、
どうしようもない好奇心が、湧き出てきたのであった。
“わかっわ!!”
“貴瑛お姉ちゃん・・・可哀想だもんね!!”
“紗枝が独り占めしちゃ・・・・・!!”
「えっ・・・・・」
“私施設に入るわ!”
「そう・・・それが・・いいね!」
“うん・・・、でも、条件があるわ!”
「なんだい・・・その条件は?」
“それは、1週間に1回はパパに会わせて!”
“それと、なにかあったら、直ぐに知らせて!“
「それはもちろん・・・大丈夫だよ!」
“あれは・・・・あの紗枝と言う娘は私の孫だ“
あの晩、ベッドに入りあの娘(孫)と交わした一言一言が、今・・・・
宗太郎にとって、かけがえのない一瞬(ひと時)であった事を、
何度も何度も瞑想する。
“どうして・・・・あのまま放置したか、悔やんでも悔やみきれない!”
その後に誘拐事件が起きてしまって、どれ程悔やんだ事だろう。
何故、もっと・・・・・何とか出来なかったのか・・・
あの後、看護師から聞いた話では、
『翔市の病室に戻り準備を始めた!』
『そして、その翔市の病室で、紗枝は泣いていた。』
と・・・・・・
ああ・・・・悔やまれる。
今の祖太郎にとって、お金ではなくそういうものが、
今の宗太郎の命より大切だと確信している。
金はいくらでも得る事が出来る。
しかし、失った物ほど大きく、非常に大きく感じられる。
あの時は、
去る物は去れ!
俺に歯向かう者はいらぬ!
とっとと消え失せろ!
人間得た物は当たり前になり、失ったものほど非常に惜しく、
想うものなのだろう。
特に財を成した者にとって・・・・・
逃げ去った妻も今愛おしく想うが、より一層に孫が非常に愛おしい。
もしも、金で何とかなるものなら・・・・・如何程でもかまわないと!
持ち論、後妻の娘である貴瑛も、可愛くてしょうがないが、
何故か宗太郎に懐いてくれない。
が、しかし遠い者ほど愛おしさが格別に違う。
年のせいか、時折2つのディズニー施設をその前のホテルのスイートで、
一人望遠鏡で密かに、楽しげに寛ぐ親子を見て自分を救っている。
そう、寂しい心を・・・だ!
こんな姿は決して人には見せない。
勿論、貴瑛にも・・・だ。
もしかすると、その姿、振る舞いを貴瑛が見れば、貴瑛の心も変わる事だろう!




