第41章 事件の回想-1
第41章 事件の回想-1
翔市はあの後、救急隊によって、近くのS大学病院に搬送された。
救急車内で一時心肺停止状態になったが、蘇生した。
とにかく瀕死の状態である。
緊急オペが行われ無事終了、だが出血が多く、輸血は4パック以上
10単位を使った。
ICU(集中治療室)で24時間監視体制だ。
とにかく、相当にヤバイ状態だった。
紗枝の名前を聞くのがやっとの私服警官、
そこへベテラン看護師岡本涼子が紗枝の心に上手く入り込み
名前、住所、何処から来たのかを上手く聞き出す。
「紗枝ちゃんとお父さんは、何処から来たの?」
勿論、翔市の所持品はすべて調べてあり、住所・氏名・年齢等は、
情報としてつかんでいるが、はっきりと何処から来たのか知りたかった。
もちろん、ディズニーランドの入場券、宿泊の予約情報も、だ。
「おうち! 新幹線で! 秋田から!」
と的確な言葉で気丈に話している。
刑事や看護師は、紗枝の大事にしているリュックが気になる。
それをベテラン看護師が、すかさず上手に聞いている。
「紗枝ちゃん、その中見せてもらえるかな?」
「うん・・!! どうして?」
「紗枝ちゃんの大切な物だよね! とっても!」
「そうだよ! 紗枝のすっごぉく、大切な物!」
「そうなんだ! それで・・・どんな物が入っているか聞いてもいい?」
「うん、いいよ!」
やっと、了解を得て見せてもらう事に・・・・
その中身は、お菓子など、そしてミニPCが1台あった。
そのミニPCはわずか1kg程度にハード160G、
ウィンドウズXPが挿入された優れものが、
世に出回っている事はすでに承知だ。
そのミニPCはネット、動画、等ほとんどノートPCもしくは、
デスクトップPCに引けをとらない優れものだ。
その、ミニPCが今回の事件の大きな鍵を握る。
パパがママの代わりを、その操作を行っていた。
一方貴瑛は、上地親子の様子を観察するために、ディズニーランドにいた。
それもミニーの格好で、上地の親子が来るのを待っていた。
翔市が親子の会話をあえて、貴瑛に送っていた。
その真意を掴みたいのと、上地親子の姿をこの目で見たいと言う好奇心が
自分の父親に無理を言って、衣装やサプライズハプニングを用意していた。
だが上地親子は時間になっても来なかった。
携帯のニュースをチェックして、翔市が刺された事を知り、
現場に向かった。
容疑者扱いされるのを覚悟の上で。
警察は犯人の手掛りを殆ど掴んでいない。
そして、現状に残された犯人の遺留品は、ナイフ1本のみで、
余りにもスマートに犯行を行いあの混雑の中、目撃者の特定も出来ない。
秋葉原の無差別殺人の後だけに、不用意にみんな近づかない。
その為に犯人を見た人が少ない。
唯一可能性の高いのは娘の証言だけか・・・・
しかし、あのようなショッキングな状況から、
直ぐに事情を聞くのは無理だと言う事を、
医者からきつく刑事にストップが掛けられていた。
その紗枝ちゃんからの犯人像も、特別得られるものは殆どなかった。
そして、紗枝のミニPCに、ママからの新着メールがあった。
それは貴瑛からであった。
「紗枝、ディズニーランド、楽しかった?」
「パパは元気! 食事何食べたの?」
メールを開くと、文章とママの画像、そして今の文面をしゃべりだした。
刑事は事の次第を本部に連絡、パソコンに詳しい人間、鑑識を連れて、
上司である大友厳一がやって来た。
何とかあの子からミニPC借りる方法を模索中に、
看護師の岡本がやって来た。
紗枝ちゃんと、同じくらいの女の子を連れて・・・
岡本は事の成り行きを聞き、何とか紗枝ちゃんから借りる事が出来た。
「うん、いいよ! 看護師さんなら・・・・・」
「ありがとう・・・紗枝ちゃん!」
紗枝から預かったミニPCと、アドレスサーチ機能のついたパソコンを接続して
発信元を突き止めた。
が、そこでメールの発信元に疑問を持った。
それが、秋田ではなく、東京都に在住の女性23歳と判明した。
そして、相手先に送ったメールは・・・・
「あなたの目的が知りたい!」
「上地翔市の代わりに、どうして・・」
「娘に・・・母親の代わりにメールするのか?」
「連絡至急・・・されたし!」
「只今傷害事件捜査中である!」
「***警察、大友源一」
以上が、桜井貴瑛に送ったメール文だ。
15分ほどして・・・・・、何と、メールが届いた。
もちろん警察のパソコンに・・・だ!
貴瑛からのメールの内容は以下の如くだ。
「紗枝ちゃんの事を思って、続けました。」
「あくまでも・・・彼女の気持ちを、考えてです!」
「上地翔市さんとは面識がありません!」
「パソコンだけのメール交換です!」
「今、そちら・・・・病院へ向かいます!」
「30分ほど、後に!」
「おい、このオンナ・・・・凄い度胸があるな!」
「そうですね・・・」
「こうなる事もう既に・・・察知していた様子だ!」
「まあ・・・悪いことはしていない!? かな?」
「どうして、また変わりにメールなんかしたんだ!」
「それは・・・・紗枝ちゃんが悲しむと思って・・・」
「でも、どうして変わりにメール出来たんだい?」
「それは・・・父親が少しずつ送って来たんです!」
「何を・・・かね?」
「データです。あらゆる・・・」
「母親の音声データ、娘のメールアドレスなど・・・」
「ほう・・・それは何故かな?」
「そう簡単には、説明出来ないものがあります!」
「まあその話は後にして、単刀直入に聞くが!」
「私を・・・犯人と関係が・・・・?」
「何か知っている・・じゃないか?・・・と言う事ですね?」
「まあ一応そうなるかな・・・・・」
「そして・・・、私の今日の足取り知りたいですよね・・・警察として!」
そして、桜井貴瑛の存在が明るみになり、自らやって来た。
犯人と言うより、上地親子を思う気持ちだったようだ。
第42章 事件の回想-2
周りの話からの犯人像とは全然一致しなかった。
まあ・・・強いてあげるなら内情を知っていると言う事か・・・・・
まず犯人ではないだろう。
直ぐにそう思える事がいくつかの調べでわかった。
ただ犯人に繋がる情報が、得られる可能性は高いと思われる。
「そうだな! すまないが今朝起きてからの事、順を追っていいかな?」
「それでは・・・・・」
と、朝起きてから順に述べてくれた!
5時10分起床
翔市からのメールが届く
“自家用車で秋田駅まで行き、新幹線始発で、東京駅に着く・・・と”
“そのままディズニーランドに直行のはずだったが・・・・“
貴瑛は準備に取り掛かる。
そう先にディズニーランドに行き、入場記念のイベントを行う準備。
そこでミニーとして登場して上地親子の来園を待っていた。
貴瑛の父親は、ディズニーランドの大株主だ。
で、その力でミニーの衣装を借り、それを着用する事を承諾させ、
イベントの了解を上層部に取る。
予定していた時間になっても、親子が現れないので不審に思い
携帯でニュースを見て、翔市が刺された事を知る。
救急隊へ、家族と偽り搬送先を聞く。
そのまま急遽S大学病院へ行く。
ICUに運ばれた事は知るがそれまでが限界
彼の病状を知るには、娘とメールで聞こうと思い家に帰る。
そこで、メールで母親に成り済まして聞く事にする。
そして警察からのメールが届き決断した。
説明して誤解を解こうと・・・そう決めて病院へ向かう。
何故か翔市の事、紗枝の事が気になった。
理由は自分でも不明だ
ここまでが、今日の貴瑛の行動だ。
その話をメモしていた刑事の一人がいつの間にか消えた。
裏づけを取りに・・・・だろう
斉藤刑事が主体となって貴瑛と話を続ける。
斉藤刑事の上司である大友刑事は、無言で傍観者的な立場に・・・
どうやら全体像を頭脳明晰な頭で、フルに思考をめぐらす。
斉藤刑事の方はどうやら頭脳派と言うか、
物事を体で感じる、そして行動するタイプらしい。
先程メモを取った若い刑事に同行したい感じがありありと伺える。
それを、目で・・・視線で大友刑事が止めた。
現在の状況を一番知る人間だからだろう。
それにどうやら、目の前の被疑者(参考人)と意見が合いそうだ。
その事を素早く察知して無言の統率力を発揮している。
そして、貴瑛と翔市の経緯を彼女に話させる。
警察側がこの様に丁寧な接し方も理由があった。
それは勿論貴瑛の父親だ。
父親は身元調査で、一部上場の役員である事を調査済み
上層部から、くれぐれも失礼の無いように注意されている。
警部は、貴瑛と被害者である上地翔市さんとの経緯を聞いた。
それが1通の間違いメールからによる事、
そしてその間違いメールが続いた事の原因、
翔市の間違いメールを送る理由を聞いて不思議に思った。
特に3通目のメールが気になった、娘に送ったメール。
それに貴瑛が、娘の代わりに返事を書いた事の理由を・・・
それは悪戯心?好奇心のような物だと・・・・
相手、翔市が間違いに気づき、それに対する返事のわけを、
娘になり済まして、メールを返したのかで、彼ともめた事も・・・
それからも、メールはあえてそ知らぬふりで親子の会話も含めて、
送られて来た事を貴瑛は話した。
貴瑛は、その原因はわからないと言う。
そんな折に患者が急変した。
どうやら賊が翔市の命を狙ったらしい。
ICU内の監視装置に細工をして、翔市を心停止にした。
が、何とか蘇生はしたが、その後昏睡状態になり、
翔市は、9割方植物人間となってしまった。
それは、警察・病院の状況判断が甘かったのだ。
今までの状況から、患者は徐々に良くなって行くものとばかり、
思っていたのに・・・・・
呼吸は安定しているが、患者が覚醒するのは神のみぞ知る、であった。
それと、先ほどの状況から貴瑛が犯人の可能性はほぼ無くなった。
そして、今の状況病変を傍でじっと聞いていた・・・
それは貴瑛にとって何故か、他人事には思えない、
何か不思議な感情が・・・
刑事は、先ほどの不祥事を病院側に事情を聞くと共に、
簡単な事件でない事を実感し、翔市の身辺事情をさらに詳しく調査する事、
ICU病室の前、そして病院内に警官を配備した。
少し落ち着いた所で、先程の話を戻して貴瑛に質問を、
娘さんの返事と翔市さんの会話を両方載せて、
内容がわかるようにして、貴瑛宛にメールを送って来た。
それもかなり長い期間。
「ほう・・・それは・・・・何故だと思います? あなた!?」
「わかりません!」
「そうですか・・・でもそれは、故意的に・・・ですね!」
「あなたは・・何故だと思いましたか?」
と、そこの所の質問を繰り返した。
「わかりません!・・・・全然!!」
「そうですか・・・・!」
お互いに真意は理解している様だ。
だが言葉には出さないが目で・・・
お互いのアイコンタクトで・・
「そして・・あなたは上地親子が・・・ディズニーランドに行く事を知った!」
「はい、そうです!」
「日時も、行く新幹線も・・・・宿泊先も!」
「はい!!」
「えっ・・・それって私を・・・・」
「まあ・・・そう興奮しないで・・・」
「特別な意味はありません!」
「私は事実を申したまでです!」
これが、刑事の仕事? でも本人は不愉快だろう・・・
「でも私に可能性があるとでも?!」
「いいえ! 先ほどの状況からそれは、無いと思われますが・・・!」
「警察としましては一応・・・」
「それじゃぁ・・・私に彼を刺す動機は?」
貴瑛への警察官の態度が気に入らない。
「そう興奮しないで下さい。その事はもう別の次元です!」
慌てて、貴瑛をなだめる。言い過ぎたと心から反省しているようだ。
どうも最近の警察官は遠慮がない。でもこれが仕事か!
「どうか、気を悪くしないで下さい。先程は失礼しました。」
一瞬、ムカッと来た貴瑛、一応平静を取り戻し、
「私の、知る事は全てお話します! ほかに聞きたい事は・・・・」
「どうぞ、続けてください!」
「すいません、貴方を疑っての事ではないのです!」
「事実を、我々の知りえていない情報をお聞かせ下さい。」
「先程の御無礼、お許し下さい!」
「わかりました、では、何なりと!」
「では・・・」
「貴瑛さんあなた・・・何か心当たりは?」
「そうですね・・・疑問がいくつかあります!」
「それは・・・何ですか?」
「それは・・・・私に親子の会話をわざと送って来たのか・・・です!」
「そう言われると・・・・・ねえ・・!」
こんな、話が警察と貴瑛とで交わされていたのであった。
そして、大友刑事部長が話しに割り込み、桜井貴瑛のメールを、
全て見せてもらい、貴瑛の警察への全面協力が実現した。




