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茶髪男と黒髪女の恋物語

この物語は

ブログに連載されたものを

まとめて投稿しています。

25話に別れていますので

文脈が重複する部分がありますが

ご了承ください。


「ロフト付き は、おもしろい」

http://a123.noblog.net/

に連載されたものです。


今日サンダーバードの始発に乗って

金沢に行ってきました。


朝5時に起きて

大阪に向かい

サンダーバードの7両目に

並びました。


15分くらい経つと

金沢行きサンダーバードが

ホームに入ってきました。

私は乗り込んで座ると

筋向かいの席に

この物語の主人公のモデルとなる

茶髪男と

清楚な感じの黒髪女が走るように乗り込んできて

座りました。


しばらくすると

黒髪女が

立って

電車の入り口まで行きました。

その後を追って

茶髪男も

入り口まで行きました。


黒髪女は

少し目を拭くような仕草をして

何やら話しながら

手を振りました。

こちらからは

茶髪男の様子は

わかりませんでした。


ドアが閉まるアナウンスが流れると

男は席に戻ってきました。


黒髪女は

また目を拭くような動作をして

茶髪男に

少し笑みを浮かべながら

手を振っていました。


そして

茶髪男が

座ってる席の外で

出発を待っていました。


茶髪男は

軽く手を振るような仕草をして

いました。


電車ゆっくり出発し始めると

男はすぐ横になってしまいます。


私が見ていると

黒髪女は

電車を少し駆け足になるまで

追いかけていました。


最後も目を拭くような動作です。


それから男は

2時間半あまり

横になったまま寝ていました。

金沢についても

なお茶髪男は寝ていました。


電車の外から見ていると

茶髪男は

空になった

電車の中で

まだ寝ていました。


もっと見ていたかったのですが

私も先を急いでいたので

どうなったかわかりません。


それだけの顛末ですが

一連のこの状況には

大きな物語があったりして、、、、


それで

想像をたくましくして

考えてみました。


これからの話は

全くのフィクションですので

お忘れなく。



黒い髪の女は

名前をあずさと言います。


あずさは

大阪の近郊の

園田のアパートで

一人暮らししていました。


彼女の実家は

すぐ近くにあったのですが

一人暮らしがしたくて

ロフトのあるアパートに

引っ越ししてきたのです。


あずさは

大阪の

北にある

デザイナーズブランドばかり扱っている

服飾店に勤めていました。


土曜日の朝は

オータムフェアのために

早出で

朝6時に出勤しました。


店の模様替えもあって

少しいつもより

ハードな一日でした。

昼の三時に

一様彼女の

仕事は終わり

服を着替えて

少し休憩室で

コーヒーを飲みながら

友人が

買ってきたお土産を食べながら一服していると

店長が部屋に入ってきました。


いやな予感が

あずさにはしました。

店長の方は見ないようにしたのです。


でも店長と目が合ってしまいました。


すると

店長は

あずさの方にやってきて

「遅番のものがひとり

急に熱を出してしまって

休むことになってしまったんだ。

あずさ君すまんが

5時から

店に入って欲しい。

お願いだから、、、

夜食付きにするからお願いだ。」

と言ったのです。


あずさは

別に用事はなかったけど

オータムフェアで忙しかったので

断りたかったのです。

でも控えめで

優しいあずさは

断れなくて

引き受けてしまいました。


これがこの物語の始まりです。



あずさは

店長に頼まれて

夜10時までの

勤務に就きました。


その土曜日は

忙しくて

ようやく客足が減ったのは

10時ちょっと前で

店を閉めて

整理し後片付けが出来たのは

11時になっていました。


店長は

あずさに

夜食付きと言っていたので

店の店員を連れて

少し有名な

近所のお店に

それから向かいました。

あずさは

空腹かどうかもわからないくらい

疲れていましたが

こんな機会は

あまりないので

レストランについて行きました。


レストランに着くと

店長や他のみんなは

終電が気になって

さっさと食べてしまいました。


そして

店長は一番早く

全部のお金を払って

先に帰ってしまいました。


他のみんなも

終電が気になったのか

それとも疲れているのか

「お先にごめんね」と言って

帰って行きました。


後に残された

あずさは

ひとりで

まだ食べていました。


あずさは子供の時から

「よくかんで

食べるんですよ」と言う

言いつけを守っていたのです。


ようやく食べ終わって

店を出たのは

12時前でした。


12時半前が終電ですので

阪急梅田駅に

歩いていきました。


阪急梅田駅に着くと

あずさは

定期を

鞄から出そうと

チャックを

開けようとしました。


この時考えも出来ないことが

あずさに起こってしまうのです。





あずさが

疲れていなくて

眠くなくて

そして

満腹でなかったなら

こんな失敗はしません。


でもそうではなかったあずさは

鞄のチャックに

爪を挟んでしまうのです。


それほど伸ばしてはいなかったのですが

職業柄

少し伸ばして

きれいにマニキュアを付けていました。


あずさは

少し慌てました。

チャックから

爪がとれないのです。

強く引っ張れば

とれるでしょうが

爪がとれたら

困るので

そーとあっちにしたり

こっちにしたりしていました。


でも

少し慌てるアナウンスが流れました。

「西宮北口行き普通電車は

8番線よりもうすぐ出発になります。

御乗客のお客様はお急ぎ下さい。」


それを聞いた

あずさは

眠いし

疲れているし

満腹だし

その上爪が鞄と引っ付いてしまっていたので

もうなんだかわからなくなって

倒れていきました。


その時あずさを支えてのは

茶髪男でした。

その茶髪男は

洗いざらしの

青いティシャツに

破れたジーンズと

油の付いた靴を履いていました。


その出会いは

あずさにとっては

何でもないような気がしました。

何しろ

意識朦朧としていましたから。


遠くから自分を見るような目で

見ていたのです。





茶髪男は、

次郎と言います。


次郎は

石川県にある

超有名な会社の

下請け(本当は孫請け)

に勤めていました。


先週の月曜日から

大阪の現場で働いていて

今日は打ち上げで

大阪で飲んでいたのです。

寮が西宮北口にあったので

そこに帰る途中でした。


倒れようとしていた

あずさの後ろに

切符を買うために並んでいたのです。


行きがかり上

あずさを手で少し支えて

「大丈夫ですか」と

声を掛けました。


あずさは

もうパニックで

相手を確認もせずに

「この爪が、

チャックが、

電車が、

マニキュアが、、、」

とわけもわからず

言ってしまいました。


次郎は

酒飲み会と言っても

あまり飲まない方なので

冷静に

あずさを

観察して

爪がチャックに挟まっていることがわかりました。


次郎は

とても目がよかったので

どうして爪がチャックに挟まっているか

見ました。


そうしておもむろに

あずさの白い手を

右手に持ち

左手にチャックを持ちました。


突然手を握られても

あずさは意識がもうろうとしていますから

動じませんでした。


次郎は

チャックを右にするようにしながら

あずさの手を

右に回すように上げたのです。


あずさは

「あー」と

大声を上げました。


その声はあまりにも大きかったので

次郎や

付近にいた人達は

あずさの方を見ました。


続けて

あずさは

「取れた取れたー」

と叫んだのです。


周りの人は

あずさを

もっと見ました。


次郎も

もちろん見ました。

そして

あずさと次郎は

目が合って

笑ってしまいました。


その笑いは

段々と大きくなって

二人とも大笑いに

なってしまったのです。


これが

茶髪男と黒髪女の

初めての出会いです。



しばらく顔を見合わせて

なぜだか分からず

笑っていたのですが、

ふたりはハッと気がつきました。


ふたりは同時に

「電車」と叫びました。

次郎は

慌てて

切符を買って

、待っていたあずさと

手をつないで

改札を通って

8番線に上る

エレベーターへと

走った。


上ろうと

上を見ると

駅員さんが

旗を振って

×印を作っていました。


無情にも

最終電車は

ホームをガタンガタンと

音をたてて

出て行ってしまいました。


ふたりは仕方なく

また改札を出ました。


あずさ:

「ごめんなさいね。

私のために電車に遅れてしまって

本当にごめんなさい。」

次郎:

「大丈夫だよ。

大阪は慣れているから、

それよりタクシーで帰るの?」


あずさ:

「タクシーで

園田まで帰ると

夜間料金も掛かるし

5千円くらいかかると思うは、、

そんな金があれば

大阪で明日まで遊んだ方が

経済的かしら、、、」


次郎:

「それもそうだね。

じゃー僕も

パーと遊んでみよう。

一緒に行く?」


あずさ:

「行きましょう。

何か体を動かす遊びが良いな。

何か食べ過ぎたような気がするから。」


次郎:

「そうだね。

僕も飲み会で

食べ過ぎたよ。

ゲームセンターへでも行って

体を動かそう。」


と話して

大阪梅田の

歩いて近くにある

ゲームセンターに行きました。

そこで

モグラ叩きや

ボクシングゲームなどの

汗が出るゲームを

何回もふたりは

競うようにやっていたのです。


あずさは

十数時間も

働いた後なのに

そんな力がどこにあったのでしょうか。


いや別の力が働いたのかもしれません。

次郎と遊ぶのが

楽しかったのかもしれません。


一方次郎は

大阪の工場では

重労働です。

重い工具を

使って

重い機械の調節です。

土曜日の朝9時から始まって

夕方の5時過ぎまで

フルタイムで働いて

それから

飲み会そして

ゲームセンターですから。


次郎も

やっぱり若いので

がんばれるのでしょうか。


こんなふたりは

他のカップルもうらやむほど

仲良くゲームに興じていました。



あずさと次郎は

3時間近く

ゲームに興じていました。


最後に

モグラ叩きゲームをふたりでして

満点近くを出して

ふたりは

思わず抱き合って

飛び上がりました。


顔を見合わして

何も言わずに

ふたりは

ゲームやめて

ゲームセンターを出て行きました。


あまりにも

激しく体を動いたので

おなかがすいてしまいました。


それから

これも近くの

眺めの良い

レストランに入りました。


そこでふたりは

朝まで話し合うのです。


あずさ:

「もう眠たくないは、」


次郎:

「僕も、眠たくないよ

何故だろう

試験で徹夜したときなど

眠たいのに」


あずさ:

「そうそう

私もそう思うは、

あまり眠たくなると

眠たくなくなるのではないのかな。

それとも

別の何かの力かな。」


次郎:

「そうかもしれないな。

ところで

僕次郎と言うんだ。

君の名前聞いていないんだけど」


あずさ:

「そうだったわ。

名前も知らずに

遊んでいたなんて、、、

私の名前は

あずさよ。

よろしくお願いします。

次郎さんは

どこに住んでいるの

西宮北口?」


次郎:

「西宮北口は

会社の寮があるだけで

僕は石川県の金沢市

月曜日から

仕事で大阪に来ていたんだ。

今日の始発で

金沢に帰らないと

いけないんだ。

あずささんは

どこなの」


あずさ:

「私は兵庫県の尼崎市園田よ。

金沢って

遠いんでしょう。

始発って何時。」


次郎:

「金沢まで2時間半だよ。

確か7時10分発だから

まだ4時間近くあるから大丈夫だよ。」


あずさ:

「もう4時間しかないんだ。

どんな仕事をしてるの?」


次郎:

「あの有名な松井さんが

宣伝している会社の

下請けをしている会社で

機械の整備をしているの、

大きな機械だから

大変なんだよ。

みんなで力を合わせないと

いけないんだ。

あずさはどんな仕事?」


あずさ:

「何に見える?

私自身はかなり気に入っているんだけど、

何に見える。

ヒントはいつも立ち仕事だけど。」




次郎は

あずさの

仕事を聞かれて

考えました。


次郎は

眠い頭で

よく考えてみました。


あずさが言う

『立ち仕事』

と言うことから

美容師とか考えてみましたが

そんな風な雰囲気がないと思いました。


あずさが

黒髪であることから

気づいたことなんですが

大阪駅前にある有名な

電気店の店員が

黒髪ぞろいなので

そこの店員かもしれないと考え

「電気屋の店員」と

答えました。


あずさ:

「電気屋さんの店員?

なぜそう思うの?」


(少し言いにくそうに)

次郎:

「それは


、、、、、前行ったんだけど

電気屋さんの

店員さんが

全員黒髪だったので

違うのかな、

ごめんね。」


あずさ:

「そうよね

私も行ったは

みんな黒髪ぞろいで

少し驚いてしまいますよね。

黒髪は

欧米人が

あこがれているので

外国人の受けを狙って

黒髪していると

聞いたことがあるわ。

でも私は違うのよ、

電気屋さんではなく

服屋さんなの。」


次郎:

「そうなのか

服がとっても似合っていると思った」


あずさ:

「ありがとう。

そんな風に言ってくれなくても良いですよ。」


次郎:

「でも

似合っているよ。

僕の服装なんか

だめだよね。

他に何もないもんで、

この破れジーンズ

買ったときより

もっと破れて

夏だから良いけど

今日のように

少し肌寒くなると

考えないといけないナー。」


このズボンの破れが

ふたりの未来に

大きな出来事を起こすのです。




会話は続きます。


あずさ:

「私の勤めている店には

残念だけど

破れジーンズは売ってないわ。

店のものを着ると言うことに

なっているので

着たこともないの。

一度着てみたいわ

破れていると

寒いの?」


次郎:

「初めのうちは

そんなことはないが

ここまで

破れが進むと

夏は良いけど

冬は困るよね。

そんな

履きこんだ

ジーンズも

少し値打ちがあるように思うんだけど

そんな風に見える?」


あずさ:

「見える

見える

新しいのに

破れているより

古くなっている方が

価値があるよね。」


次郎:

「無理して言ってない?」


あずさ:

「そんなことないよー

服は全体の調和だから

茶髪に

そのティシャツ

そのズボンと靴

のコンビネーションが

良いと思うの。

よくコーディネートされているわ。」


次郎:

「ありがとう

やっぱり無理しているんじゃない。

、、、、」


(ふたりは顔を見合わせながら

段々と夜が白みかけてきた外に

目をうつします。)

あずさ:

「大分明るくなってきたね。

こちらは

西側かな」


次郎:

「そうかもしれないね

六甲が見えるもの」


あずさ:

「私の家はあの辺りかな。

そういえば見えるような気がする。」


次郎:

「えー、

どこどこ」


あずさ:

「うそーだよ。

アパートの近くからは

こちらのビルは見えるけど

こちらから見えるわけないでしょ」


次郎:

「そうだよね。

でどこら辺なの?」


(指を指しながら)

あずさ:

「あの辺りかな。」


次郎:

「でも見えるような気がするなー

どんなアパートなの」


あずさ:

「ほー 神通力か、

私のアパートは

藻川の川のそばにあって

六甲がよく見える部屋なんです。

夏の夕日が

六甲の山の上に沈むときの

夕焼けはすばらしいよ。

それから私のアパートには

ロフトがあるの。

便利なんだよ」


次郎:

「日本海に沈む

夕日もきれいだけど

部屋から見える夕日って

ちょっと贅沢かも。

ところで

ロフトって何なの?

お店の名前じゃないでしょ」


あずさ:

「ロフトはね

お部屋の上にもう一つのお部屋があるの

屋根裏部屋かな。

でも天窓があるし

天井も高いので

快適なんだよ。」


次郎:

「あーそうか

テレビで見たことがある

上にのぼるの大変じゃないの?」



あずさと次郎の話は

食べるのも惜しんで

続きます。


あずさ:

「違うの

のぼるのがそれほど大変じゃないのよ。

私のロフトには

互い違い階段というのがあるのよ。」


次郎:

「何それ?

『だからそれいいいかげん』って何」


(笑いながら)

あずさ:

「違うよ

互い違い階段よ

足をのせる段が

互い違いにあるの。

だから半分の長さで

上れるのよ」


次郎:

「おもしろそうだね

私も上ってみたいな。」


あずさ:

「だったら今からくればー

そんな階段ぐらいすぐ上れるよ」


(うれしそうだけど

少し残念そうに)

次郎:

「だめだよ

7時の便で

石川に帰らなければならないから。

残念無念、、、

またの機会でも良いかな」


あずさ:

「そうなんだよね

。 7時なんだから

今から帰られないよね。

またメールお願いね。」


次郎:

「そうだ僕たちまだ

メール交換してないんじゃない。」


(少し笑って)

あずさ:

「そうよね。

もうこんなに話し込んでいるのに

そうだったよね。」


(ふたりは携帯を取り出し

操作して

ふたりで

ピッピと

しました。)


次郎:

「これでいいぞ

またメールするね。

そして

園田に行くよ。」


あずさ:

「駅まで迎えに行くから

メールしてね。

あなたの住んでる

金沢って

兼六園で有名な所よね。

友達と前行ったことがあるわ。」


次郎:

「金沢と言ったら

兼六園ね。

でも僕の住んでいるところは

兼六園とは

正反対の方なんだ。

またきてね

金沢案内するよ。」


あずさ:

「行く行く

絶対行くよ。

案内してね。

今日はちょっと寒いね。」


次郎:

「そういえば今日は

冷えるね。

朝早いからね」


こんな話は

ズーと続きます。

ふたりの生い立ちや

友達のこと

仕事のことや

たまたま隣に座った

人のことまで

なんやかやと

止めどもなく

続きます。



窓から見える六甲は

ますますはっきりと見えて

明るくなってきました。


次郎は

始発に乗って帰らないと

先輩に迷惑が掛かるので

あずさと話しはしたいのですが

気が気ではありません。


少し時計を見ました。

そうすると

あずさの顔が

何か心配そうに見えました。


あずさも

時間が気になっていました。

そして次郎が

明らかに時間を気にしている事を

分かっていました。

それでもなお

話し続けたかったのです。

一度別れれば

もう決して 会えなくなるのではないかと

思っていたのです。

それで

話し続けました。


次郎はもう時計を見るのをやめました。


時間を

気にしながらも

あずさと次郎の話は

まだまだ続きます。


でも明らかに

時間が

7時前になったのです。


次郎は

「すまないが

もう行かなきゃ。

どうしても始発で帰らないと

先輩に迷惑が掛かるんだ。

絶対に、絶対に

メールするから、

また会ってね。」

と言ってしまいました。


あずさは

「ごめん。

引き留めて

早く行きましょ。」

と言うなり

ふたりは手を取りながら

駅へと

駆けていきました。


JR大阪駅まですぐの所でしたが

大阪駅が現在工事中のために

少し遠回りになってしまいました。


次郎は

乗車券を

あずさは入場券を買って

改札の機械を

走って通り過ぎました。


ホームまでの

エスカレーターを

手をつないで走って駆け上り

ホームに上がりました。


これまた工事中のために

金沢行きサンダーバードは

ホームの向こうの端に止まるのです。


あずさも次郎も

走らなければならないのが

苦にならないのです。


少しでも長く

一緒にいられるのが

うれしかったのです。


走って

サンダーバードの7号車

乗り込みました。


ふたりとも

空いていたいすの座りました。


でもアナウンスがあると

あずさは

立って外に出ました。


次郎も後を付いて

ドアの所まで

行きました。


ふたりは手を振りながら

「またね。

メールするね。

返事してね。」

と同じようなことを言いながら

別れを惜しんだのです。


あずさは

涙がほんのちょっとだけ

出ましたが

次郎に見えないように

手でぬぐいました。


次郎は

それを見ていました。


サンダーバードの扉は

無情にもしまり

走り出します。


あずさは

歩いて追いかけ

駆け足になるまで

追いかけました。


息が上がって

あずさは

立ち止まってしまいました。



あずさは

ホームに

立ち止まって

息を整えました。


それから

サンダーバードが行った方向に歩いていき

エスカレーターを下りて

阪急梅田駅に向かいました。


今度は爪を挟まないように

慎重にチャックを開け

定期を取り出し

7番線の普通電車に乗って

園田に向かいました。

9分しか かかりませんでしたが

睡魔が襲ってきました。


でも眠って

乗りすぎたら困るので

必死の起きていました。


園田に着いて

アパートまでの道は

夢の中のような気がしました。


部屋に着くと

素早くメイクを落とし

形ばかりに歯を磨いて

ロフトのベッドに

もぐり込みました。


4時からの遅番なので

3時に目覚まし時計を合わせることは忘れませんでした。


あずさは眠たいのに

ベッドに入ると

今日あったことを

思い起こしました。

次々と思い出して

嬉しくなってしまいました。


そんなあずさも

睡魔には勝てず

眠ってしまいました。



一方次郎は

席に座るなり

眠ってしまいました。

新大阪を過ぎて

車掌さんが検札にきましたが

眠っていました。


寝返りは打ちましたが

金沢まで

起きませんでした。


2時間半で

金沢にサンダーバードは到着しました。

次郎が乗った車両は

金沢で切り離しで

乗客はすべて降りていきました。

しかし次郎は

そのまま眠り込んでいたのです。


しばらくして

車掌さんが見回りにきました。

次郎を見つけると

「お客様金沢に到着しました。

この車両はここまでです。」と

二度言いましたが

次郎は起きません。


それで

車掌さんは

次郎を揺らして起こしました。


次郎は驚いたように起きて

電車を急いでおりました。

そのときに

ふたりにとって

不幸が訪れます。

破れたズボンのポケットから

携帯が

落ちてしまったのです。

なお悪いのは

携帯は

ホームじゃなくて

線路に落ちてしまったのです。


音もしなくて

誰も気付かなかったのです。



次郎はすぐに仕事場の工場に

出勤し

作業をしました。


電車の中で

2時間半あまり寝ただけですが

あまり眠たくもなく

5時の仕事の終わりまで

みっちり働きました。


仕事場では

携帯電話は

持ち込めない決まりになっているので

次郎は

気になっていたのですが

メールは見れませんでした。


5時に終わって

着替えをして

すぐさま

携帯を見ようと

荷物を探したのですが

見あたりません。


次郎は

「確かメールアドレスしたときはあったのに

それからどこへ行ったのだろう。

電車に乗るまであったように記憶しているのに

何故ないの?

何でだろー


そうだ俺の電話に

かけてもらおう。」と考え

先輩に

お願いしました。


そうすると

圏外になっているそうなんで

わからないけど落としたかもしれないと

考えてすぐさま

電話屋さんに急いで

同じ電話番号で

新しい電話を

買いました。


次郎は

ひょっとして

もうメールが来たかもしれない。

それにしても

相手のメールアドレスがわからないのは

いらいらする状態でした。


まっすぐ家に帰って

電話かメールが来るのを

待っていました。


次郎の母親は

珍しく早く帰ってくるので

「何かあったの」

と聞いたくらいです。


それにも答えず

次郎は二階のお部屋の中に入ってしまいました。


でもいくら待っても

かかってきません。

いつもは来る

メールさえ来ないので

つぶれているのではないかと考え

友達に何も用事がないのに

メールを出して

返事をもらったくらいです。


お布団に入っても

携帯を持って

うとうと と 朝までしました。



一方あずさは

目覚ましが鳴るまで

寝返りも打たずに

寝てしまいました。


あずさは

この時夢を見ていたのです。

明るい草原を

ゆっくりと歩いている夢で

満ち足りた

幸福感が

あるのです。


3時に

目覚ましが

何台もなると

あずさは

ロフトにあるベッドから

ゆっくりと

お部屋に下りてきました。


見ていた夢のおかげかどうかわかりませんが

何か

満ち足りた

充足感が

残っていました。


でも時間には勝てません。

シャワーを浴びて

身支度をして

冷凍してあった

食事を取ってから

お化粧をして

出かけていきました。


園田駅まで

いつものようにまっしぐらです。


途中の信号を

見ながら走っていきます。

今までの記録は

1分30秒でした。


この日は

ちょっと長目の

2分30秒です。


阪急園田駅に着いたら

すぐに電車に乗って

大阪に行きました。

それから

勤め先のお店まで一直線です。


お店の更衣室で

やっと一息ついて

電話を見ました。


もちろん

次郎からのメールが来ていないかのチェックです。


もちろん来るわけもなく

あずさはがっかりです。


「じゃこっちから出してみよう」

と思い

メールアドレスを探しました。

でもないのです。


あずさは焦りました。

何度探しても

携帯がなかったので

「あれは夢だったのかな。

起きたときは何となく

幸せな感じがしたのが

変だなと思っていたわ。


どうだったのかな

夢にしては

リアルすぎるような気がするし、

でも携帯で必ず

メルアドを交換したのに

あのとき確かピッと音がしたように

覚えているのに。

夢だったのかな。」

と考え込んでしまいました。


でも

爪を見ると

確かに傷があります。

「やっぱり夢でなかったんだ。

どうしよう

あっちから

連絡を待つしかないのかしら

あー

あー

あっー」

とため息が出てしまいました。



その晩は

もちろん直ぐ帰って

お風呂に入って

ロフトのベッドに

滑り込みました。


その日は寒かったけど

天窓を開けて

ベッドから

星を見ていました。


お部屋の電気を消して

外の星空を見ると

都会なのに

妙に星がきれいに見えて

メールアドレスをなくしたことで

涙が出てきました。


その日の晩は

寒くて

天窓からは冷気が下りてきて

余計にもの悲しくなってしまいました。


うとうとして

朝になりました。

でも朝になっても

もちろん次郎からの連絡はありませんでした。


あずさは、

その日は

休みです。


家でどこにも行かず

ボーとして

一日を過ごしました。

もちろん何回も

気にして携帯を見ました。


もうすぐ

あずさは

資格試験を受けることになっていたので

勉強しなければならなかったのですが

手につきません。


あずさは考えました。

「私が土曜日

いや日曜日が始まった時に

次郎に会ったのは

本当。

それから

あんなに仲良く

ゲームしたのも

本当の話。

そして

4時間弱

話し続けたのも事実。

もっと言えば

次郎が

私にメールを出すと

言ったのは

真実。

それから

次郎が

私に好意を持っていたのも

事実だと思うが、、、、

それは欲目だったの、、、

次郎は

社交儀礼で

『連絡する』と

言ったのかしら。


そんな風には見えなかったよー。

絶対私のこと好きになっていたのに

違いないと思うわ


でも何故何で

メールは来ないの。


そうだ。

そうだ。

あたしが

メールアドレスを

なくしたくらいだから

次郎もきっと

なくしたんだ。


そうに違いない

絶対そうだわ。

そうに違いない。


でもなー」

などと

あーでもない

こーでもない

と考えました。


そんなことを頭の中で考えても

役に立たないのに、、、、




あずさは

そんな意味もないことを

一日中考えて

その日は終わりました。


翌日から

普通のように働いてる

つもりでしたが

同僚や

店長からは

「どうした?」

と言う問いを

何度も聞くことになるのです。




一方

次郎も

あずさと全く同じ事を

自問自答していました。


同じように

同僚から

「どうした?」

と言う問いを

何度も聞くことになるのです。


木曜日の夕方

次郎は

先輩に

このことを相談しました。


先輩は

親会社の正社員で

博学で知られており

次郎は

人生の先輩と尊敬しいました。


先輩も

「次郎次郎」と言って

可愛がっていました。


次郎:

「土曜日の日

飲み会が終わってから

一晩過ごした

女の子がいるのですが

携帯をなくしてしまって

連絡が取れないんです。

どうしたらいいでしょうか。」


先輩:

「へー

お前は

見かけはいい加減なように

見えているけど

本当は

まじめなやつだと思っていたのに

見かけ通りのいい加減なやつだったのか。」


次郎:

「先輩

どういう意味ですか

僕はまじめですよ。」


先輩:

「だって

会って直ぐ

ホテルに行ったんだろー」


次郎:

「何を言ってるんですか。

ゲームセンターで

さんざん遊んだ後

レストランで

話し込んだだけですよ」


先輩:

「そうだったのか。

そうだと思ったよ。

お前は見かけによらず

まじめだねー。」


次郎:

「見かけによらずなんて

見かけ通りの

まじめですよ。」


先輩:

「ところで

相手の女の子は

どんな人なんだね。」


次郎:

「とても可愛い人なんですよ。

僕会った瞬間に

ビビッと

電気が走ったよ。

先輩取らないで下さいよ。」


先輩:

「そんなことを聞いていないよ。

それを聞いて

どうなるの。」


(少しニヤニヤしながら)

次郎:

「色白でね

髪は長くて

ぱっちりとした

目をしてるんです。

本当に可愛いんだから。

そんなこと聞いていないですよね。」


先輩:

「はいはい

モンタージュ写真を作るんじゃないんだから

そういうことじゃなくて

どこに住んでいるか

どこに勤めているとか

聞いていないの?」





次郎と先輩の話は続きます。


次郎:

「そうですよね。

その人の名前は

あずさと言うんですけど

梅田近くの服屋さんに勤めているそうです。


それから

園田駅から

歩いて直ぐ近くの

六甲の見える

ロフトつきのお部屋に

住んでいるそうです。


ロフトから

六甲がきれいに見えるそうです。

彼女と一緒に

見たいものです。」


先輩:

「服屋さんの

場所とか

名前とか聞いていないのか?」


次郎:

「聞いていません。

梅田近くとしか。」


先輩:

「梅田の服屋では

多すぎて探せんな。」

住んでいるところでやってみよう。

どんなところだって?」


次郎:

「高くて広くて明るいロフトが付いているそうです。

お部屋からは

六甲が見えるのだそうです。

駅から歩いて5分とも

聞いています。

そうそう

おしゃれな上りやすい階段もあるそうです。


ロフトは片付けなくてもいいので便利だそうです。

ロフトって片付けなくてもいいの?」


先輩:

「そんなこと聞くなよ

それでは

インターネットで

見てみよう。

ヤフーで

『ロフト付き アパート』

と打ち込んで

検索


オー出た出た

見ていくと


これって園田

高いロフト


オーこれだこれだ。


次郎きっとこのアパートじゃない

六甲も見えるし

高くて広くて明るいロフト付きで

園田から歩いて5分と書いてあるぞ」


次郎:

「そうですよね。

きっと」


先輩:

「電話で聞いてみるか。

名前なんて言うんだ。」


次郎:

「あずさです。」


先輩:

「そうじゃなくて

性だよ。」


次郎:

「えーと

えーとっ

何だったんだろう。

思い出せないな

聞いていないかもしれないな。

美人な人だから

きっと良い名前でしょうね。」


先輩:

「お前聞いていないのか。

何時間も話していたのに。

困ったな

それでは家主に聞けないな

下の名前だけで聞いたら

変だぞ

でも一回聞いてみるか。」


(先輩は

携帯電話を取りだし

ホームページに書いてある電話番号に

電話しました。

そして

あずさという名前の女性を

探していると聞いてみましたが

そこの家主は

個人情報の保護を理由に

答えてくれませんでした。)


先輩:

「ロフト付きからでは

調べられないぞ

そうだ

駅で待っていれば

出勤や帰宅の時に

見つけられるかもしれないぞ。

彼女の顔を覚えているよね。」


次郎:

「もちろん覚えていますよ。

あずさは

本当に可愛いんだから、

忘れるわけないじゃないですか。

先輩取らないで下さいよ。」


先輩:

「はい

はい

取らないって。

今度の日曜日でも行ったらどう?」


(先輩の助言で

何か明かりが見えてきたような

気がしました。

そして次郎は

あずさの住む

日曜日園田に行くのです。)



もちろん

あずさも

メールが来ないのを

手をこまねいて

時間が過ぎていったわけではありません。


あずさも

中学からの親友に

相談していたのです。


彼女はすでに結婚しており

子供ふたりもいたのです。

親友であり

人生の先輩でした。


土曜日の夜

あずさは

親友の家を訪れ

相談したのです。


ふたりは

ソファーに

隣同士に座って

話し合いました。


親友:

「何なの

急に相談があるなんて

何か大問題でも起きたの

私に出来ることなら

言って

あずさには私に結婚の時

お世話になりすぎたくらいだから。」


あずさ:

「そうねあの時は

相当手間がかかったわね。

大きく言えば

私がいなければ

あなたは結婚していないわ。

そのときの借りを返して欲しいの。

私土曜日の晩に

初めてあった人と

一夜を過ごしたの

でもね。」


親友:

「えー

えっー

あずさ!

そんなに早いの

私より早いじゃない!

それからどうしたの

まさか

私と同じで

子供が出来たと言うことではないでしょうね。

いやまだわからないか−。

どうしたのよ」


あずさ:

「何言ってのよ。

そんなわけないでしょ

ゲームセンターに行ってから

レストランで朝まで話し込んだだけ。

それ以上のものはないわよ。」


親友:

「ホント?

なんだそれ、、

もっと何かあったでしょう。

白状しなさいよ。」


あずさ:

「手をつないで

抱き合ったくらいかな。」


親友:

「もっとあったでしょう

キスをしたとか。」


あずさ:

「そんなことしていないわ

でもふたりは

そのときは

分かり合ったと思っていたの。

それなのに

連絡がないの。」


親友:

「それって

単にだまされただけじゃないの。

電話して確かめたら。

あきらめられるじゃないの。」


あずさ:

「それが出来るなら

やっているよ。

メールアドレスの記録がないの

だから連絡できないの。

どうしたらいいの。」


親友:

「相手の男の子は

どんな人なの」


あずさ:

「ものすごくかっこいいの

破れジーンズをうまく はきこなして

それが似合っているの

男の中の男って言う感じかな。

今でも

はっきりと思い出せるわ。」


親友:

「そんなことを聞いているのではないでしょう。」


あずさ:

「そうですよね

そんなこと話したって

わからないですよね。

茶髪でね

石川県に住んでるんだって。」

親友:

「エー

あなたが

茶髪の人と

お付き合いですって

何かの間違いじゃない

『茶髪はいや』と

言ってたじゃにの

あなたの黒髪に

似合わないじゃないの。」


あずさ:

「そうだと思っていたんですが

茶髪は似合う人と

似合わない人がいるんじゃないかな。

次郎は似合うのよ。」


親友:

「次郎って言うの

あなた遊ばれたんじゃないの。

お金を貢がなかった?」


あずさ:

「あなたと違うわよ

お金を出してくれたぐらいです。

ふたりは

愛し合っているのよ。」


親友:

「それなら連絡来るはずでしょ。

相手にはメールアドレス教えたんでしょう。」


あずさ:

「だから相談しているんです。」


(こんな話はまだまだ続きます。)





(あずさの相談はまだまだ続きます。)


親友:

「メルアド教えたのに

連絡が来ないの?

あずさのように

メルアドがうまく受け取れなかったというわけではないでしょうし。

やっぱり

残念だけど

あずさのこと何とも思っていなかったんじゃないの。

だから聞いただけで

出さないんじゃないの。

あずさの思い込みだけという事ね。

ごめんね

事実を言って」


あずさ:

「絶対それはないと思うの。

次郎は私のことを

絶対絶対好きになっていたと思うわ」


親友:

「はいはい

でも茶髪の

男前が

黒髪のあずさを好きになることは

少ないんじゃないの。」


あずさ:

「そかな〜

そんなことで

私を評価しないと思うよ。

私のすべてが

好きになっていたと思うわ。

例えば

次郎が

茶髪であったとしても

好きになっていたと思うわ。」


親友:

「はいはい

もうそれはいいわ。

のろけ話を聞いても

仕方がないし

ところで

何の相談だったの

おのろけ話しか聞いていないように思うの」


あずさ:

「だから言っているでしょ。

次郎と連絡出来ないって

どうしたら

連絡取れるかな?」

親友:

「どこに勤めているか調べたら

それから

住んでいる住所はわからなくても

最寄りの駅くらいわからないかしら。」


あずさ:

「松井さんが宣伝している

石川の大きな会社で

ちょっと前

住んでいるところが

大水が出て

浸水したとも話していたわ。」


親友:

「それよそれ

それを手がかりに

調べたらわ。

あなたインターネットが得意でしょう

それで調べて

駅で待っているの。

そうすればきっと現れるよ。

少し手間がかかると思うけど。」


あずさ:

「そうねそうね

それは良い考えだわ。

早速調べてみるわ。

ありがとう」


この言葉を言うなり

親友の家を後にして

アパートに帰ってしまいました。


園田のロフト付きのアパートは

インターネット付きだから

ロフトに置いてある

直ぐにパソコンを起動して

親友の言った様に調べてみました。


そうしたら

割と簡単に

彼が金沢のどの辺りに住んでいて

どこの会社に勤めているか

わかりました。


でもその会社は大きくて

事業所が

たくさんあるので

どこの事業所に勤めているかまでは

わかりませんでした。


もっともっと調べてみましたが

もうこれ以上のことはわからないので

明日は金沢に行くことにしました。




翌日の日曜日は、

肌寒く一日中雨の降る日でした。

次郎とあずさは

皮肉にも

同じように相手の所に行くことになったのです。


次郎は前の日から

切符を買って用意をしていました。

7時2分のサンダーバードで金沢に出発しました。

電車から見える

雨の景色は

何かもの悲しく

今日は会えないということを

予感させるようでした。


一方あずさの方は

前の晩考えすぎて

少し寝過ごした上

身支度に手間取っていました。


それに

それに親友が言った

「茶髪にしたら、、、」

と言う忠告が

気になっていたのです。

それで思い切って

茶髪にするために

時間がかかってしまいました。


10時頃にやっと髪が乾いて

金沢出発です。


雨の中

この前の服と同じワンピースを着て

出かけました。


傘を閉じて

マクドナルドの横を通り過ぎて

エスカレーターに乗って大阪に向かいました。


そのとき次郎は

園田駅を下りて

マクドナルドの角を

同じように曲がったのです。


あずさは急いでいて

前しか見ていなかったけど

次郎は

初めての園田なので

きょろきょろ

付近を見渡しながら

歩いていました。


次郎は

マクドナルドの角で

あずさを見ていたのです。


あんなに会いたかった人が

急いではいたといえ

直ぐそこにいたのです。

でも見つけられなかったのです。


あずさが

茶髪に変えていなかったら

見つけていたに違いありません。

本当に残念なことでした。


次郎は

インターネットを印刷した地図を持って

線路伝いに

あずさの住んでいるであろう

アパートに向かいました。


アパートは

川のそばにあって

静かな場所でした。


郵便受けを見て回りましたが

あずさと書いているポストなど

ありませんでした。


普通は女の人は

表札自体を出さないし

ましてや

下の名前まで

書くわけがありません。


あずさは

それらしいお部屋を

外から見ていました。


そんなことをしていたので

不審に思った人が

こちらを

じろじろ見ていました。

雨の中じっと

立っていたら

不審者と思われても仕方がありません。

これはいけないと

先輩から聞いたように

マクドナルドで

ひたすら

あずさを捜すことになるのです。


次郎は

あずさから

勤務は独自のカレンダーがあって

大体は5日ごとに

休みがあると聞いていました。


そんなことを考えると

この日曜日は

きっと勤務の日で

ここで待っていたら

きっと園田駅から

大阪に行くか

大阪から帰ってくると

考えていたのです。


マクドナルドで

ハンバーガーを買って

外が一番見える席に

座りました。

朝の11時頃からです。


何時間待っても

あずさはもちろん

通り過ぎません。


トイレに行くの惜しんで

ハンバーガーを

ちょっとずつ食べていきました。



一方あずさは

園田で

次郎とすれ違ったことが

わからず

サンダーバードに乗って

金沢に着いたのは

1時頃でした。


それから

住んでいると思う

淺野川の近辺を歩き回り

それから金沢駅近くを

歩きながら

次郎を探し回りました。


勤め先と考えられる工場を

レンタカーで

見て回りました。

でも日曜日は

門も閉まっており

終電まで

金沢駅周辺を見て回りました。




次郎は

ハンバーガーも食べ終わり

それでもなお

外がよく見える席に座って

乗降客をジーと見ていました。


しかし

9時47分に

最終のサンダーバードが出るので

9時を過ぎたときに

次郎は大阪に向かいます。


梅田に着いたとき

先輩から

電話が入ります。

先輩の話は

大阪のある工場の

機械を

見てきて欲しいということで

明日より3日の出張を連絡してきたのです。

先輩が

次郎のことを考えて

大阪に出張出来るように

推薦したのです。


次郎は

連絡を聞くと

サンダーバードに乗らずに

西宮北口の寮に帰ります。


あずさは

金沢駅周辺を

うろうろしながら

次郎を探していました。

もう足が

棒になるほど

歩き回ったあずさですが

大阪に帰らなければならなかったのです。

8時36分発の最後のサンダーバードに乗って

帰ることになります。


園田に着いたのは

12時前で

もちろん次郎と出会えませんでした。


先輩からの電話が

もう少し早かったら

次郎は

園田で

終電まで待っていたでしょう。


次郎はこの日は

全く運から見放されていたのです。


あずさは

疲れ果てて

その日は

ロフトで

直ぐ寝入ってしまいました。


翌日あずさは

親友に

会えなかったことを連絡しました。


親友は

「金沢にズーと泊まりがけで行って

何日も金沢駅で

番をしていたらいいのよ」と

忠告しました。


あずさはその忠告に従って

店長に

休暇を申し出ました。

しかし

店長は

あずさが

優秀な販売員であったので

もう少し待って欲しいと

休暇を許さなかったのです。

10月の末まで待って欲しいと

頼んでいたのです。


あずさは

がっかりです。

次郎に会いたいのに

本当にがっかりしました。


それを見た店長は

店員の勤務シフトを

調整して

来週休んでも良いことにしたのです。


あずさは

来週金沢に行ける

そうして次郎に会えると考えると

嬉しくてたまりませんでした。


それで

ロフトを掃除することになるのです。

何故ロフトを掃除するかというと

次郎に

「ロフトから見る六甲の夕日はきれいよ。

一緒に見ようよ」と

話したことが気になっていたのです。


あずさは

ロフトに

要らないものや

ガラクタを

ため込んでいたのです。

もちろん

ベッドの下とかにも片付かないものを

貯めていました。


友達がきても

ロフトは見えないので

そうしていたのです。


あずさは

きれい好きでしたが

少し油断していたのです。

その日から

ロフトを片付け始めました。


それから

照明ややポスター・観葉植物などで

見違えるように

きれいなお部屋

ロフトになりました。



翌日次郎は

大阪の工場を

3カ所周り

仕事を済ませていました。

5時に終わると

直ぐ園田に行って

例のマクドナルドで

終電まで待っていました。

でも園田に着く前に

あずさは

家に帰っていたのです。




あずさは

早く帰って

ロフトを片付けていたのです。


そのために会えなかったとは

とても皮肉なことでしたが

ふたりはその時わかりませんでした。


次郎は

二日目も

同じように行ったのですが

その時も同じ理由で

会えませんでした。


待ってるときに

次郎は先輩から電話を受けます。


先輩:

「次郎どうだ。

あずささんだったか

会えたか?

連絡がないことを考えると

会えてはいないんだろう。


そうだ明日は

一カ所だけで良いから

昼からは休みだ。


それからあさっては

休暇届を

私の方から出しておくから

明日明後日に賭けてみろよ。」


次郎:

「先輩ありがとう。

そこまで手配してくれて

本当にありがとうございました。」


先輩:

「オー神妙だな。

がんばるんだよ。」


次郎:

「ちょっと相談があるんですが」


先輩:

「何だ

まだ何かあるのか。」


次郎:

「茶髪のことなんですが

やっぱり茶髪やばいですかね。

あずさには

黒髪の方が

良いですかね。」


先輩:

「そんなことないんじゃない。

茶髪のお前が好きだと言ったんだろう。

自信がないやつだな。

もっと自信を持てよ。」


次郎:

「そうですかね」


先輩:

「そうだよ

言っておくが

あずさが

お前のことを嫌いだったら

直ぐに身を引けよ

ストーカーにならないようにね。」


次郎:

「大丈夫ですよ

先輩、

ところで

あずさを取らないで下さいよ」


先輩:

「はいはい」



こんな連絡を受けて

なんだか

明日会えるような気がしたのです。


一方あずさは

早く帰って

買ってきた

ポスターや

スタンドタイプの照明や

玄関マットなんかを

並べました。


あずさも

なんだか

明日

次郎に会えるような気がしたのです。

それは何の根拠もなかったのですが、

明日は

あずさの誕生日だったからです。


でもあずさの誕生日が

明日だとは

次郎と話していなかったのですが

何となく

誕生日の明日会えるような気がしたのです。


再会の前夜は

ふたりは同時に

胸がときめいていたのです。





その日の朝は

ちょっと肌寒かった。


あずさは

少し早く起きて

念入りに身支度をして

それから

部屋を一層

片付けて

出かけました。


一方

次郎は

先輩に言われていたけど

髪を染めてから

午前中の仕事に出かけました。


仕事を

てきぱきと片付け

昼ご飯も食べずに

園田に着ました。


例によって

マクドナルドで

ハンバーガーを買って

例の場所に

座りました。


店の人は

3日目なので

よく覚えていて

不審な目で

見ました。


そこで

夕方の5時まで

居るつもりでしたが

店員が不審の目で見るのと

何か予感がしたので

外で待つことにして

3時頃には

エスカレーターの前で待っていました。


あずさは

早出で

3時には勤務あけですが

来週は休むことになっていたので

4時まで

働きました。


4時なると

アパートに急いで

帰りました。

園田駅を下りたとき

何か予感がしました。

改札を出て

エスカレーターに乗って

下りていくとき

辺りを見渡しました。


次郎の姿が

前に見えました。

あずさは

一瞬電気が走ったような

ビッビッという感じがしたのです。


考えることなくあずさは

エスカレータの中間から

次郎の所に走りました。


かたや

次郎は

エスカレーターから

下りてくる

あずさを

瞬時に探し出していました。


あずさが

走り出す前に

次郎は

走り出していました。


ふたりの距離は

30mもありませんでした。

その距離を

お互いに走ったので

見つけてから

ふたりが

抱き合うまで

ほんの

数秒です。


人通りが

割とある

園田駅ので

人目も気にせず

抱き合ったので

みんなびっくりしました。


マクドナルドの例の店員も

それを見て

そうだったのかと

納得した次第です。


ふたりは

抱き合った後直ぐに

お互いに

両手をつないで

顔を

見合わせました。


そして

笑い出したのです。

会えた嬉しさから出たのか

それとも

お互いに髪の毛の色を変えたことが

原因だったのでしょうか。


少しの間

両手をつなぎながら

笑っていたのですが

あずさは

言いました。


「そうだ

ロフトから見える

夕日が美しいだよ。

早く帰らなきゃ

見えないよー

早く帰ろー」という

あずさの声を聞いて

次郎も

「急がなきゃ」

と答えました。


ふたりは

電車に急いだときと同じように

手をつなぎながら

アパートまで

急ぎました。


途中にある

信号も

うまい具合に青で

一気に渡り

アパートまで一直線でした。


アパートの階段を同じように

手をつないで

駆け上がり

あずさの部屋の前に行きました。


あずさは

これだけは慎重に

チャックを開けて

ドアの鍵を

取り出し

ドアを開け

靴を急いで脱いで

ロフトに上がりました。


ロフトの天窓を

引っ張って

開け

西の方を見ると

夕日で

六甲の山並みが

シルエットになっていました。


次郎は

あずさの肩に手を掛け

あずさは

次郎の腰に手を回して

抱き合って

西日を見ていました。


段々と

太陽が

山並みに隠れて行くと

空が

上の方から

青みが増しました。


空が

稜線赤から

空の青まで

きれいに

グラデーションで

飾られました。


あずさ:

「会えて良かった。

次郎には言わなかったと思うけど

今日は私の誕生日なの

今日会えるなんて

運命なのかな」


次郎:

「おめでとう

今日の朝

起きたときに

何か特別の日な様な気がしたんだ。

君と会えるような気がしたんだ」


と言いながら

それから

ふたりは黙って

もっともっと暗くなるまで

西を見ていました。





西の空がますます暗くなって

一番星が

瞬くようになると

寒くなってきました。


ふたりは

余計に寄り添うように

なりました。


でも

外が真っ暗になって

部屋の中も真っ暗になると

やっとふたりは

両手をつなぎながら

向かい合って

話しました。

ふたりは同時に

「ごめんね。

、、、、

連絡出来なくて、、、

、、、、

連絡先なくしてしまった。

、、、

ごめんね。」

と言いました。


あまりにも同じなので

ふたりはちょっと笑って

あずさは

「おなかすいた。

ご飯作らなきゃ。」

と言い

次郎は

「僕も手伝うよ」

と答えました。


ふたりは

階下の

小さなキッチンで

シチューを作り始めました。


次郎は

料理をしたことがなかったので

あずさに教えてもらいながら

なんやかやと手伝いました。


冷凍にしてある

ご飯やおかずを解凍して

できあがった

シチューとともに

ロフトに持って上がりました。


ロフト階段は

独特の構造で

見て目は

急なように見えるのですが

上がりやすくて

お料理を持っても

上がれる

階段でした。


ふたりは

ロフトで

ご飯を

ゆっくりと食べながら

話をしました。


あずさ:

「頂きます。

シチュー熱いから気をつけてね。」


次郎:

「頂きます。

おいしそうだね。

今日はちょっと寒いから

ちょうど良いかも」


あずさ:

「私、

日曜日に

金沢に行ったのよ。

金沢は雨だったわ」


次郎:

「僕だって

日曜日に着たんだ

だから会えなかったんだね」


あずさ:

「どこまで着たの。

私は金沢の駅前と

淺野川の河口付近と

小松市の会社だよ」


次郎:

「僕の家の近くまで来たんだ。

僕はね

このドアの外まで

着たよ。

隣の棟の2階にも

上がったけど

表札がないものだから、、

と言うか

名字を聞いていなかったものだから

わからなかったんだ。」


あずさ:

「そうよね

お互いの名字を

聞いておけば良かったよね。

もっと早く会えたかもしれないわね」


次郎:

「それよりも

メルアドをなくさない方が良いよね。

ごめんね。」


あずさ:

「それは言えるは

私の方こそごめんね

何故なくしたんだろうね。」


次郎:

「ふたりとも

なくすなんて

考えられないよね。」


あずさ:

「私今になって思うんだけど

これって

神様が

私たちに授けてくれた

試練じゃないかと思うの」


次郎:

「そうかもしれないね

きっとそうだよ。

直ぐ会えなかったから

ふたりは

真剣に

お互いのことを

考えたんじゃない。」


あずさ:

「そうよね

そうよね

次郎って

頭良い

直ぐ会えなくて

今なら良かったと思うわ」


こんな話はずっと続きます。





話は続きます。


次郎:

「ところで

こんなこと言っても良いかな

僕の髪の毛だけど

どうかな


君の茶髪

とっても似合うよ。

もちろん

黒髪も似合っていたけど」



あずさ:

「ありがとう。


次郎の

黒髪

とっても合うよ


私が

茶髪にしたのは初めて。

他のみんなは

びっくりしているけど

私は似合っていると思うの

次郎の茶髪には

合うと思ったのに、、、。

でも黒髪の

次郎も良いかも」


次郎:

「ありがとうー」


それから

夜が遅かったけど

親友と先輩にふたりは電話して

会えたことを

お互いに

知らしました。

遅かったので

先輩と親友は

直ぐ電話を切られてしまいました。



こんなことや

些細なことを

話をしていました。

あーでも

こーでも

と話は止めどもなく続きます。

そして

またふたりは

徹夜になってしまいます。


もちろん

深夜ですから

小さな

声で

ひそひそ話をしていました。

小声で話すことが

妙に

魅力的だと

お互いに思いました。


窓が明るくなって

あずさが

早番で仕事に行かなければならなかったけど

あずさは

楽しい気持ちでした。


もうすぐ

朝食に用意を始めなければならない時に

あずさは

連絡方法について話しました。


あずさ:

「次郎との連絡だけど

メールや

電話じゃなくて

手紙や

直接会って話すことにしない。?」


次郎:

「それはいい考えだね。

いつもいつも

携帯でつながっていないのもいいかもしれないね。」


あずさ:

「そうよね

『会えないときが

愛育てるのさ』

と言う歌もあったしね。

私たち

すごいカップルかも」


(メモ用紙に住所を鉛筆で書いて)

次郎:

「それに決めよう。

僕の住所はここだからね。」


(あずさも

メモ用紙に住所を書いて)

あずさ:

「私のはここよ

知っていると思うけど

一応ね。

来週は

私金沢に

一週間行くことになっているの。

切符も買ったし

ホテルも予約したわ

月曜日行くからね。」


次郎:

「それは

それは

いいなー

待っているよ。

駅まで迎えに行くから」


あずさ:

「何か困った様に私には見えるけど?」


次郎:

「そんなことないよ

着てくれるのはとっても嬉しいけど

部屋が

片付いていないので

片付けなきゃ

あずさの部屋くらいには

片付かないと思うけど

日曜日に

がんばってみるよ。

あずさの部屋は

本当に片付いて

きれいだよね。

僕もロフトに住み替えようかな

ふたりで

ロフト会えたらいいね。」


あずさ:

「黙っていてごめんね。

次郎が

来る予感がしたので

かたづけたのよ。

下のお部屋は

いつも片付けているけど

ロフトまでは

ちょっと大変だからね。

次郎も

がんばらなくてもいいよ」


次郎:

「そうだったの

どうしようと考えていたので

ちょっと楽になったよ」



こんな話が終わると

ちょっと早く

あずさと次郎は

冷凍食品を

解凍して

ゆっくりと

朝食を食べてからお部屋を

あとにします。


園田まで

今度はゆっくりと歩いて

行きました。

途中で

桜並木が有って

「桜の花の時期には

すごくきれいだ」などと話しながら

手をつなぎながら

歩いていきました。


電車に乗って

大阪に行って

あずさの服飾店の前で別れました。

もちろん笑顔で別れました。


次郎は今日は休みなので

あずさを待っている間

大阪をうろうろして

それから中之島の図書館で

読書をしていました。


あずさは

仕事を三時で終わり

店を出ると

次郎が待っていました。


次郎とあずさは

USJに行って

遊びました。

次郎は今日中に

サンダーバードで帰らなければならないので

最終電車に間に合うように

大阪駅に到着しました。


前と違って

ゆっくりと

手をつないで

サンダーバードに乗りました。

ふたりは

電車の入り口で

別れを惜しんではいましたが

来週になると

あずさが

金沢に行くことになっていたので

あずさは

前の別れと違って

涙は出ません。


笑顔で

手を振りながら

サンダーバードを見送りました。


あずさは

髪を触りながら

本当に幸せで

満ちあふれていました。

もちろん次郎も


(この項一応終わります

続編が

また書かれることもあるかもしれません。

その時はよろしく)





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