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Another Face 〜バイトしてたら人間やめることになりました〜  作者: 蔵井海洋
第六章 水の龍/力の源
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Episode6-last リュウの密会

 光金製薬の一件から数日が経過した、ある昼時のこと。


「滝上さん、色々あったけど貴女のお陰で無事に作戦を終えることが出来たわ。本当にありがとう。それと、こちらのフォローが至らず、貴女を危険な目に合わせてしまったわね、ごめんなさい」

「いえ、こちらも連絡とか忘れていましたし……」


 滝上重工の会議室、椿姫と花咲が椅子に座りながら対面している。光金製薬で行われた作戦の報告のため、この場に呼ばれたのだ。しかし、二人の表情は暗く、何とも言えない、気まずい雰囲気を醸し出していた。傍らに置いていたコーヒーは冷めきっている。


「怪我は……大丈夫かしら?」

「ええ、まあ、なんとか」


 そう言った花咲の視線の先には、包帯などが巻かれた椿姫の腕や脚が目に付いた。花咲の表情が一層暗くなる。だが、すぐに切り替え、真っ直ぐ椿姫の瞳に視線を合わせ、言葉を紡ぐ。


「貴女の頑張りに応えられるよう、捕まえた金光を始めとした、あの機械に関わっていた人物には入念な尋問を続けていくつもりよ」

「そうですか……」


 尋問、その言葉に不穏な雰囲気を感じた椿姫。彼女の脳裏に、悪人でありながら何処か一般人らしさを兼ね備えた金光の姿がふとよぎる。

 彼女の表情を一目見て、花咲が苦笑を浮かべながら口を開く。


「大丈夫よ、安心して。流石に拷問はしてないから」

「良かった……悪人と言えど拷問を受けるのは、複雑な気分になりますから」

「優しいのね」

「そうですか?」

「ええ、うちの子もそれぐらい優しかったら良いんだけどね」


 そう言った花咲の表情はとても朗らかであった。普段は気丈なキャリアウーマンという印象を与える彼女だが、人並みな家庭を持っている事に、椿姫は何故か安心感を覚える。安心感を覚えると、気になることが湧いてきた。


「あの、ところで“機械”の中身ってやっぱり」

「ええ、“ブルーアイ”だったわ。それも数百キロ単位でね」

「そんなに……。それで、謎だった成分については……?」

「それについては、分からなかったわ。あの機械は“ブルーアイ”を培養するためのものだったようなの……でも、奇妙でね」

「奇妙?」

「アレ、音で増えるの」

「音ですか?」


 “アレ”というのは、“ブルーアイ”の事を指しているのだろう。

 それにしても音で増えるとは、一体どういうことなのだ。


「ええ、あの液体は特殊な音波を当てられると体積が増える、らしいのよ。まあ、私たちが聞いても言葉には聞こえないし、一定間隔で同じリズムを刻んでいるだけ……でも」

「……悍ましいというか、ホラーですね」

「そうね、悍ましい。私たちの常識や人智の及ばないオカルトね」


 音で増殖する謎の液体、“ブルーアイ”とは一体何なのだろうか。

 あまりの悍ましさに、頭から血の気が引き、寒気が全身を包んだ。





 時を同じくして、隆一はある公園のベンチで缶コーヒーを飲んでいた。

 その様子から、誰かを待っているということが分かる。視線は左腕に巻いた腕時計と公園に設置された時計台を交互に睨みつけており、非常に落ち着きがない。照り付ける日光によって、その額からは続々と汗が垂れ落ちている。


「……本当にここであってるのか?」


 買ってすぐの頃は冷たかった微糖のブラックコーヒーも、既に常温まで温くなっている。

 隆一は四分の一にまで減ったほろ苦い液体を一気に呷って空にすると、五メートルほど離れたゴミ箱に投げる。缶は奇麗な放物線を描いて、吸い込まれるようにゴミ箱に入った。同時に、椿姫の頭が扇子によって叩かれる。


「あまり、行儀が良いとは言えんのう」

「……遅かったな」


 隆一は頭に置かれた扇子を軽く払いのけると、振り返って背後にいた人物を睨みつける。

 そこにいたのは、


「あまり細かい事を気にしすぎると禿げるぞ」


 太陽を背に、不敵な笑みを浮かべる【水龍】がいた。

 【水龍】は隆一の睨みに全く憶することなく、笑みを崩さないまま、隆一の隣に座る。


「俺はアンタを許したわけじゃあないからな」

「それについては、まあ、すまないとは思っておるぞ。しかし……な、こちらも立場というものがあっての。あの小娘を」

「椿姫だ」

「椿姫を殺そうとしたことは後悔してはおらん」

「は? おま」


 隆一は【水龍】のきっぱりとした物言いに怒りを更に募らせる。

 だが、彼の口を【水龍】の扇子が塞ぎ、まだ話は終わっていないと暗に伝えてくる。


「だがな、貴様の力……青き雷を見て、妾は分からなくなったわ」

「……何が?」


 【水龍】は人目を憚らず、熱された公園の地面を、自身の指から放った水によって無意味に潤していく。その行為から、彼女が何を思っているかは読みとることが出来ない。ただ、ぼーっと自分の頭の中を整理しているように感じられる。


「今までは、漠然と“王”の復活だからと、番の仇討ちのためと、あの嫌味糞外道、【幻相】と行動を共にしてきたが……それに意味があるのかと、な。確かに、昨今のミラジオは絶対的な強者を失い、荒れている。民の暴動が起きている真っ最中じゃし、事態の収拾に【幻相】や【轟焔】……泥棒猫の娘も奔走しておる。妾と黒いのはあの機械を守るためにこっちに残ったがな」


 一呼吸おいて、【水龍】が口を開く。


「民を放っておいてまで、新たな“王”が必要なのか、正直微妙な所じゃ」


 隆一は空を見上げる。

 一面雲に覆われた灰色の空は何処か淋しげだった。


「何を考えておるか分からん上に、【幻相】の腰巾着の【疾風】は置いておくとして」


 隆一の様子を気にせず、【水龍】は話しを続ける。


「妾と泥棒猫の娘……いや、【雷姫】は【雷龍】を殺されたことによる、復讐心から。【幻相】の奴は“王”の復活のため。【轟焔】は……ただの戦闘バカだから、まあ、よいか。それぞれ思惑は違えど共に戦ってきたわけじゃが……」


 迷い、不信感。今の【水龍】からはそれらの感情がありありと見える。


「…………なあ」


 しばらくの沈黙が続いた後、隆一は【水龍】に声を掛ける。


「何じゃ」

「飲み物、いるか? 今日は奢る」

「そうか、すまんの。……そうじゃな、今日の所はコーヒーを、甘いので頼むぞ。今は、そんな気分じゃ」

「分かった、一番オススメなのを選んでくる」

「一番か……その言葉は好きじゃな」


 隆一が近くの自販機から戻ってくるまでに、そう時間は掛からなかった。

 一本は黒いラベルの無糖コーヒー、もう一本は白いラベルのミルクコーヒーのそれぞれ二本を持って戻ってくる。


「ほい」


 隆一は【水龍】に向けて白い缶を軽く放る。


「ちゃんと手で渡さんか……全く」


 唇を尖らせながらも【水龍】はしっかりと受け取る。

 それを確認すると隆一は再びベンチに腰掛ける。


「で、アンタは何で俺を? ってああ、そっか悪い悪い」


 何故自分へコンタクトを取ろうとしたのかについて聞こうとするものの、無言で突き出された白い缶によって遮られる。隆一は即座に【水龍】が自分で缶を開けられないことを思い出す。


「ほい」


 すぐに受け取ると蓋を開けて、返す。

 【水龍】は軽く頭を下げると隆一から白いラベルの缶を受け取ったが、飲むことはせず、俯いて缶を見つめる。


「何で俺を呼んだんだ。というか、俺の家をどうやって知ったんだ?」

「それには色々あってのう」


 話は数日前、光金製薬での一件があった日の夜にまで遡る。



――――――



『はあ疲れたわー』


 それは、疲れた俺が布団にダイブした時の事だった。

 なんか急に始まったんじゃが……。

 細かいことを気にしてんなよ。

 いや、気になるじゃろ、全然細かくないじゃろ。


『これこれ、しっかりと湯浴みをせねば風邪を引いてしまうぞ』

『!? 幻覚かあ!? ……いや』


 突然、近くから聞いたことのある女の声が聞こえてきたんだ。始めは幻聴かと思ったけど、どうも違うようだった。見えないが確かにいる。彼女はここにいないが、俺に向けて話し掛けてきていることだけは確かなのだ――――

 ホラー映画の導入みたいなの止めんか。混乱するじゃろう。しかも妾が幽霊のようじゃ。

 いや、あの時はガチで幽霊みたいなもんだったろ……。はいはい、分かった止めますよ。

 何で妾がわがままっ子みたいな扱いなんじゃ。絶対おかしい。


『何処だ、姿を現せよ。ぶっ飛ばしてやる』

『ふふふ、残念だがそこに妾はおらんのじゃ。後、あまり騒ぐでないぞ。他の者に可哀想な眼で見られたくなければ、な』

『んなこと言ったって』


 で、あの時、どうやって俺に話しかけたんだよ。結局、次の日妹に変な目で見られたし。

 これには色々あっての、まあ、龍の力の一端とでも覚えておけ。

 え、詳しい説明とかはしない感じ? 秘密な感じ?

 そういう事じゃの。

 妹から変な目で見られることになった謝罪は?

 そんなもんないわ。

 そっかー。


『まあまあ落ち着け、貴様は黙って聞いておれば良いのじゃ。それに、先程までは敵対していたが、今は違う。安心せい』

『…………』


 ぶっちゃけ、あの時超怖かったんだけど。寿命が縮まりそうなくらい。

 それは、まあ、すまんかったのう。


『三日後の昼、この前の公園に来い』


 いや、全然分かんなかったし。一時間くらい探し回ったんだけど。

 こっちも公園の名前とかいちいち覚えておらんし……。後、この世の文字読めんし。

 え、それこっちで暮らす上で滅茶苦茶不便じゃねえ?

 不便じゃなあ……。買い物とかなあ。

 どうしてんだよ? お前らでも腹減るんだろ?


『詳しい話はそこで話す』

『……』

『ではな。念を押しておくが、このことは誰にも言うでないぞ』


 恥を忍んで、近所に住んでおる【雷姫】に買ってこさせたり、教えさせたりしたのう。

 何その、悪の女幹部間のご近所付き合い。流石にそれからはやり方覚えたんだよな?

 いいや、未だにすーぱーで騒動を起こして申し訳なくなる。

 何やってんの……。

 れじで金が足りなかったり、店員との口論はしょっちゅうじゃの。

 本当に何やってんの! 出禁になったりしないの?

 それはもう、ほら、アレじゃ。龍の力で全部解決。

 しょぼいなあ……。使い道しょぼいなあ……。

 流石に近所のすーぱーが使えなくなるのは勘弁じゃ。こんびには割高じゃし。

 分からなくはないけど! 分からなくはないけどさあ!


『待てよ、いきなり何なんだ。意味わかんねえ、何で俺に』

『ふふふ、ははは! それが聞きたければ公園に来るがよいわ』


 ってえ! そんな話はどうでもいいんだよ! なんで俺をここに呼んだんだよ!

 ええ? そんなに聞きたいかの?

 それがここに来た目的だよ! 俺はまだアンタんとこの裏事情しか聞いてねえんだよ! 

【轟焔】と話したの時も思ったんだけどさ! お前ら仲悪すぎだろ! 今まで話したヤツ、大体自分の組織にいい印象持ってるやついねえんだけど!

 ぶっちゃけ仲間っていうか、同僚じゃし。正直ヤツらがどうしようと、こちらに迷惑を掛けなければどうでもよいし……。

 やっぱお前らってお互いに対してドライだよなあ。

 他がどんなものかは知らんが、まあ、こんなもんじゃろ。妾は番……ヴァル以外のことなどどうでも良かったのじゃ。それだけが、妾にとっての生き甲斐じゃった。永劫の時をあやつとともにいることだけが、な。

 なんかめっちゃシリアス。



――――――



「……まあともかく、【幻相】のヤツがあちらにいて僥倖じゃった。でなければ、こうして、貴様をここに呼ぶことは出来なかったじゃろうからなあ……」

「って! だから、俺を! ここに! 呼んだ理由! 言えよ!」

「貴様の力が我が番、【雷龍・ヴァルジール】と同じものだからじゃ」


 その時、青年の周囲を取り囲む、何もかもの時間が止まり、音が消えた。

 真っ直ぐ向かってくる彼女の視線は、彼の胸を激しく動悸させる。

 青年の時間は、この時から真に動き出したと言えるのかもしれない。

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