7話
「まあ、そのことはじっくり考えるといい。
そんなことより、融合のことを実験しよう」
教授が笑顔で笑いかけてくる。
すると高橋がおどおどしながら、教授に向かって手を挙げた。
「なんだ?」
「この融合ってやつ、解除できるのか、教えてくれる?」
教授の目が輝いた。
俺と高橋とランを一瞬でロープで縛る。
抵抗することもできず、捕まってしまった。
「それでは約束通り、こいつらは貰っていく」
「待って、なんで私まで捕まえるの?」
余裕がなくなったのか、ランの女言葉が出た。
「なに、年寄りのお節介だ。
面倒なことは分割するもの。
こいつらを上手く使いなさい。
そして、なにより、後学のために融合分離実験を見ていくといい」
実験ねぇ。
大丈夫なんだろうか。
ちょっと不安だ。
ああ、そうだ。高橋がいるじゃないか。
いやあ、あいつがいてくれてよかった。
あいつを先に実験台にすればいい。
そんなことを考えていると、また高橋が口を開く。
「あの、融合した生き物を分離するのって、できるの?」
「ああ、できる。
理論上はな。
あとは実験あるのみ。
君たちのような実験材料がなかなか揃わず、今日まで実験ができなかったんだ」
俺たちを3人まとめて担ぎ上げると、部屋が歪み始めた。
「なんだこれ」
「部屋がうにょってなってる⁉︎」
「なぜ私まで」
そして、俺の視界が完全に捻れると、一気に戻った。
なんか、巨大な機械が目の前にある。
明らかにさっきまでいた部屋ではない。
「ようこそ、私の実験室へ。
これが君たちを分離する機械だ」
教授が指差した機械は、棺桶のような箱を、何個もメリーゴーランドのように円形に繋げたものだった。
「どちらから分離する?」
「高橋でお願いします」
あいつで安全が確認できたら、俺も入ろう。
「すまないが高橋がどっちかわからない。
君からにしようか」
一瞬で箱の中にぶち込まれた。
「は? ふざけんな」
俺を縛っていたロープは外されていた。
こんな箱ぶっ壊してやる。
そう思って箱の蓋を叩こうすると、教授の声が聞こえてきた。
「ああ、まさかそんなことはしないと思うが、それ壊したら最後、そう簡単には戻せないからな。
まあ、絶対にそんな馬鹿なことはしないと思うけど」
振り上げた拳を下げる。
すると、ランの声がかすかに聞こえてきた。
「なんで私まで、ここに連れてきたの?」
「大事な決断は、時間の許す限りじっくり考えろ。
これはお前より長く生きてきた私が、自信を持って言えるこの世の真理だ。
その時間をくれてやる」
シリアスなことは、あとでやってくれないかな?
ここに入っていると不安でしょうがないんだけど。
「じゃあ動かすぞ。危険はないから。動くなよ」
ぐっと遠心力がかかり、かかりまくる。
嘘だろ。なにも考えられないくらいの力で、棺桶の壁に張りつく。
そのまま力は増していき、意識が落ちた。
「おい、起きろ」
ペシペシ頰を叩かれている。
目を開けると、目の前に教授の顔があった。
こいつ、女みたいに綺麗な顔がしてんなぁ。
「おい、何か変化はあるか。全て話せ」
とりあえず自分の手を、顔の前に出す。
随分久し振りにこの色を見た気がした。
「これが元の色か?
ちょっと黄色いが」
「はい、元の肌の色です。
顔とかも見たいので、鏡はありますか?」
「毛穴の1つまで確認しなさい」
教授が手をかざすと同時に、3つ連なった、でかい鏡が出てきた。
間違いない。映っている姿は、元の自分だ。
「種族やユニークスキル、スキルはどうなっている?」
ステータス、そう念じてみると、種族は人間になっていた。
「人間です。本当に、本当に人間に戻ってる」
筋肉はなぜかついたままだが、それは全然いい。
そんなことより、ひとつだけ気になることが残っている。
ユニークスキルは何一つ変わっていない。
ゴキリン化が残っている。
「どうした?」
「あの、ゴキリン化が残ってるんですけど」
「やはり、そうか。
仮説通りだ」
「いや、説明してくださいよ」
「そんなことより、名前に変化はないか?」
「仙波 太郎に戻ってます」
「完全に君に戻ったということだな。
いやぁ、素晴らしい」
高橋がぴょんぴょん跳ねながら俺と教授の間に現れた。
ああそうか、こいつら、まだ縛られているのか。
「あの、私も融合解除してください」
「チッ、うるさい実験材料だ。
少し待っていろ」
ガサゴソと紙が舞い、色々文字が刻まれていく。
5分ほどして、書類が5センチくらいの束になり、紐で閉じられた。
その書類をバアっと最初から最後までめくり、頷くと、高橋を箱に突っ込んだ。
「行くぞ」
機械が凄まじいスピードで回り出す。
よく俺無事だったな。
客観的に見ると、拷問器具に思える。
20分ほど経って、ようやく機械を止めた。
1つの箱を開けると、男が出てきた。
教授は、男の脈を測ると、謎の筒に突っ込んだ。
高橋とはまた違う顔をしていたが、あれが融合したやつかな。
そして別の箱を開けると、黒髪の美少女が現れた。
間違いなく女だ。なにせ裸だからな。
グラビアアイドルのようなスタイルの裸身だ。
あれが本当の高橋か。
教授はその高橋の体のあっちこっちを、揉み出した。
これは、高橋には言わない方がいいだろうな。