6話
宿場町を出発して、2時間ほどで王都についた。
前日よりもスピードが上がっていたようだが、それでも、ランが言っていた時間とは大きな開きがある。
「おい、7時間かかるんじゃなかったのか」
ランに聞く。
「ああ、勘違いだった。悪かったな」
ランは一言謝ると、ついてくるように手振りをした。
ランに合わせて走ってきた高橋は、ハアハア言って、膝に手をあてている。
「ちょっと、待ってくれ」
高橋を無視して、ランは進んでいく。
まあどうでもいいか。
俺も気にせずランを追う。
ランに連れられた先には、小さな宿があった。
宿のカウンターには、眠そうな中年の男が座っている。
「401号室、待ち合わせだ」
ランは男に鍵を白い鍵を差し出す。
「はいよ」
男は白い鍵を受け取ると、黒い鍵をランに渡した。
ランは階段を上がっていく。
「何をしている?
ついてこい」
なんとか付いてきた高橋と、少し顔を見合わせた後、ランを追いかけた。
ランが401と書かれた部屋のドアを開けると、とんでもない美しい人が椅子に座っていた。
耳が尖っている。エルフだろうか。
「来たか小僧、昨日言っていた奴は連れて来たのか。
約束のものがなければ、生まれたことを後悔させてやる。
つまらないことに使っている時間は……」
俺と視線が合うと、エルフは動きを止めた。
そしてニンマリと笑う。
「おお、見事な融合だ。
素晴らしい。
いいサンプルを持ってきてくれた」
気がつくと俺の目の前に、エルフが立っていた。
俺をペシペシと叩いた後、喜色の顔で撫でまわす。
なんだこいつ。
「教授どの。約束の対価は持ってきました。
私の呪いを解いていただけますね?」
なるほど、この教授とやらに、呪いを解く相談をあらかじめしていたのか。
俺を連れてくる代わりに、呪いについて診る約束を取り付けていたらしい。
教授の言葉だと、昨日、別れた後に会っていたようだ。
「よくやった、小僧。
約束は約束。お前をさっさと片付けて、こいつを使おう」
使う? なんかやばそうな気がする。
「それにしてもまったく、私が呪いの第一人者であったのは30年前のことだというのに、まだ私を超える研究者が出ていないのか。なんと嘆かわしい」
ぼやきながら、エルフらしき青年は、ランに手をかざす。
「これは、凄まじい呪いだ。
効果は、性別を変えることか。
いや、違うな。巧妙に隠してあるが、中にまだ呪いが隠れている。
この呪いを覆い隠す目的で、こんな強力な呪いをかけているのか」
エルフの青年はブツブツ小さな声で呟いている。
おそらく、ランたちには聴こえていないだろう。
他にも呪いがかかっているなら、突っ込むだろうし。
調べ終わったのか、エルフは難しい顔をしている。
「ふむ。誰に呪われた?」
「母に」
「お前の母親は元気かね」
「ええ。それが何か関係あるのですか?」
「この呪いは、術者の体力や気力を削り、耐えられないほどの痛みを与える続ける。
お前の母が元気であるならば、術者は違う者だろう」
「そんなバカな。問い詰めたら、自分で白状したんですよ」
ランが驚いた顔をしている。
「間接的に呪わせているんだろう。
おそらくは凄まじい才能と努力をしてきた者を、隷属の術式で、呪いをかけるための道具に変えているはずだ。
自分からこの呪いをかける奴はいないだろうからな」
「教授に、解呪できますか?」
ランは驚きながらも、話を進めようとする。
「無理だ」
「えっ?」
「凄まじい力と技術でかけられた呪いが2つ、奥の方で複雑に絡み合っている」
「性別変化以外の呪いが、かけられているんですか?」
ランはさっきよりも驚いた顔で教授の顔を見ている。
教授は大きく頷いた。
「どうやら隠された呪いは、ユニークスキルを無効化しているようだ。
何を無効化しているのかはわからないが」
ランは驚愕の表情で固まっている。
「いつ呪われたか、わかるか?」
「生まれてすぐと聞いてます」
教授はため息をついた。
「だいぶ話していないことがありそうだな。
まあそれは聞かないし、興味もない。
お前の呪いを解けるかもしれない方法を教えよう。
あまり勧めはしないが」
そこまで言うと、教授は黙った。
「聞かせてください」
ランはまっすぐ教授を見ていた。
「あくまで一番可能性が高い方法だぞ。
それをするかはよく考えろ」
「もったいぶらないでください」
「母親を殺す。
これが一番早いだろう。
予想通り、呪いを奴隷にかけさせているなら、隷属の主人が死ねば、呪いをかけ続ける理由がなくなる」
「ちょっと待って」
母親を殺す話になっている。
この国の王の側室を殺すなんて無理だろ。
それに、娘にそれをさせるのはあまりに酷い。
俺が割り込もうと思ったが、その前に高橋が口を挟んでいた。
「親を殺させようなんて、酷い話じゃないか」
「部外者は黙っていろ」
教授が一喝した。
高橋を援護するか。
援護になるかは知らんが、興味くらいは持ってくれるだろう。
「いや、そいつも俺と同じで融合しているみたいですよ。
話くらい聞いてあげたらいかがですか?」
「そうか、お前もか。
いやあ、小僧、お前はいいやつだな。
わかった。
ならば、そこの男共2人が、小僧の代わりに殺ってやればいいだろう。
それで解決だ」
朗らかに教授が言い放つ。
「術者をどうにかすればいいんじゃないのか?」
高橋が聞いた。
「術者を殺してはならん。
殺された場合、呪いが強くなることがある。
術者の主人を殺すほうが確実だ。
呪いを解きたいならな」