4話
取り調べからは解放されたが、警備隊の1人の男がずっと隣を歩いている。
「あの、なんで付いて来るんですか」
話しかけてみる。
「トラブルを未然に防ぐのが、警備隊の理想だ。
厄介ごとにならないように、見張っているんだよ」
「そうですか」
せめて一声掛けるべきじゃないのか。
まあ、ある意味護衛してもらっているわけだから、文句は言うまい。
「それで、宿はもう決まっているのか?」
「いえ、まだです」
今更ながら、出ている看板を全て読めることに感謝する。
宿場町というだけあり、宿屋は沢山あるようだ。
とりあえず目についた、『ドラゴンの宿』という宿に入ってみる。
「こんばんは。部屋って空いてますか?」
カウンターに座っている髭面の男に声をかけた。
「こんばん……、ひっ。なんだお前」
そうだよな、異様だよな俺の姿。
地味に傷つくが、にこやかに返事をする。
「この肌、地肌なんですよ。
驚かしてしまってすみません」
「礼儀正しいんだな、見た目の割に」
髭面は俺をじっと見た。
「本当に、なんか塗っているわけじゃないんだな?」
「はい」
髭面がカウンターから出てきて、俺の腕に人差し指で触れた。
そして触れた指先と親指をくっつけて確認する。
「いいだろう。泊めてやる。1泊につき銀貨1枚。飯は付かない。
それでもよければ泊まっていけ」
どうやらいい人のようだ。
「はい、お願いします」
銀貨を渡して頭を下げた。
「うん、たしかに。
付いて来い。部屋まで案内する」
髭面に案内された部屋は、ベットがほとんどスペースを占めている、狭い部屋だった。
この格好なのに、泊めてくれるだけでもありがたい。
「ありがとうございます」
去っていく髭面に頭を下げた。
髭面は振り向かずに片手を挙げて答えた。
今日は色々あったな。とりあえずベットに座って考える。
ランとの待ち合わせ時間は、朝の5時だったな。
あと何時間寝られるのか。
あれ、そういえば、今が何時かもわからない。
この世界の人たちは、どうやって時間を知るのだろう。
髭面に聞くか。
「君は酷いね。僕に一声すらかけないなんて」
警備隊の人がいつのまにか、部屋の中にいた。
そうだ、この人のこと忘れてた。
……この人いつ部屋に入ったんだ。
まあいいや、ちょうどいい。
「あの、今何時かわかりますか」
「9時24分だ」
男は何も見ずに即答した。
「時計をお持ちなんですか?」
「君は、時計のスキルを持っていないのか? 普通持っているものだが」
そんか物があるのか。
ランも持っていなかったはずだが。
「ええ。俺の田舎では、時間にルーズだったので」
とりあえず誤魔化してみる。
「へぇ、そうか。
ところで君はどこ出身なんだ?」
「遠い、遠い場所ですよ。
でも、時間がわからないと不便ですね。
時計とかって売ってませんか?」
日本なんて答えてもわからないだろう。
話を変える。
「時計なんて買えるのか?
貴族のインテリアだから、すっごい高いぞ」
男は不思議そうに聞いてきた。
「無理そうですね」
「どうして時間を知りたいんだ?」
「いえ、ただ気になっただけです」
4時に起きたいとか言ったら、色々突っ込まれそうだ。
「誰かと待ち合わせでもしているなら、俺が時間を教えてやるが」
「本当にただ気になっただけです。お気になさらず」
「そうか」
会話が終わったのに、男は出ていかない。
「あの、いつまで居るつもりですか?」
「君が寝るまでだよ」
真顔で返してきた。
ふぅ。
そういえば何も食べていないが、そこまで腹は減っていない。
でも明日の朝は早い。外でなんか食べてくるか。
「あの、どこかご飯を食べられる場所を知りませんか」
「ああ、美味い飯屋を知っている。
よければ案内しようか。あの店はいつも開いているから、今からでも大丈夫だ」
「お願いします」
なぜか眠くはない。
適当にご飯を食べながら時間を潰すことにしよう。
男が案内したのは、酒場だった。
腰程度までしかないゆらゆら動くドアの上から、中の様子が見える。
柄の悪そうなのが、うじゃうじゃ座っていた。
うわっ、目があった。
ニヤニヤしながら、3人組の男たちが店の中から出てくる。
「なんだお前、汚ねぇな。
俺が洗ってやるよ」
男たちは出てくるなり、いきなり絡んできた。
男の1人が、持っていた酒瓶を、俺の頭の上でひっくり返す。
「すみません、地肌なんです」
さっと避けると、酒が地面を濡らした。
ていうか、仕事しろよ、警備隊。
あんたなんのためにいるんだ。
トラブルを未然に防ぐんじゃなかったのか。
警備隊の男に目線を送る。
にこやかに微笑んできた。
「おい、てめぇ。なに避けてんだ、こら」
酒を浴びさせようとしてきた男が、俺に直接の触れないように、ドレスの襟首を掴み上げた。
もう面倒くさい。
待ち合わせ場所で寝よ。
さっと男の手を振り払い、全力で町の外へと走った。
待ち合わせ場所に着いた。
地面で寝る気にはならない。ひたすら自分の能力を試すことにする。
ずっと気になっていた『太郎さん来店』を使ってみた。
さっきの絡んできた男たちが目の前にいた。
「けっ、飲みすぎたみたいだ。
さっきの黒光り野郎が見えるぜ」
「へへっ、俺にも見えるなぁ」
「……」
速攻でさっきと同じ道を走った。