2話
「ごほん。ご苦労。よくやってくれたわ。ありがとう。
まあ、とりあえずこれでも着なさい」
女装少年が、どこからかドレスを出して俺に差し出す。
見た限り、少年と俺の背格好は変わらない。170センチくらいだろう。
ドレスもおそらくぴったりのサイズだ。
変態度がアップしそうだった。
「あの、男性用の、いえ、倒れている方々みたいな服ってないんですか? 」
「ないわ。ドレスが嫌なら、その辺の転がっている奴らから剥いたら?」
さて、どれがマシだろう。ドレスと誰かの血がついた服。あと、見るからに盗賊の汚らしい服。
断腸の思いでドレスを受け取った。
「お礼をしたいのだけど、手持ちが少ないから、後で渡すわね」
「はい、お気遣いなく」
女装少年は、じっと俺を見つめた後、口を小さく動かした。
「演技ではなさそうね」
「演技?」
どうやら俺の耳はすごい地獄耳みたいだ。
鈍感系主人公みたいには聞き漏らさない。
いや、男を攻略対象にする気は全くないけど。
俺が聞き返したことは無視して、少年は話を続ける。
「ねえ、あなたは何者? 」
「俺も知りたいですよ」
自分が何なのか。ゴキリンが何なのかとか、俺は一体どうしたのか、色々。
「訳ありのようね。
詳しく話してみない?
力になれるかもしれないわよ」
何にしても、誰かの助けが必要だろう。自分では食べ物すら用意できそうにない。
常識もわからない。
少し考えて、自分に起きたことを彼に話して聞かせた。
「そう、そういうこと。
それなら、あなたの力になれるわ。
あなたに起きたことは融合と呼ばれる現象よ。
融合の専門家がいる場所は知っているから、一緒に来る?
偶然だけど、私の目的地もその専門家がいる大学だから」
話が上手く行き過ぎているような気もするが、ほかに案はない。
彼についていく以外の方法はないだろう。
「お願いします」
「こちらこそよろしく。
そういえば、自己紹介がまだだったわね。
私はラン。あなたは? 」
偽名、だろうか。この世界の名付け方が分からないから、女の名前と男の名前の違いがわからない。
「俺はタロウです」
「よろしくね」
「ところで、ランさん。あなたが襲われていた理由とか教えてもらえますか?」
場合によってはこの人と一緒にいない方がいいかもしれない。
てか、できればチェンジでお願いしたい。
オカマとか、そういう問題じゃなくて、この人を守っていたであろう人たちが死んでも、顔色ひとつ変えていない。
旅の同行者にするには、ちょっと怖い。
「そうね。
まずはこの周りの人たちが何なのかを話すべきかしら。
私を怖がっているみたいだし」
「ははは」
心を読むのか、このオカマ。
「ここに倒れている人たちは、みんな私の敵よ。
私を守っていたのは私を監視することが目的。
私を襲ってきたのは命を奪うことが目的。
どちらにしても私の味方ではないわ」
なんだか面倒な背景を持ったオカマらしい。
「私はこの国の第1王子。一応、国家元首の継承権第1位よ」
ほう、この国はダメかもしれないね。この少年の代で終わりそうだ。
「なるほど、では権力闘争か何かですか?」
これは関わらない方が良さそうだな。
専門家とやらの場所だけ聞き出して逃げるか。
「そうよ。そして、そこの兵士達は宦官、意味はわかるかしら」
「ああ」
酷い世界だ。人を去勢するような文化レベルか。
これは絶対に、こいつとはさっさと離れるべきだな。
「へえ、博識なのね。
この宦官達は私の母が、私が呪いを解くのを邪魔するためにつけたの」
「呪い?」
「あなたは私を不気味に思っているみたいだけど、私は女よ。
呪いによって、男に変えられただけ」
本当の話だろうか。そもそも呪いっていうのがあるのかないのかもわからない。
そうだ、そういえば俺の持っているスキルの中に、鑑定ってあったな。
鑑定と念じてみると、女装少年のステータスが現れた。
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名前/ ランダート・グランド・シルフォード
種族/ 人間
性別/ ♂(呪い)
ユニークスキル
・王族の威光
・王族の加護
スキル
・生活全般スキルセット
・王政執行スキルセット
・魔法スキルセット
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まあ、王族であることと呪われていることはわかった。
「誰に呪われたんですか」
「母よ。母は側室だから、私が女だと困るのよ。女性に継承権はないから」
筋は通っているか。
「いつ呪われたんですか」
「生まれてすぐよ。
それにしても、信じてくれるとは思わなかったわ」
「呪いをかけられていることは信じますよ」
どういう呪いなのかはわからないけどね。
「あら、優秀な鑑定を持っているのね。
普通の鑑定なら、呪いは読み取れないはずだもの」
呪いが読み取れる鑑定は珍しいのか。注意しないとな。
それにしても、オカマ、いや、ランの言っているが本当なら、追っ手とか来るかもしれない。
どうしようかな。
見捨てると後味が悪そうだし。
ランの探りには答えず、質問してみる。
「ラン様の目的は、呪いを解くことですか?」
「ええ。王都の私立大学にいる、解呪の権威と会おうと思っているの」
「それでは、行きましょうか」
やばくなったら逃げ出そう。
「ああそういえば、完璧に忘れてたけど、この呪いのことを知った人っていなくなっちゃうのよね。
母が手を回しているんだと思うけど」
「俺は知られてないからセーフでしょう」
「ああ、なんてことでしょう。
この盗聴のペンダントを潰すのを忘れていたわ。
幸い、少し前くらいの話しか聞こえていないだろうけど、あなたが呪いについて知ったことが、母に知られてしまったわね。ごめんなさい」
このオカマ、最悪だ。
オカマはつけていたペンダントを見せびらかした。
ペンダントな鑑定をかけると、盗聴機能があり、おそらくはオカマの母親に俺のことを知られてしまっただろう。
しょうがない。
とりあえずこいつと大学に向かうのは変わらない。
「ところで、王族って馬車に乗っているイメージですけど、ここへは歩いて来たんですか」
「当然でしょ。馬より私の方が速いんだから」