13話
「ラン、自分のステータスを見たか?」
ランは黙って虚空を見つめた。
多分ステータスを表示したんだろう。
しばらくしてランが嗚咽をあげ始めた。
「やめてよ。
なんで、なんで今更そんな話をするのよ?
そんなこと聞きたくなかった」
母を殺すなんて、かなりのトラウマになるだろう。
ランが手を下してしまう前に教えなかったなら、永遠に口を噤むべきだったと思う。
「言っただろう。
ただ、私がそうした方がいいと思ったからだ。
ラン、お前には、リリィがお前を愛していたことを知っていて欲しかった」
エゴでしかないが、それでもこのエルフの気持ちもわからなくはない。
「それに、これから色々処理が必要だろう」
ランは全く反応しない。
「処理ってなに?」
ランに近づき、彼女の肩をさすりながら、高橋が聞く。
「ランダート王子の遺体を用意しないかぎり、厄介なことになるだろう。
王子が行方不明になれば、必ず捜索される。そうすれば、このことも調べられかねないだろう。
そうなる前に、第1王子は病死したことにする。そのための用意はしている。
身代わりの遺体を使えば、ランはもう自由だ」
「私はなんのために学んできたのかしらね。
王になるための教育を受けて、自分で自分を殺すことになるなんて」
ランの気持ちは、少しくらいはわかる。
俺も高橋も、ここにいることが、流された結果でしかない。
ここにいるしかないから、ここにいる。
でも、そんな言葉を突きつける気にはならない。
きっとランが1番、選べない人生を歩んできているのだから。
俺が指摘しなくても、誰よりも分かっているだろう。
「流されて生きるのが生物だ。
私たちエルフであっても、お前たち人間であっても、それは変わらない。
それでも目の前にある現実に、立ち向かうなり逃げるなりして足掻く。
少なくてもお前の母はそうして生きた。
お前はどうする?」
ランは黙って部屋を出ていく。
高橋もランに付き添って部屋を出た。
ランのことは高橋に任せるか。
改めて辺りを少し見渡すと、部屋に荒事があった気配はない。
エルフに吹っ飛ばされた時のままの部屋だった。
「お前はランを追わないのか?」
「高橋がいるからな。
俺は俺のやるべきことをするさ」
「やるべきこと?」
「早く遺体の処理が必要だろう?
王妃と王太子、両方のな。
ランはしばらく休ませたほうがいいだろう。俺が代わりにやるよ」
短いですが、楽しんでいただければ幸いです。
よろしくお願いいたします。