11話
ドレスに着替えたランに連れられるまま、巨大な屋敷に来た。
それにしてもなんでこいつドレス着ているんだ。
まあいいけど。
屋敷の周りには、警備兵が6人立っていた。
「あれどうするの?」
「彼らは私といれば何もしないわ。
何も言わずについてきて」
警備兵が近寄ってくる。
「殿下、失礼ですがそちらの者は?」
「私の警護をしてもらっている人たちよ。
わかったら、退いてくださるかしら?」
誰に対しても女口調なのか。
色々やばいな。
もしかしたら、俺がドレスを着ていても何も言われなかったのは、こいつがこの格好でいるからかもな。
「しかし、素性のしれない者は……」
「もう一度言うわ。
退いて」
ランから凄まじい威圧感が放たれた。
警備兵が後ずさる。
「行くわよ」
ランに連れられて進むと、屋敷の二階に来た。
ランがドアをノックをする。
「どうぞ」
「失礼します」
ランが声をかけて入る。
襲撃にきた割には、礼儀正しいな。
「ふふふ。
随分愉快な人たちを連れてきたのですね。
初めてみる肌の色。
紹介はしていただけるのかしら?」
ランに似た美女が笑顔で聞いてきた。
おそらく彼女がランの母親だろう。
その後ろには、美しい女エルフが立っている。
護衛らしきエルフは、何故か窓を開けに行った。
「つまらない話はまたにしてください。
それよりも、私に掛けた呪いについて、1つお聞きしたいことがあります」
「あらあら、何のつもりでしょう。
後ろの方たちを消したいのかしら」
さっきのランが放った威圧よりも、はるかに怖い威圧感だ。
「あなたがかけた呪い、性別を変える呪いだけではありませんよね。
もう一つのかけた呪いについて教えてください」
ランは全く気圧されずに、言いたいことを言い放つ。
「アンネ」
その声とともに喉を突かれた。
後ろに控えていたエルフの護衛が、俺と高橋を警棒のようなもので突いたようだ。
エルフがいつ移動したのか、まったく見えなかった。
高橋と俺は同時に吹き飛ばされた。
痛くはないが、窓に向かってどんどん加速していく。
なんだこれ、高橋に手を伸ばし、手を捕まえる。
そして、テラスの手すりに掴まった。
風邪を受けた鯉のぼりみたいになっている。
体が重い。しかも、重さを感じる方向が、横になっている。
「おい、高橋。
お前だいぶ重いな」
「違う。
あのエルフの仕業だよ。
体が重くなっている。しかも横向きに落ちているぞ、僕たち」
いい表現だな。
まさしく、横向きに落ちているんだ俺たち。
最初にエルフが窓を開けたのは、俺たちを追い出すためか。
手すりがミシミシ言い出している。
手すりが折れた。
くそ、高橋を掴まなければ良かったか。
いや、どちらにしても、完全にランと分断されている。
どうしようもなく、外へと飛んでいく。
とりあえず高橋を手繰り寄せて聞く。
「なあ、この状況どうにかできる力あるか?」
「印をつけた任意の場所に、転移するユニークスキルを持っている。
ただし、他の人までは連れていけない」
「そうか、それなら大丈夫そうだな。
俺も瞬間移動系の能力を持っている。
さっさとランの加勢に行こう」
「悪いんだけど、僕も一緒に転移させてくれないか?
正直、印をつけた場所が王都にはないんだ。
ユニークスキルを使えば、戻って来るまでに時間がかかるし、できれば君にどうにかしてもらいたい」
「他人を連れていけるかわからない。
一応やってはみるけど、ダメだったら自力でどうにかしてくれ」
「わかった」
『太郎さん来店』
そう念じながら、最初の貸し部屋をイメージする。
教授と初めて会った部屋に移動したはずだ。
壁に張り付きながら、体を回転させた。
ランはいないようだ。
ベットの上のお姉さんと目があった。
お姉さんの上にはハゲたオヤジがいる。
お姉さんが固まっている間に、虫みたいに床をはう。
くそ、瞬間移動しても、あのエルフにかけられた力は消えていない。
壁を歩いて、しゃがんでドアを開ける。
そして、また這いながら外を目指した。
落ちる方向に壁があれば歩けるが、そうでなければ這うしかない。
地面に指を突き刺しながら、ランの元へ急ぐ。
外から見たら、本当にキモい動きだろうな。
まあかなり速いから、気がつかない人の方が多いと信じたい。
人々の足を縫うようにして這い続け、ランがいるはずの屋敷に近づいてきた。
「おいお前、止まれ。
止まらなければ攻撃する」
いくらなんでも警備兵には気がつかれたみたいだ。
まあ、無駄だけど。
向かってくる警備兵を避ける。
さて、屋敷を囲んでいる塀も、指を突き刺しながら登った。
そして、塀に歩いて地面に戻る。
また指を地面を突き刺し進もうとした時、何がが頭に触れた。
すると一気に体がもっと重くなり、地面を削り、塀をぶち壊して横向きに落ちていく。
少し重力の方向が変わったような気がする。
そうして1キロくらい離れた所で、感じる重さが、最初にあのエルフにやられた時くらいまで戻った。
どういうことだ。
塀にこそぶち当たったが、他の家などにはまったくぶつかっていない。
あのエルフ、俺を飛ばす方向までかんがえていたのか。
なんにせよ、さっきほどまでの強い重力は感じない。
もしかして重力の大きさには制限があるのか。
それとも、さっき頭に触れた奴は、護衛エルフじゃないのか。
何にしても、塀には穴があいている。
指を地面に突き刺すことで勢いを殺しきった。
すぐに戻ってやる。
……いや違う。バカか俺は。
戻っても同じ結果だ。
この体勢だと、護衛エルフの突きを躱せない。普通の体制ですら奴の攻撃を受けたんだ。ただ戻っても勝ち目はないだろう。
せめて俺の受けている重力の向きを戻さない限り、戦うことすら難しいだろう。
俺にはダメージはないが、すでにランや高橋と分断されてから10分以上経っている。
ランと高橋の身が心配だ。
それに、このままでは教授からの依頼も達成できないだろう。
ランがうまくやっている可能性もあるが、楽観視はしないほうがいい。
指を地面に突き立てながら、這うように進む。
すると、体が軽くなり、重力の方向が戻った。
どうしたんだ、あのエルフが能力を使えない状況になったのか?
とにかく立ち上がり、ランの元へと急ぐ。