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富嶽娘  作者: 橋沢高広
2/11

【第2回】

 ※


 直さんと姉貴が結婚して二年後、姉貴は会社を辞める。

「どうしても、やりたい仕事があるの!」と言って、会社を去るんだけど、直さんは、それを止めなかった。いや、正確に言うと直さんも賛同する。

「お前の判断は正しいと思う。好きな様にってみなさい」と……。

 和乃かずのという私と六歳離れた姉貴は、私以上に性格が厳しい人なんだ。本当に妥協を許さない。

 姉貴は会社でアクセサリーの販売を担当する部署にいたんだけど、そこで数々の知識を身に付けた。本人も宝石やジュエリーに関して相当、勉強したと言っていたわ。その結果、自分の思う通りにアクセサリー等の販売をしたいという願望を持つ様になり、会社を辞め、ジュエリーや、アクセサリーの輸入代理店を始める。

(努力って、報われるんだなぁ……)と、感心したのは姉貴が経営する〈ちっぽけな店〉に対してだった。そのお店、丁寧な顧客対応に努めつつ、確かな品質のジュエリーを中心としたアクセサリーしか扱わなかった為、徐々に評判となり、確実に利益が上がる経営状態を確立して行く。姉貴は店の経営に関して本当に努力を惜しまなかったんだ。

 そんな時、姉貴はビジネス上のパートナーと出会う。輸入代理店にアクセサリーを輸出していたニューヨーク在住の男性。姉貴が独立して五年を経た頃だったわ。

 ここでも、姉貴は一切の妥協をしなかった。

「今後のビジネスを展開する上で生活の拠点をニューヨークにしたい」と言い出したの。これには、私を含む中島家が大騒ぎ。両親は、「旦那さんの幸直ゆきなおさんは、どうするの?」と詰め寄った。すると、「離婚するわ」と、たった一言で片付けてしまう。

「生活拠点が東京とニューヨークとに別れるんだから、会う機会は極端に減るわ。子供がいる訳でもないし、無理に籍を入れておく必要もないでしょう」

 平然と言い放つ姉貴に父親は、「結婚を何と考えているんだ!」と、一喝したんだけど、顔色一つ変えずに、「幸直さんの了承は得ているわ」と言って、ハンコが押された離婚届を私の家族に見せる。

「!」

 これには姉貴を除く全員が絶句!

 震える声で父親が、「どういう事だ?」と、姉貴に詰め寄ったんだけど、「これが全ての結果」と言って、再び、両親に離婚届を見せ、「何も心配は、いらないわ。話は全部、済ませてある」と告げ、姉貴は家を出て行く。父親は怒りで全身を震わせ、母親は、その場で泣き崩れた。私も茫然自失。

 この離婚に関して後日、私の両親が直さんのマンションを訪問したんだけど、もう、姉貴の姿はなかった。直さんも、「先日、ニューヨークへ発ちました」の一言で済ませてしまったと両親から聞かされている。しかも、平然と……。

 直さんは詳細を語らなかった様だけど、「和乃さんの為には、これが一番良い方法なんです。それは私も理解していますので、この離婚に関して心を痛めないで下さい。更に付け加えるのなら、私の事は心配いりません。何も気にする必要は、ありませんので……」と言ったらしい。

 私、この時、直感した。

(直さんって、もしかしたら、姉貴と同じ価値観、同じ思考回路、そして、同じ判断能力を持っているんじゃないか?)って。

 私よりも性格が厳しい姉と結婚生活を続けられる人がいる……、まぁ、厳密に言うと、「続けられた人」だけど、私にとって、それは一つの光明だった。世の中には〈素の私〉を理解してくれる人がいる筈だって。その〈生きた証拠〉が直さんなの……。


 ※


 私が今の会社に就職したのは五年前。直さんと姉貴が離婚した年だったわ。私自身、他の化粧品販売会社に勤めていたんだけど、倒産しちゃったのよね。その時、ちょっとした〈悪戯心〉が湧いて、直さんがいる会社の中途採用を受けたんだけど、見事に合格してしまう。

 直さん自身は、社内のパソコン関係を管理するシステム部に所属していた為、私が、この会社を受けた事も知らなかったし、私も就職が決まるまで、直さんに一切の相談をしていない。

 私が母親似、姉貴が父親似という事実に加え、「中島」という比較的多い名字だった為、社内で私と部署が違う上に、もう辞めてしまった姉貴との関係に気付く人は誰一人いなかった。直さんは除くけどね。

 社内で使用している全てのパソコンに携わるシステム部は、横断的に各部署と繋がりを持つ。その為、私が所属する販売第四課でも直さん自身が話題になる時もあった。

「大町さんの判断力って半端じゃないよね。その場、その場で即決するんだけど、その判断が間違えないって、凄い事だわ」

 化粧品等の販売を担当する販売第四課のスタッフは、五分の四が女性である。独身女性も多い。

 決して〈イケメン〉ではないけど、仕事に対する能力が高い直さんは〈バツ一〉であるにも関わらず、気にしている女性も少なくは、なかった。実際、その仕事振りは会社にも認められており、課長昇進の最年少記録を直さんは持っている。

 直さん自身も社内で自分が「どう見られているのか」を知っているから、いくら元・義妹の私であっても、その関係は、「知られない方がいいだろう」と言ったのだ。離婚した奥さんの妹が、この会社に入社したという事実だけでも色々な憶測を呼ぶのは間違いないだろうし、私と直さん、実はプライベートでも頻繁に会っている。これが会社側に知られれば、噂話をする上で〈恰好のネタ〉を提供するのは間違いないだろう。しかも、二人が頻繁に会っている事自体、私の両親も知らない。

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