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天錦宝史伝 〜新戦記編〜  作者: 花歌
第5章 〜双光輝く玉〜
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紅躅宏夜

 蘇芳の宮に着くなり宏夜は、礼儀がなってない、気配りが足りない、と宮の女官に文句をつけた。三年間も宮が空だったのだからしょうがないだろう、と昴が言うと、

「そういう時はあんたがしつけるんでしょ?……このお茶濃すぎ。もう少し薄くして持ってきてよ」

 と、ものすごく王族らしい台詞を吐かれただけだった。

 宏夜にとっては濃いそのお茶を一口含み、昴は目の前に座る異弟を見る。

「それで突然押しかけて来た理由はなんなんだ?鬼神と夜叉がどうとか言ってたな」

「鬼神が命じたから夜叉は碧を捻りつぶした、だよ」

 ズズズッと宏夜は茶を啜った。

「待てよ、鬼神?」

 ふと、昴はあることに気がつく。

「確か文に書いてあった。『悪の化身鬼神嘉瀬村への宣戦布告と成す』とか……」

「そう。僕も気になったんだ、その一節。まあ克羅のお姫様の言ってることそのまんまだから、大して驚くことでもないんだろうけどさ」

「……克羅の姫が言ってること?」

 昴は反復する。

「どうしてお前が克羅の姫の言ったことなんか知ってるんだ?」

「だって僕、斥候放ってるし」

 さらりと言われた台詞に、昴は硬直する。宏夜は気付いているのかいないのか、淡々と続けた。

「橘にいる碧の難民に紛れるように命令してたら思わぬ収穫だよ。昨日の早朝僕の所に戻って来たんだ。雨月の始めに顔のお披露目して、色んなことを吹聴したらしいよ。さっきの会議でなーんにも知らないあんたを見てたらあまりに笑えてさ、どうせならあんたに話してあげて、見返りに僕の知りたいことを調べてもらおうと――って、なにしてんの?」

 呆然と掌を見つめ、何かに憑かれたかのように今度は頬の傷に触れる昴を、宏夜は気持ち悪そうに見遣った。

「いや……」

 昴はほとんど無意識に返す。

 藍の言葉を知る者がいた。藍が何を考え、何をしようとしているのか、もしかしたら分かるかもしれない。

 別れた時に、紅を束ねる者と碧を束ねる者として、戦わなければならない可能性があることは分かっていた。それでも昴と藍はお互いを大切に思うが故に、お互いの大切なものの為に別れた。だから藍が敵となることも覚悟していた。けれど――。

 ――感情を殺しきれていなかった。

 文の中に彼女の名を見つけ、敵に回さなければならないことを敵として悟った時、昴の中で何かが永遠に崩れた。それを、枷というのか蓋というのか分からないけれど、ただ一つ確実なことは、戦で藍が負けてこの世界からいなくなった時、自分はきっと耐えることが出来ないだろうという真実だった。

 藍を想いたい。それは昴の心の奥に埋まる感情の全て。だから藍が昴の国と戦うことに何らかの意味を見出だしているのなら、昴もそれを知りたい。

「詳しく話せ紅躅。見返りでもなんでもしてやろう」

 昴の豹変に宏夜は瞳を大きく見開いたが、すぐにニヤリと笑った。

「約束するんだね?」

「俺はお前の兄でもあるんだ。二言はない」

 そして始まったのが宏夜による長い話だった。

 ずっと行方不明のまま表に出てこなかった克羅の姫は、姿を表すなり碧の民に戦うことを唱えたという。国を失い、民に迷惑をかけたことへの謝罪から始まった演説は、自らが善の神――月の神子の生まれ変わりであると称し、同時に嘉瀬村が鬼神であること、碧を滅ぼし、禍の世を作り上げているのが他ならぬその鬼神であることを唱えるまでにいたったという。鬼神を倒せばこの世界から夜叉は消え、禍の世は去る。だからこれは善と悪の戦いであるのだ、と決然と言い放ったらしい。

「さっき父上も言ってたけど、鬼神っていうのは夜叉の中の王みたいなものらしいよ。各地に出没している夜叉を操っているのが鬼神で、そいつを倒せば夜叉はこの世界からいなくなるんだってさ。ついでに言うと、その鬼神は父上らしい」

 上手い話だよね、と宏夜は笑う。

「民衆を引き付ける為に、自分が月の神子の甦りだなんて嘘言って何が楽しいんだろ。それに父上が夜叉の王だって?話が出来過ぎてるよ」

 ちらりと宏夜は昴を伺った。

「……って言いたいんだけど」

「言えないんだろう?」

 静かに口を開いた昴を、宏夜は無表情のまま見た。

「なんでそう思うわけ?」

「理由は三つ」

 昴は淡々と答える。

「一つ目は、そんな神話じみた作り話のようであるにも関わらず、背後に白と緑が控えるという不自然なまでの結束があることだ。逃げ続けていたであろう亡国の姫が、それぞれ二つの国に見合うほどのものを差し出せるはずもない。だから何かを条件に白と緑を味方に付けるのは不可能だ。となると、白西国、緑北国、そして碧の国の三国が共通する目的を持っているとしか思えない。おそらく利害の一致で組んでいるんだろう。それに三国には、克羅の姫が本当に月の神子の甦りであるという確信があるはずだ。確信なくこの国に戦を仕掛けてくるほど、白も緑も落ちぶれてはいない。布告の文の『其が悪であることは明白であり、よってここに悪の化身鬼神嘉瀬村への宣戦布告と成す』という文脈はそういう意味だろう」

 二つ目は、と昴は続ける。

「嘉瀬村が碧の国に戦を仕掛けた理由だ。碧の国を攻撃した正式な理由はこの国の高官でさえ知らない。だが、善と悪の神の生まれ変わりを探していたから、という身勝手な裏の目的があったことは有名だ。お前も知っているだろう?」

「……まあ一応」

 宏夜はつまらなそうに答えた。昴は頷く。

「嘉瀬村は二つの神の甦りを欲した、その理由は誰も知らない。つまり嘉瀬村には誰にも言えない大きな秘密があることになる。これは変えられない事実だ。そして三つ目の理由」

「僕がさっき言った、鬼神が命じたから夜叉は碧を捻りつぶした、でしょ?」

 昴は頷いた。

「夜叉が特定の何かを狙うなんて、絶対にありえないんだ。だがその夜叉の王であるという鬼神が『碧の兵のみを狙え』と命じたら、きっと奴らは碧のみを攻撃するんだろう。紅と碧の戦で紅に味方したのはどうしてだ?なぜ鬼神は紅を好いた?それに嘉瀬村は鬼神が何であるかを知っていた。一体どこで知ったというんだ?」

「自分が鬼神だから」

 はーあ、と宏夜は頭を抱えた。

「当時からおかしいとは思ってたんだよね。太古から続く碧を潰そうっていうのに、出陣兵を異常に少なくするよう命令してたし。兵を四十万用意したとか言ってるけど、実際戦に赴いたのは十五万いけばいい方さ。それに知ってる?碧は克羅陥落の前日に十万の兵を碧の国長自ら率いて来たたんだけど、克羅陥落の次の日に夜叉がほとんどボコボコにしちゃったらしいよ。克羅のお姫様がいる都が襲われた途端、夜叉が急に増加して現れてるのは、絶対偶然じゃないよね。お姫様って碧の巫女もやってたんでしょ?多分勘繰られるのが嫌だったんだよ」

「……嘉瀬村は」

 自分で自分の見解を広げ、宏夜に新たな真実を聞いておきながら、昴は未だ信じられないでいた。

「本当に鬼神なんだろうか……」

「少なくとも、あっちのお姫様方はそう思ってるみたいだけど」

「鬼神が嘉瀬村に成り代わったのか、鬼神が嘉瀬村と組んでいるのか、鬼神が嘉瀬村を操っているのか、それとも……嘉瀬村なんて人間は最初からいなくて、鬼神が嘉瀬村という人間を名乗っていただけだとしたら――」

「僕もあんたも夜叉の子供だってことになるね」

 絶望的な言葉に言葉を無くす昴の向かい側で、くすくすと宏夜は笑う。昴は信じられない思いで見つめた。

「何で……」

「笑うのかって?だって、もしかしたら僕たちも夜叉を操れるかもしれないんだよ?こんなに楽しいことはないでしょ」

 呆然と、昴は弟を見つめた。

 昔――まだ昴も宏夜も、権力争いとか王位とか、そんなものをまったく知らなかった頃、二人でこっそりと遊んだことが何度もあった。宮の縁側の下や、庭の物影に隠れて、剣の練習や乳母の文句、日常生活の不満や楽しみを二人で打ち明けた。

 当時、二人の年齢は三、四歳くらいだったが、その頃の宏夜は、和歌滝や飛渡と変わらない、心の優しい子供だった。

「まあ、僕たちが夜叉の子供だったら、鋭い牙が生えてて、爪がかなり尖ってると思うけど。今のところ、そのどっちの特徴も僕たちには見当たらないから、その説は却下」

 自分の言った言葉の意味など気にせず、宏夜は語る。

「鬼神と父上が組んでるっていうのも考えにくいよね。だってそんな対等に渡り合えるほど父上に脳みそがあるとは思えないし、鬼神が父上に成り代わったって説も有り得ないないと思うな。撫子の女の所に最近生まれた朱子は普通の子でしょ?ってことは父上は確かに人間ってこと。――とり憑かれてるって考えるのが妥当だよね」

「そう……だな」

「あとよく意味が分かんないのは、克羅のお姫様の言う、禍の世の原因が鬼神に憑かれた父上のせいってやつ。ほら、文にも書いてあったでしょ。『禍の世が始まり百年経つ。その元凶が其であると、既に我等は承知している』だったと思うけど。百年前に鬼神が何かやらかしたのかな?」

 分からない、という意味を込めて昴は首を振った。

 ――今は宏夜のことを考えるのはやめた方がいい。

 人は変わるものだ。あの頃の、昴の知る宏夜はどこにもいない。彼を惜しむのは昴の身勝手な思いだ。今宏夜が目の前にいるのだって、単に二人の利害が一致したという、それだけが理由であり、そこに兄弟としての愛情も信頼も何もない。

「あともう一つ、文に書いてあったこと覚えてる?」

 宏夜が放つ、初めて不快感をあらわにした声を聞いて、昴は顔をあげた。

「『真なる紅日の者を紅の国王に就ける』って、まるで僕たち柳瀬が神の血を引いてないような言い方だよね。莫迦にしないでほしいよ」

 ぴくり、と昴はその言葉に反応し、思わず顔を背ける。

 ――その通りだ。

 嘉瀬村は柳瀬の血を持っていない。故にその子供達も柳瀬ではない。

 藍は真の柳瀬を王に就けたがっているというけれど、一体どこまで知っているのだろう。嘉瀬村が神の末裔でないことも、昴が確実にその嘉瀬村の息子である事も、そしてその先も知っているのだろうか――。

「……さて、これで僕の情報公開は取り敢えず終わった。次は僕があんたに見返りを頼む番だ」

 宏夜は笑った。少年らしい、綺麗な笑み。だが、それが作られたものであることは、もう充分理解している。

「……分かった。で、何を求める?」

 宏夜はにっこりした。

「父上に正気が残ってるか確かめてくれる?」

 昴は無言で宏夜を見つめた。

「さっきも言ったけど、父上は鬼神に憑かれてる。だけど、時々正気に戻る時があるかもしれない。いや、多分あると思うんだよね」

 今まではただ単に、狂ってるんだ、と思ってたんだけど――と宏夜は言う。

「人殺すと、時々我に返ったように自問自答するでしょ?どうしてこんなことをしてるんだ――って。あれってもしかしたら鬼神から一瞬だけでも開放されて正気に戻ってるんじゃないかなって思ったんだけど――」

 ハッとして昴は宏夜を見つめた。

 そうだ。確かに嘉瀬村は人を斬った後、別人のようになりそれを嘆くことがある――気づかなかった。

「じゃあ、もしかしたら嘉瀬村を助けられ――」

「もしそうだったらかなり面倒なんだよね」

 二人の声が重なった。宏夜の言葉に、昴は衝撃を隠せなかった。呆然と目の前の少年を見遣り、持っていた湯飲みから力が抜ける。全て飲み干したところだったから、衣が汚れることはなかったが、コトリという小さな音を立てて、湯飲みは床に転がった。

「なに言ってんの?」

 宏夜は無表情のまま言った。

「あんた、父上のこと嫌なんじゃないの?僕はてっきりそうだと思ってたんだけど」

 ――嫌……?

 そう。嫌だった。人の血を好み、人の死を笑い、暴虐のみを愛する非人道的なあの男が。父親だなんて思っていない。父だなんて呼んだこともない。でもそれが、全て鬼神のせいであるとしたならば――。

「俺は……あの姿が嘉瀬村だと思っていたから――」

「今だって嘉瀬村だよ。中身はさておきね」

「だがあいつは夜叉に体を乗っとられてるかもしれないんだぞ?意思が残っていて、その意思が殺しを厭っているのだとしたら――」

「乗っ取られる方が悪いんだよ」

 昴は絶句した。

「乗っ取られるような弱くて愚かな父親なんていらないし、そんなのを敬愛しなくちゃいけないなら、今のままでいい。むしろ今の父上のままでも別に僕は構わないんだよね。だけどさ、そんな風にまだ弱くて愚かな父上が残ってて、それが時々出てくるとなるとさあ――」

 宏夜は微笑んだ。

「殺しにくいでしょ?」

「なっ!」

 昴は腰を浮かす。しかし宏夜の表情は変わらなかった。

「暴君柳瀬王に、そういうあまちゃんな考えを持つ部分があったとして、それが官に知られると困るんだよ。折角戦鬼と恐れられる王を弑いた僕が皆に持ち上げられて新王になる、っていう筋書きがあるのに、あれは本来の王ではなかった、とか喚かれたら困るし。どうせ鬼神も取り憑くならさ、もっと徹底的にやってほしいよ」

 中途半端は嫌いなんだよね、と呟くその顔面を殴りたい衝動を、昴は必死に抑える。

「お前の父親だぞ……」

「関係ないでしょ」

「嘉瀬村は鬼神に抵抗して、自我を取り戻そうとしているのかもしれないのに――」

「だから、そうなったら困るんだって」

「……お前にとって嘉瀬村は何なんだ?」

 昴は宏夜を見つめた。可愛がっていた弟。一緒に遊んだ弟。その幸せが崩れるなんて思いもしなかった。あの時の昴は、確かに目の前の少年を愛おしいと思っていた――。

「何って、父親以外何かある?」

 宏夜はゆるりと立ち上がり、衣の皺をぱっぱと払った。普通すぎるその行動まで、今の昴には怒りを買うものとなる。

「じゃあ約束守ってよね。僕はちゃんと話してあげたんだから。報告はいつでもいいけど、母上にはばれないようにしてよ?あの人も莫迦だからさ、いつもあんたを殺したがって、僕も止めるのが大変なんだよ。今あんたを殺したら僕の形勢が悪くなるだけだってこともわかんないのかな。あ、でももうすぐあんたを殺せる」

 今思い付いた、というように、宏夜は嬉しそうに笑った。

「もうすぐ戦だし。どさくさに紛れて、あんたも敵にやられて死んじゃうかもしれないから、気をつけた方がいいよ」

 言外に含まれた言葉の意味を悟って、昴は宏夜を睨みつける。と、宏夜は突然懐から白いものを取り出し、昴に突き付けた。文、だった。

「……なんだ」

「三日前に十七歳になったでしょ?だから僕からのお祝いの品」

 昴は目を丸くした。

「何で知って――」

「知ってるよ。祝宴開かなかったから、ほとんどの官は何もくれなかったと思うけど、僕はちゃんと用意してたからね。はい。大したものじゃないけど。父上には何をもらったの?」

 昴は瞬間的に腰元の剣を見た。

「それ?」

 見せて、と笑う宏夜を昴はじっと見た。

 普通に見れば邪気のない少年だ。少し細身の身体や髪や瞳の色なんかは、とても父親に似ている。しかし少年自身はそれをなんとも思っていない。

 宏夜が突き出した手から白い文を取り、そこに剣を突き付ける。受け取った宏夜は鞘から剣を抜いた。

「さすが父上のお気に入り……。すごく高価な代物だよ。背丈にもピッタリなんじゃない?」

 昴は無視した。

「きらびやかな細工はあんまりないね。とすると実戦向きか。だから嫌いな父親から貰ったものであっても身につけてるわけ?あんたらしいなあ」

 昴に剣を突き付けて楽しんだりするのではないだろうか、と昴は宏夜をじっと見たが、彼はそんな気配は微塵も見せず、丁寧に剣をしまうとそっと昴に返した。その笑顔は満足そうだった。

「さて……。じゃあ僕は帰る」

 暗くなった外を見ながら、宏夜はけだるそうに言うなり、昴に背中を見せた。その背中を見て、昴はとあることに気付く。

「待て!」

 立ち上がった昴を、宏夜は振り返った。

「一つだけ聞く」

 低く小さな声で、視線を反らしながら昴は呟いた。

「紅藤と夜を共に過ごしたというのは本当か」

 沈黙が、おりた。

 昴は極力宏夜を見ないようにしていたが、宏夜は昴を見つめ続けているようだった。視線が痛いくらいに注がれ、そのせいもあってか、お互いに身動き一つしなかい。

 松明の火の粉が散る音だけがしばらく響き、そして唐突に、声が響いた。

「紅藤は特別だからね」

 昴は顔をあげた。震える声、突然小さくなった声量。今までの宏夜の余裕ぶりが突然途絶え、それが昴に、宏夜が今真実の彼であると告げる。

「どうして妹だったのか、僕にもよく分からない」

 フッ――と、まるで何かの術を使ったかのように、宏夜は闇の中に消えた。

 ――宏夜……。

 彼は昴の弟で、昴の命を狙っている。妹と通じ、父王も手に掛けるつもりで、その生を全うしているのだ。

 手にある白い文を、昴はじっと見つめた。

 どうして宏夜は昴の生まれた日を覚えていたのだろう。昴が王位を狙っていることは、彼も知っているだろうし、宿敵であることもわかっているはずだ。なのにわざわざその相手に、今回の戦の全貌を条件つきとはいえ伝え、揚句祝いの品を残して行った。

 ――何かを伝えたいのだろうか。

 文を開こうとして、昴は思い止まった。先程まで交わしていた数々の会話は、確かに紅躅の中の真実だった。父を父と思わず、人の命の重さを踏みにじる野心あらわに生きる子供。残酷なその精神を、どうして昴が理解する必要がある。

 手元の文を、昴はすぐ傍にあった松明の中にほうり込んだ。

 約束を違えるつもりはない。見返りは必ず返す。だが、それ以上の関係も以下の関係も持つつもりは永久にない。なぜなら彼は昴の死を願っているのだから。


 そして次の日、紅躅宏夜はこの世界から永久に姿を消した。


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