死んでから知る自分の望み
「はい、お疲れ様。どうだった君の人生は?って聞いても喋れないから意味ないか。
この世界の人類は念話みたいな能力は使えないからな~。五月蝿くないから楽でいいけどね。
んじゃ始めるよ。名前はリクルド君か・・・ん、口をぱくぱく動かしてどうかした?
だから、喋ろうとしても無理だって。この空間は空気がないから君の声は届かないの。
続けるよ?リクr・・もう、なんだよ。こっちだって忙しいんだから早く終わらせてよ。
顔の前で腕を交差させて必殺技でも打つの?違うか。見たくないものでもある?違うか。
あ~会話出来ないって面倒くさいな~。君は念話使えないから僕からの一方通行なんだよね。
仕方ない。ほら、今までみたいに喋ってみて。読唇術で何を伝えたいか読むから。」
【お・れ・の・な・ま・え・は・は・や・と】
「俺の名前はハヤト?・・・あ~ごめんごめん間違えた。リクルドは君の前世の名前だった。
じゃあ改めて。仲林隼人、30代の両親から生まれ姉と弟がいる。姉は大学3年の時、サークルの先輩と恋愛結婚し、後々子供を授かり幸せな生涯を送る。弟は中学卒業後、パティシエになると宣言しフランスへ修行の旅に出た。修行先の店の娘に一目惚れし恋人になる。パティシエになってから結婚式を行い年末には帰省するが、生涯をフランスで終える。
そんな姉弟がいる君だけど、特に目立ったことないね。大学卒業まで勉強したり友人と遊んだりして過ごしていたけど、社会に出て数年後本社の方に転勤となり一人暮らしを始める。地元から離れることで友人と遊ぶ機会も減っていき、新しい住まいではオフィス街に住んでることから遊び場が少なく友人があまり作れなかった。パソコンは持っていたので、会って遊べはしなくても友人とメールすることはできた。
唯一の趣味が読書で、休みの日は図書館に行って本を借り、次の休みに本を返しまた借りる。友人と遊んだり趣味に没頭したり仕事で忙しかったりと色々あったので、恋人は生涯できなかった。博打・たばこ・酒といったことも好き好んでやらず、重い病気にもなったことがない。両親は姉の家族が見てくれていたので弟と同じ時期に帰省し家族団欒で年末年始を過ごす。仕事をして趣味を楽しんで過ごし、誰に看取られることなく生涯を終える。か。」
「ふぅ。・・・で、どうだった?《希望通りの人生》は。」
「隼人君、実はね、
《この世に生きるすべての生き物の人生は、その人の前世の希望によって作られる》んだよ。
まあ、前世の記憶は消されるけどね。残したい人生じゃない人のが多いしね。たまに、記憶保持したいって人もいるけど、全てはさすがにね。ほら既視感ってあるでしょ。あれは前世の記憶を残したからなんだ。
それで、前世の希望ってのは、例えば、前世で大金持ちだったけど、金を持っていたことで知人友人関わらずに騙され裏切られ、信じていた家族にまでも[家族の一人]ではなく[金ヅル]となった人がいた。人生に悲しみ自殺したその人は[来世では貧乏でもいいから信頼できる人と笑って暮らしたい]と願い、アパートで恋人と仲良く暮らしてたよ。
他にも、前世で運動や勉強が苦手でいつも暗い表情の人がいてそのまま寿命を終えた人は[今度は勉強でも運動でもいいから一番になって褒められたい]と願い、どちらも叶えてあげたよ。スポーツ推薦で大学に入りプロにスカウトされ40歳まで活躍し、引退後は小説家として名を残したね。
で話は戻るけど、どうだった?前世で願った人生は。君は前世では大変だったからね~。
聞く?聞いちゃう?君の前世、リクルド君の人生を。」
『リクルドは物心付く前に町を襲った山賊に家族を皆殺しにされた。父親は家族を守ろうとし殺された。母親も子供たちを守ろうとし殺された。姉は山賊の性の対象となりおもちゃにされ、結果殺された。そんな家族を前に赤子が何の反応も示さなかったことが気になったのか、山賊の頭が育てることになった。衣食住が与えられ、代わりに戦い方や殺し方を教わる。
町で暮らし町を襲い続けて12歳になった時から、頭の指示で身体を売るようになった。まだ幼く顔立ちも良く鍛えているからか、老若男女問わず貴族から呼び出されることになる。ただ、相手が誰でもリクルドを犯そうとする客は来ず、リクルドに犯されたいという客しか来なかった。
19歳になり山賊の中に〈死体屋〉という人物がいることを今頃知った。死体屋はどこの町を襲い、どんな住人がいたか、誰が何人殺したか、どのように殺したかを書き集めるのを生き甲斐としていた。そこで真実を知ったリクルドは宴会をした日の夜、皆が寝静まった頃山賊を皆殺しにした。
死体屋が書き記したある本にこう書かれていた。』
(家族を庇い死ぬ父、子供を守り死ぬ母、強姦され殺される姉、それを無表情で見ている赤子。赤子をリクルドと名付け育てる)
『山賊を皆殺しにした翌日、死体屋から奪ったメモ帳の襲った町々を訪れ人数分の墓を作った。最後に自分が生まれた町に着いて墓を作り終えると、[家族がいて、誰も殺したりせず、誰にも迷惑をかけない平凡な人生が良かった]と呟いて、家族の墓のそばで眠るように短い生涯を終えた。』
「これが君の前世、リクルド君の人生だよ。ちなみにリクルド君の前世はというとね。
彼女は家族にすごく愛されて育てられ、感情表現が豊かでよく笑う子だったから可愛い彼女の周りには人がたくさんいたね。自分が欲しいものは全て買ってもらい、面倒事などは付き人にやってもらっていた。 そんな彼女も生涯を終える間際。今までを振り返って、自分の望み通りだったけど自分がなにかしたことはなかった。次があるなら[一人前になったら自分ひとりだけの力でやりたいことを成し遂げたい。やられるよりもやる]そんな人生が良いな。って願ってたよ。」
「さて、君の前世。さらにはその前の前世の話までし終わったんだけどさ。
ねえ、隼人君。次生まれ変わるならどんな《生涯》を送りたい?ライセに願ってごらん。」