女子高生
「ねぇ、知ってる?レナが階段から落ちて足を捻挫したって」
「え〜、いつの話よ、それ?」
「今日の昼休みだって」
「骨折の疑いもあるからって、親が迎えにきて病院に行ったみたい」
「最近、調子にのってたから罰が当たったんじゃないの!?」
「やだ〜、なに、それ!? マジうける」
放課後に交わされる、私達仲良し四人組のいつもの他愛ないやりとり。情報をいつも集めてくるのはエリ。その能力を勉強に活かせれば志望の大学にだって受かるのに、と私が密かに思っているのは内緒の話。
「じゃあ、またね〜」
「うん、また」
「バイバ〜イ」
「ごきげんよう」
「なによ、それ」
四人は帰る方向が一緒なんだけど、サオリとユミとは途中でお別れ。
いつも最後は家の遠いエリと私の二人きりになる。
「あのね、さっきの話には実は裏があって…」
「さっきの話って、レナが階段から落ちた話!?」続きを待ったけど、エリはなぜか黙りこんでしまった。
「どうしたの?」と下から顔をのぞきこむと、エリはためらいつつも話しはじめた。
「朝、バス停でいつもしゃがんでるオヤジ、知ってるでしょ?」
「うん、知ってるけど」
「あのオヤジの後ろ姿を写メに撮ると…嫌いな人がケガをするって噂、知ってる?」
「聞いたことはあるけど、そんなのデマだよ、きっと」
そしてまた沈黙。辺りはすっかり暗くなり、どこからか夕飯のカレーの匂いが漂ってくる。あ〜、お腹、すい…
「ナオミもやってごらんよ」
「はぁっ!?」
「それじゃ、おやすみなさい」
お風呂から上がった私は自室に引き上げる。そしてベッドにうつ伏せにDIVE!ぼふっ
半乾きの髪を指にクルクルと絡めながら、さっきのエリとの会話を思い出していた。
私にだって嫌いな奴はいる。ヨウスケとマイ。二股をかけていた元カレとその本命。夏休みのあの出来事を思い出すと今でも悔し涙が溢れてくる。
今日だって廊下で見せつけるようにイチャイチャしてたし、あの二人なら罰が当たっても当然。
純情な乙女心を踏みにじってくれた代償は高いんだから。
「よし!」決意を決めた私はスマホを鞄から取りだし、無音カメラをダウンロードする。
あとは明日の朝、あのバス停でしゃがんでるあのオヤジを撮ればミッション完了!
翌朝、私はいつもより少し早く家を出た。
天気予報によれば今夜には台風がきて大荒れになるらしい。今はまだ青空が広がっているけれど、雲の流れは速い。
嵐の前の静けさってとこね。復讐にはうってつけの日だわ。
目的のバス停までは徒歩で10分もかからない。
小さく視界に入ってくるバス停。
あのオヤジはいるかしら?
バス停が近づくにつれ高まる鼓動。頭の中で昨夜たてた手順を繰り返す。
あのオヤジに近づいたらメールをチェックする振りをしてパシャ。あのオヤジに近づいたら…
いた!あのオヤジは今朝もいつもと変わらずバス停でしゃがんでいる。
怪しまれない程度に近づき、メールをチェックする振りをして無音カメラを起動。
ターゲット、ロックオン!今だ!(パシャ!)
撮影を終えると同時に、私はスマホを握り締めたまま走りだした。一刻も早くその場から立ち去りたかった。体育の授業でも本気を出したことのない私が全力で走った。
途中、OLらしきお姉さんとぶつかりそうになったりもしたけど、とにかく人気のないとこへ。
確かこの辺に小さな公園があったはず。とりあえずそこへ行こう。
公園に辿り着いた私は息も絶え絶えに辺りに人がいないか確認する。大丈夫、誰もいない。
乳酸が溜まって重い足を引きずりながら、とりあえずベンチへ。
ベンチに腰かけ何度も深呼吸を繰り返し、恐る恐るスマホの画面を確認すると…
「なに、これ!?」そこに写っていたのはブレまくりのあのオヤジの後ろ姿。手振れ防止機能も敵わないくらい私ってば緊張で手が震えてたの!?一気に脱力。なんだかおかしな笑いがこみあげてくる。
「私ってバカだな」そう呟くと涙が零れてきた。
どのくらい泣いていたのだろう。ずいぶんと長い時間だった気もするけど、ほんの数分なのかもしれない。気がつくと入口で散歩途中の犬がこちらをじっと見ている。
「やっぱ私には無理か」画像を消去し、そして私は学校へ向かった。