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小学生

いまオレらの間で流行っているもの。

けん玉と、妖怪の出てくるアニメだ。

特に妖怪アニメのリストバンド。

そのリストバンドに妖怪メダルをセットして、ライバルと対戦するのさ。

色んなメダルをはめ込んでカスタマイズができるから、そいつはまさに自分だけのオリジナルリストバンドってわけ。

カスタマイズの仕方によって、同じ妖怪でも強くも弱くもなる。でも、高いメダルを使ったからって、必ず強くなる訳じゃ無いってのが重要なんだぜ。

みんな、誰がどんな風にカスタマイズしてくるのか、戦々恐々さ。

だからあれが無いと仲間外れになっちゃうんだよな。

それでみんな、親に買ってもらうために涙ぐましい努力をしてるんだ。

ユウちゃんなんて3日間風呂掃除したって言ってたし、カズトのやつは交換条件でピアノのレッスンに通い始めたって。

「女子みたいでヤダ」って言ってた癖にさ。

意志の弱いやつだぜ。

斯く言うオレだって家のゴミ出しを毎日やって稼いでるのさ。

1回ゴミを運んだら100円て事になってるから、後何回かやれば買って貰える。長かったぜ。

そんなある日、みんなで妖怪のリストバンドでバトルをして遊ぶ事になった。

やばいよ。だってオレ、まだ買ってもらってないんだもん。

「なんだ、おまえまだ持ってないのかよ。だせーな。」

やっぱりだ。

「ち、違うよ。あるけど忘れたんだよ」

うわ。何言ってんだオレ。咄嗟に嘘吐いちゃった。

「じゃあ明日必ずもってこいよなー。」

「絶対だからな。」

「わ…わかったよ」

家に帰って母ちゃんに訴えたが、聞き入れて貰えなかった。まあ最初からダメモトだったんだけどさ。でも、どうしよう。

「そうだ、あいつに取られた事にしちゃえ」

オレらが小学生になった頃から、通学路の途中にあるバス停に、いつもしゃがんでいるオジサンが居た。

バス停には他にも並んでる人がいたが、誰もそのオジサンを気にも留めてないみたいだった。


そんな時誰かが、あれは子供にしか見えない妖怪「シャガミン」だと言い出した。だって、あれだけ人がいて、だれもそいつの方を見もしない。知らん顔をしてるんだぜ。きっとあの大人達には見えてないに違い無いんだ。

そのシャガミンにリストバンドを取られた事にした。


「やべーよ。ヒデヤのやつ、バス停のシャガミンとのバトルで負けて、リストバンド取られたらしいぜ」

「まじかよ!シャガミン容赦ねーな!」

学校の噂は、バス停の「ヘンなオジサン妖怪シャガミン」で持ちきりになった。

オレはシャガミンと勇敢に戦ったが敢え無く負けてリストバンドを取られた悲劇のヒーローって事になっていた。

そりゃ、ちょっとは心が痛んださ。ちょっとだけな。

母ちゃんには「嘘つく人間にだけはなっちゃいけない」って、普段から口酸っぱくして言われてたし。

でも、あと何日間かの間だけ、それも他ならぬリストバンドのためだ。許せ、母ちゃん。


学校ではもう誰も、オレがリストバンドを持ってこないからと言って責めたりしなかった。

その間、家ではガムシャラにゴミ出し頑張ったんだぜ。

あれから数日、やっと自分のリストバンドを手に入れたその日。

いつものように学校へ向かう途中のバス停に、これまたいつものようにシャガミンがしゃがんでた。

今朝のシャガミンは少し寂しそうに見えた。

と。

シャガミンが立ち上がった。

「立った立った! シャガミンが立った!」

驚いて立ち止まったオレの目の前で、シャガミンはドアを開けたバスの中へと消えて行った。

その日学校では、リストバンドが無いまま再挑戦を挑んだオレに恐れをなしたシャガミンが、謝りながらリストバンドを返して旅立って行ったと放課後まで噂されたんだ。

翌日。

シャガミンは何事も無かったかのように、いつものバス停でしゃがんでいた。

オレの最強伝説は、たった1日で終わった。



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