深夜に楽しく鬼ごっこ!
早足の田中がやられた。
その情報は、俺には最悪な情報だった。
「山本。その情報は本当か?本当ならヤバいことになったぞ。」
「ああ俺は目の前で奴がやられるのを見たから本当だ。こちらがやられるのは既に時間の問題だろう。」
俺たちは大学のサークル活動で、とある目的のために深夜の公園に来て、鬼ごっこをしていた。
この鬼ごっこのルールは簡単。制限時間30分で、最後まで生き残ったら勝ちだ。
捕まった者はスパイとなり、逃走者を探し、鬼へ報告をする係となる。
もちろん。スパイは捕まえることは出来ない。
「うわあああぁぁ…。」
その時、悲痛な叫び声がブランコの方から聞こえた。
「今の声、誰か捕まったのか?」
「ああ。そうみたいだ。鬼役の宮本部長が下に向かって来たらアウトだ。」
この公園は遊具が約100メートル程離れて4角に設置してあり、上空から見て、南にある公園の入口を下にし、左上にジャングルジム、右上にブランコ、左下にシーソー&滑り台、そして俺たちが今隠れている土管と鉄棒のコーナーが右下にある。
つまり、右上のブランコにいる鬼役の宮本が右下の俺らのところに来たら、ピンチになるのである。
現在置かれている状況は最悪だった。
「あと生き残りは、渡辺、八島、須賀、山本、俺の5人か。」
「いや、八島はさっき田中と同時にやられた。4人だ。」
「じゃあ、さっきの声は須賀か渡辺先輩のどちらかか。」
俺は腕時計を見た。
残り時間はあと20分。果たして逃げられるのだろうか。
その時、ブランコの方から足音が近付いてくるのが聞こえた。
「ここに来る。逃げるぞ!」
俺と山本は公園の土管の中からジャングルジムに向けて飛び出した。
「いたぞ!土管から複数出てきた。」
突然ジャングルジムの上から声が聞こえた。
声の正体は須賀だった。どうやら捕まっていたらしく、遠くのジャングルジムの上で監視していたらしい。
「見つけたぞ。」
そして須賀の声を聞き、ジャングルジムの影から田中が走って現れた。
「やっべ、逃げるぞ。」
俺たちは急いで隣の滑り台コーナーに逃げた。
「くそぉ。追いつかれる。」
走る山本と俺に差が出始めた。山本の体力が力尽きてきたようだ。
「山本。大丈夫か。」
「くっそおおお。捕まってたまるか」
山本は右下の土管がある方に体の向きを変えて逃げた。
どうやら土管に隠れるらしい。だがその作戦は早くも失敗した。
田中は山本を狙ったのである。山本と田中は土管のある場所に向かって、夜の闇に消えた。
「うわあああぁぁ…」
山本だと思われる悲痛な叫び声がブランコのほうから聞こえた。捕まったらしい。
俺は山本の意思を継ぎ、滑り台に向けて走りつづけた。
すると、俺の前に突然鬼役の宮本が現れた。
「須賀の声がしたから、公園の入り口から走ってきたぜ。これで終わりだな。」
宮本部長はそう言い放ち俺に向かって走ってきた。そのあまりの早さに俺はすぐタッチされた。
「くそおおお。あと40秒逃げれば勝ちだったのに。」
「残念だったね。」
宮本部長はそう言い放った。
あと捕まっていないのは渡辺だけだ。
「さて、渡辺くん、覚悟するんだ。」
そう言うと、宮本部長は滑り台の上を見た。
「渡辺、そこにいるのは分かっている。 」
そこには渡辺先輩がかがんでこちらを見ているのが見えた。
「ばれたらしょうがない。だが、残り時間は15秒、その場所から僕のところへはどんなに瞬発力が良くても来れない」
渡辺先輩は自信満々に宮本部長に言った。
確かに渡辺先輩はジャングルジムの上におり、あそこに行くには時間がかかる。
しかもどちらかから鬼が上る間に、片方から降りればいい。
なるほど、そういう作戦もあるのか。俺は渡辺先輩は凄いと思った。
「はいタッチ。」
あれこれ俺が考えている間に、渡辺先輩は宮本部長に捕まっていた。
宮本部長は階段から近づき、渡辺先輩は滑って逃げようとしたが、お尻が挟まり動けなくなり、あっさりと捕まったのである。
渡辺先輩が凄いと思った俺が急に恥ずかしくなった。
「俺たちはあの頃の若さはないんだよ。」
宮本部長はそう言い放ち、タイムリミットとなった。
「いやー、全員捕まったか。」
山本が嬉しそうな顔で土管のほうから現れた。
こいつ、なんでみんな全員宮本部長に捕まったのに嬉しそうなんだ。
ん。まてよ。
「宮本。お前、山本にタッチしたか?」
「いや、していないぞ。あっ――。」
ここで、最初のルールを思い出してみよう。山本は田中に捕まったが、田中はスパイ係だから捕まえることは出来ない。俺たちはそのルールを忘れてしまい、山本が捕まったように錯覚してしまったのだ。
「っていうことは、山本は逃げ切った――?」
「ピンポーン。大正解。」
山本は笑顔で答えた。
こうして鬼ごっこは山本が勝利をつかんだのである。
長い長い鬼ごっこは終わった。いや、実際は30分なんだが。
「須賀はいつ捕まったんだ?」
俺は須賀に聞いてみた。いつ捕まったか気になったからだ。
「俺は、一番最初に捕まったよ。その後はずっとジャングルジムの上で監視していたのさ。」
「そう、そいつに俺がシーソーの近くにいるのがばらされたんだよ。」
田中はそう言って須賀を指さした。
「何言ってるんだよ田中。お前なんて俺を一人狙いしただろ。」
そう言って山本は田中を指差した。
「うるさいなあ。お前だってそう言って土管の中に入って、ずっと制限時間まで閉じこもっただろ。」
「うるさい。鬼がブランコの方から滑り台の方に走っているのが見えたから工藤を囮にして逃げ、制限時間まで閉じこもる。これも立派な作戦だ。」
「おい、あれは土管に逃げたんじゃなくて、俺を囮にしたのか。」
俺はそう山本に問いかけた。
「ピンポーン。」
山本が笑顔で答えた。殴りたくなるくらいの笑顔だ。
「きっさまああ。殴ったろうか」
「まあまあ。終わったことなんだから。それよりも、この鬼ごっこは真の目的ではないのを忘れるなよ。」
宮本部長が空気を読んでくれたのか、いきなりを話変えた。
「分かっていますよ部長。俺達オカルト研究会が幽霊探しを忘れるわけないじゃないですか。」
「分かっているならいいんだが――」
そう。この公園には鬼ごっこではなく、幽霊が出ると噂があったため来たのであった。
「そもそも、幽霊が出るのを待つのは寒いから、鬼ごっこやろうと言いだしたのは宮本部長ですよ。」
田中がそう言った。
「まあそう言うな。寒い中体を動かしたから、みんな体が温くなったろ。さっそく幽霊の調査の続きをしようではないか。」
宮本部長がその話を終えると、公園の入り口にパトカーが停まった。
「きみたちか、深夜に公園で騒いでいると近所から苦情がきているぞ。」
パトカーから警察が2人降りてきてそう言った。
「やべっ、みんな逃げるぞ。」
俺たちは公園の柵を飛び越え、逃げ出した。
深夜の鬼ごっこはまだまだ続くのだ。
登場人物がたくさん出てきて、たぶん訳が分からなくなった人もいるのではないでしょうか。
もう一回読みたい人は、メモすると便利かも……
あと、主人公の名前が一回だけ出るので、よければ探してみてね。