第2章 ムーンライト (3)
「ねぇ、君ってなに? ただの猫?
ドリームウォーカーってもしかして僕のこと?
使い魔って?
君が言うように、僕はここから出られないんだけど、どうすればこの窓開くのかな?
もしよければ教えてくれないかな?」
この時、僕は気付いていなかったが、この瞬間に教室内の教師や生徒たちは動きを止め、その存在感が希薄になっていく。僕の意識が白猫へと向けられたことで、いまこの場に不必要なものはその存在感を失くし、この空間が僕にとって都合の良い場所へと調整されていくことに、このときの僕はまだ全く気づいていなかった。
「おやおや、そんなにいっぺんに聞かれても答えられるはずもない。それに私がおまえの問いに、いちいち答える義務もない。
・・・とはいえ、今日は気分もいいし、こうやって久しぶりに面白そうな人間を見つけて見物にきたのだから、まぁヒマつぶしに少々教えてやってもいいぞ。若きウォーカーよ」
そう言うと、ネコはやっぱり偉そうな態度で話し始めた。
「ふむ、そうだな。まずはまずドリームウォーカーについてだが、それはもちろんおまえのように夢の中を自由に歩き回っている人間のことだ。
人間という種は、野生を捨て、本能を否定し、理にすがることを選んだ。それにより人間は生命の力を枯渇させ、命の本質を見失い、精神の力を弱くしてしまった。魂魄が力となるこの世界にあって、人間の力は弱く、意識を保つことさえ難しい。だが極まれに、夢の中でも自分の意識を見失わずに、強い意思でもってこの世界を歩き回る者がいる。つまり今のおまえのような存在だ。そんな人間のことをウォーカーというのだ。
それと使い魔のことか? 使い魔は、ウォーカーどもがこの世界を歩くために使役する動物や小悪魔のことだ。この世界にあって、動物や悪魔といった存在は、人間よりも自由に動くことができる。だから人間たちは彼らと契約を交わして従属させ、この世界を歩くときの道案内にするのだ。
ところでおまえの使い魔は、どこだ? さっきから見ていると、おまえはそこから出られずに苦労していたようだが、本当に使い魔のことを知らんのか? 人間がテリトリーの境界を越えるには、使い魔の力が必要なはずだが、おなえはそこに閉じ込められているのか?」
これは大ニュース!!!!
夢の中だからネコがしゃべるのは、まぁ良しとしよう。そしてネコがなんでこんなに偉そうなのかは、今は置いておくことにして、もしネコの言葉が事実なら、あのとき夢の実を食べた自分は、〈ウォーカー〉という存在になったらしい。そして夢の中で同じ場所から抜け出すことができないのは、どうやらテリトリーとかいうのを自分だけでは越えられないからのようだ。ウォーカーが僕以外にどれ程いるのかは分からない。でも使い魔と契約さえすれば、自分もこの教室から抜け出せるといことだろう。他のウォーカーにだって会えるかもしれない。
そういうことなら、次に聞く質問はもちろん1つだ。。
「あの~ ネコさん? その使い魔のことだけど、どうすればその使い魔っていうのと契約することができるのかな?」
「その質問には、私が答えてもいいかしら?」
突然の声に驚いて振りかえると、そこには制服姿のクラスメイトらしき美少女が立っていた。彼女の名前は・・・ ・・・ ・・・??? ・・・あれっ? 誰だっただろうか・・・?