第2章 ムーンライト (2)
授業を受け続けるのにもそろそろ飽きてきた。窓際の席に座りながら、ぼんやり外を眺めていると、空は青くて太陽はぽかぽか陽気だ。考えてみると、いや、考えてみなくても夢の中で授業だなんて馬鹿げている。ぼんやり外を眺めて、このまま目が覚めるのを待つとしよう。教室は2階にあって、窓際近くにまで桜の木の枝が伸びていた。初夏の陽気に桜の緑がまぶしい。窓の外、校庭の向こうに見える街並みはのどかで、こんな日は授業を抜け出し、どこかで昼寝をするのも楽しそうだ。そう、もしこの窓が開くのなら、そのまま外に飛び降りてしまえばいい。ここは2階だ。さくらの木の枝を伝って下に下りるのはそう難しくないだろう。どうせ夢だ。まじめに授業を受けているほうがどうかしている。
僕は意を決して、ガラス窓を開けようとして手を伸ばす。 ・・・!!! やっぱり開かない!!!
窓は開かなかった。窓枠のカギは外れている。だから当然、窓を横にスライドさせればガラス窓は開くはずだ。しかしどんなに力を込めても窓は開かない。これまでの夢と同様、やはりこの教室から出ることはできないらしい。
あきらめてぼんやり外を眺めていると、いつのまに木を上ってきたのか、1匹の白い猫が、桜の枝を伝って上手に歩いてくる。陽の光を浴びて輝くその毛並みは、白というより輝く純白だ。そして何より優雅に歩くその姿は、まるで妖精のようだ。しなやかなその美しさに見とれていると、ネコは枝の上を歩いてどんどんこちらに近づいてくる。窓ガラスを隔てて僅か1メートルのところでまできてネコは止まった。
「おまえ、もしかしてそこから出られないのか?」
!!!!!??? えっ!!!
ネコがしゃべった!!???
いや、夢の中だから、ネコがしゃべるのはさほど不思議でもないのか??
でもこれまでに、しゃべるネコなんていなかったし、空とぶイヌもいなかった。現実と何も変わらないこの世界で、不思議なことなんて何も・・・ いや、少しはあったが、ほとんど無かった。しゃべるネコとは、さすがに夢の世界だ。
白猫は、そんな僕の驚きなどおかまいなしに話し続ける。
「若きドリームウォーカーよ。おまえ、自分の使い魔はどうしたのだ?
まさか使い魔なしで、夢の中を歩きまわっている訳ではなかろう?」
ドリームウォーカー??? それはいったい何だろう? この猫はいったい何なのだろう? 口ぶりはずいぶんと偉そうだが・・・。