第2章 ムーンライト (1)
(第2章)
・・・平安前期に発展を遂げた日本の和歌文学は・・・ ・・・ これを勅撰和歌集と・・・ ・・・
・・・時代になると、藤原定家により『百人一首』が・・・ ・・・「春の夜の 夢の浮橋 途絶えして・・・ ・・・
・・・二十一番目の・・・ ・・・俳諧連歌がこれに代わり・・・
それはいつもと変わらぬ授業の風景。
教室では、古典の教師が日本の文学史をまるで呪文のように唱え続けている。
周りを見回せば、同級生のだれもがみな必死に勉強している。彼らは、この呪文を覚えると大学に入れると信じているのだろう。まさに、いつもと変わらぬ日常。これこそがまさに僕の変わらぬ日常・・・。
でも、1つだけいつもと違う点があるとすれば、それはここが夢の世界だということだろう。
夢の世界はバラ色、というのがただの錯覚であることに気づくのに、3日も必要はなかった。今、自分は夢の世界にいて古典の授業を受けている。この授業風景がバラ色だとは絶対に思えない。
夢の中では頬をつねっても痛くない、というのもまったくのデタラメだった。夢の中で最初に頬をつねったとき、それはいつもと同じで、ただ普通に痛いだけだった。どこまでも現実と同じだ。
夢の中なら手足を切ってもすぐに元通り!!!
と考えて、手足を切ってみる勇気はすでに無かった。代わりに近くにあった花瓶を落として割ってみた。砕け散った花瓶は元には戻らない。手足を切り落とす前に実験してみて本当に良かった・・・。
夢の実を食べた次の日、眠りに落ちた自分が目を覚ましたのは、自分のベッドの上だった。
こう言ってしまうとなんだか意味不明だが、事実なのだから仕方が無い。夢の世界で自分は自分のベットで寝ていたのだ。飛び起きて部屋を出ようとしたら、ドアは開かなかった。そこで次にガラス窓を開けようとしたら、窓も開かない。仕方がないので、椅子をガラス窓に叩きつけてみたが、ガラスはまるでダイヤモンドのようにビクともしない。そしてガラスがまったく割れないかわりに、僕の腕が痛くなった。
結局、その日はついに自分の部屋から1歩も出ることなく朝の目覚めを迎えることになる。ラッキーだったのは、夢の中では、部屋のパソコンが自由に使えたことである。おかげで宿題の自由課題をほとんど終わらせることができた。夢の中でこんなにも真面目に宿題をしている人間は、たぶん僕が世界で初めてだろう。
そして2日目。眠りに落ちて目が覚めたとき、僕は通学途中にいつも通る駅前の商店街の中にいた。昼過ぎの商店街は人通りが激しい。ここはいつもと変わらぬ、僕が知っているままの、いつもどおりのにぎやかな商店街だ。ただ一ついつも違うのは、僕がどんなに頑張って歩いてみても、その商店街を抜けてよその街に行くことができなかったことだろう。商店街を貫く中央通りの歩行者天国は無限ループになっていて、歩いても歩いても商店街を出ることはできなかった。道行く人たちは、いつもと変わらぬ普通の人たちだ。声を掛ければ普通に返事をしてくれる。道を聞けば親切に教えてくれるし、商店街では買い物もできた。不思議なことに、いくらお金を使っても、財布の中からお金が無くなることはなかった。何でも買えるし、誰とでも話ができた。しかしついにこの商店街から出ることもなく2日目の夢が終わった。
そして3日目、今日僕は、いつもの現実と何ら変わることなく、こうして教室で授業を受けている。きっと今日も、この教室から出ることはないのだろう。だからこうしていつものように授業を受けている。限りなく現実にイコールな夢・・・。こうしていれば、いつか夢から覚めて、現実に戻れるだろう。そしてまた現実世界で学校に行くのだろうか。