第4章 闇黒の瞳 (19)
「これで後期も同じクラスだね!」
ん? 何のことだろう。僕が不思議そうな顔をしていると、江国美咲はあきれた様子で説明を始める。
「伊藤君は、ホントに何も知らないの? この学校では、全学年とも前期と後期の始め、つまり4月と10月にクラス替えがあるのは知っているでしょ。定期学力試験はクラス編成の基礎資料になるのよ。1年生の場合、この試験で45位以内に入れば、10月のクラス替えでほぼ間違いなくAクラスになるわ。今、この掲示板に名前が出ている生徒のほとんどは、同じAクラスになると思っていい。さっき私が、イオリ君に合わせて五十番以内に入ったって言うのは、イオリ君がAクラスにするなら、私もAクラスにするねってこと。それと、約束どおり、今日の昼食はイオリ君のオゴリだから忘れないでね~」
それだけ言うと、江国美咲はさっさと行ってしまう。取り残された僕が、ふと周囲に目をやると、近くにいた何人かの生徒たちが、じろじろと僕を見ている。さっきから妙に見られている気はしていたのだ。でもそれは山田との噂のせいではなく、どうやらこの学力試験が原因で見られていたらしい。つまり、僕はやりすぎてしまったということだ。いくらなんでも、いきなり学年五位は、ちょとまずかった気がする・・・。
「おい。伊藤。すごいじゃん。いきなりどうしちゃったんだよ」
最初に声をかけてきたのは、同じFクラスの錦織修三だ。リリスの転校初日、学食で「今すぐ謝れ! でないとオレがオマエを殴ってやる!」と熱くなっていたヤツだ。錦織は純情熱血派のスポーツマンで、裏表のない、真っ直ぐな性格をしている。だから、今だって何の気兼ねも無く、思ったことをそのまま聞いてくる。錦織のいい所は、その言葉に嫌味や嫉妬と言った悪意がまるでないところだ。
「うん。僕もいま見て驚いてた。ヤマを掛けて勉強したら、超ラッキーでさ、ことごとくヤマが当たったみたい」
「すごいじゃん。おまえ、可愛い彼女もいるし、試験も絶好調で、良いことだらけだな。まったく羨ましい限りだ。俺もあやかりたいもんだぜ。今度、俺にも勉強の仕方、教えてくれよな」
ちょっと言葉遣いは荒っぽいが、錦織はクラスメイトの活躍を素直に喜んでくれている。それが表情や話し方から伝わってくる。錦織が女子からモテるのも、なんだか分かる気がする。つまり、こいつはとてもイイ奴なのだ。
しかし、もちろん誰もがみな錦織のようにイイ奴なわけではない。僕が江国美咲や錦織修三と話している間にも、次々に生徒らが登校してきて、いつしか順位表の周りも人でいっぱいになっている。そしてその中には心が狭くて汚いヤツだって当然いる。山田だ! 最近、近づいてこないので油断していたが、このタイミングで、ついに山田が声をかけてきた。
「よ~ 伊藤ちゃん。今度、オレにも教えてくれよな~ カンニングの方法をよ~~。カ・ン・ニ・ン・グ・したんだろ~~。だいたい、おまえなんかに学年五位の成績が取れるはずがないんだよ。でもよ~ さすがに学年五位は、欲張りすぎだとおもうぜ~~。カンニングするなら、目立たないようにしないとダメだろ。これじゃぁ、僕がカンニングしました~~~って、手を上げているようなもんだぜ」
山田は、周りに聞こえるように、わざと大きな声で話しかけてくる。しかも後ろには杉下と成山もいて、「え~ マジ~ カンニングかよ~」とか、「女にもてるためにカンニングしちゃったの~」などと、ありもしないことをまるで事実のように、はやし立てている。どうやら山田は、試験結果をカンニングと決めつけ、僕をここで、さらし者にする考えのようだ。山田のこの告発とも取れる発言を聞きつけ、生徒達が次々に集まってくる。それに気づいた二年生や三年生も、何事が起こったのかと、野次馬のように僕と山田の様子に注目し始めた。
山田は今までの恨みを晴らすべく、チャンスをうかがっていたのだろう。勝利を確信したかのような笑みを浮かべ、得意げになりながら、更に僕を責め始めた。