第1章 夢のはじまり (6)
画家を目指していた青年・・・ 魅力的な人物・・・ 90年以上昔・・・ ??!!! 一瞬、何かすごく嫌なイメージが脳裏をよぎったような気がする・・・。
しかしたぶん気のせいだろう。絵画の知識などまるでない自分が、90年前の画家を知っているはずもない。ゴッホはいつの時代の画家だったろうか。ピカソは比較的最近の画家だったような・・・。ゴーギャンは・・・。
まぁしかし、魅力的な人間になれるというのは、何ともうらやましい気がする。彼は、きっとモテモテで楽しい人生を送ったに違いない。女の子にモテモテになれるアイテムがあるのなら、自分もそれにしたかもしれない。
ともあれ、少年はようやく自分の置かれた状況を理解した。自分はこの店から、好きなものを何か1つ持ち帰れるようだ。
「だったら、この木の実を僕がもらってもいいんですよね?」
「はい。お一つであれば、何をお持ちくださってもかまいません。しかし先に申しあげておきますが、この店の品物は役に立つ物もあれば、まったく役に立たないものもあります。そして使い方次第では、お客様にとって、とても危険な場合もございます。何をお持ちくださるにせよ、使い方にはくれぐれもご注意ください。この店を訪れた方が、必ずしも幸せになれたとは思えません。むしろその逆のほうが多いのかもしれません。
しかし、『夢の実』をお選びになったお客さまのことですから、このような心配はご無用と信じております」
そう言うと、老紳士は夢の実が入ったガラスの宝石箱を少年に手渡した。少年は箱から木の実を取り出すと、手のひらにそれを乗せたまま、しばらくの間、ただじっと見つめていた。
この実を口にした者は、夢の中の出来事を忘れなくなるのだという。もし今日のこの素敵な夢を忘れないでいられるのなら、それだけでも十分だと思う。きっと今日一日、楽しい気分でいられるだろう。
彼を思い切って、木の実を口へと運んだ。
(第一章 終わり)