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夢の迷宮  作者: Miyabi
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第4章 闇黒の瞳 (18)

 昨日の学力試験は、我ながら良くできたと思う。勉強方法がちょっと反則的ではあるものの、それが悪いとは思っていない。世の中には、生まれつき頭の良い人間がいくらだっている。彼らは何の苦労もなくテストで百点をとる。わずか十歳で大学課程の勉強を終えてしまう人間だっている。だからと言って、彼らが悪い人間だとは思わないし、人から非難されるべきでもないだろう。それは個人的な長所というだけのことだ。生まれつきの金持ちもいれば、ハンサムもいる。運動が得意な者もいれば、芸術的センスに恵まれた者もいる。それが悪だとはもちろん思わない。だからもし僕がテストでちょっと良い点が取れたとしても、それは僕の個性的な能力というだけのことでしかない。実際問題として、僕の成績なんて誰も気にはしないだろう。それが現実というものだ。

 それでもこの四日間、僕は我ながらよく頑張ったと思う。現実にはたった四日間でも、僕の体感時間ではその五倍の二十日間くらい頑張った感じだ。今度の試験でもし五十位に入れなかったとしても、後悔はない。考えてみれば、自分の価値など、これからゆっくり自分で探していけば良いだけのことだ。僕は学校に向って走りながら、そんなことを脈絡もなしに考えていた。

 そして今日もまた学校の校門を走り抜け、更衣室で制服に着替えると、僕はちょっとドキドキしながら学生掲示板へと向った。そこには、昨日終わったばかりの試験の結果が既に張り出されている。学力試験はマークシート方式のため、即日に採点が終了し、翌日朝には結果が発表されるのだ。掲示板の前に着くと、既に試験の結果は張り出されていた。各学年ごとに張り出された順位表の前には、早くから登校してきた生徒たちが、順位結果を見て騒いでいる。1年生の順位表の前に行くと、何やら僕のことをジロジロ見ている生徒が何人もいる。あのケンカの噂がたってから、僕はちょっとした有名人だ。彼らの視線など気にせず、僕は順位表を確認することにした。

 もし五十番以内に入っているとしたら、最も可能性が高いのはやはり四十番台だろう。僕は下の五〇位から四一位まで、下位から順に名前を確認いていくことにした。五〇位・佐々岡賢治、四九位・井村香、四八位・山岸日向、・・・ 四五位・三島由紀、 ・・・ 四二位・秋山俊之、四一位・滝沢一也。ない! 残念! 四十番台に僕の名前は無い。でももしかしたら、予想外に成績が良くて三十番台かもしれない。次は三十番台を下から確認していく。四〇位・藤田美穂、三九位・佐藤愛理栖! あっ、彼女の名前だ! そう言えば、彼女たちがFクラスに転入したのは、クラスの人数枠の関係からだ。青葉台では1クラスの人数を45名までと定めている。AクラスからEクラスまでは、すでに生徒数が45名いっぱいで、編入者を受け入れる余地がなかったのだ。つまり本来彼女はAクラスに転入すべき成績だったということだ。

 おっと、先へ進もう。僕は気を取り直して順位の確認に戻る。三八位・岸心愛、三七位・森永岡子、三六位・リチャードクリス、・・・ここまでに僕の名前は見当たらない・・・、三五位・江国美咲! え??? なぜ彼女の名前がここに? いや、彼女くらい頭が良ければ、この順位は何の不思議も無い。むしろ不思議なのは、なぜ今までFクラスだったのか、と言うことのほうだろう。三四位・朴念仁、三三位・小林幸子、三二位・安倍晋造、三一位・野比伸太、三〇位・阿室麗。ここにも名前が無かった・・・。

 さすがにこの上は見るだけ無駄だろう。それでも一応、目線は順位表を追いかけていく。二九位、二八位、二七位・・・ ・・・ 二二位・・・ 二〇位・茅原颯樹・・・。二十番台にも、もちろん僕の名前はなかった。ということは、名前は張り出されてないが、たぶん僕の順位は五五位あたりだったのだろう。

「イオリ君、あともう少しだったのに、残念だったね」

 後ろから声をかけてきたのは、江国美咲だ。いつものように早くから登校していた彼女は、僕より先に順位をチェックし終わっていたようだ。

「江国さんは三十番台に入っていたよね。おめでとう。Fクラスから成績上位者がでるなんて、けっこうすごいよね」

「そうかしら? 私はイオリ君が五十番以内に入るっていうから、キミに合わせて五十番以内にしておいたんだけど」

 えっ? え? え? え? え? それってどういう意味だろう??? 喫茶店で、〈あなたは紅茶なの? だったら私も紅茶で!〉みたいなものだろうか。試験の成績って、そんなふうに決めるもんだったろうか。どうにも江国美咲の思考回路についていけない。

「僕のほうは、五十番以内はダメだったよ。ごめん。けっこう努力もしたし、点数も取れたつもりだったんだけどね。江国さんみたく、うまく結果が出せなかった」

「ん? なに言ってるの? イオリ君、何か誤解してるみたい。私が〈残念〉って言ったのは、そういう意味じゃないわ。順位表をちゃんと最後まで見て!」

 え? 順位表をちゃんと見ると何なんだろう。僕はもう一度、順位表へと視線を戻す。一九位・徳川宗太、一八位・磯野さより、一七位・伊原明日奈、一六位・谷岡惣一、・・・ 一二位小原亜実、 ・・・ 一〇位・佐藤健・・・。

 別に何も誤解なんかしてない。江国美咲は何を見ろといっているのか。九位・御手洗美子、八位・千葉一葉、七位・藤堂修一、六位・松本清、五位・伊藤伊織、四位・赤銅凛、三位・・・。

 ん? ここで視線がもう一度前に戻る。あれ? 五位の伊藤伊織って誰だ? 名前に見覚えがあるような・・・ って五位が伊藤伊織? え? なぜこんなところに僕の名前が!!??

「イオリ君、最後までしっかり見て!」

 彼女の言葉で、我に返った僕は最後まで順位表を確認する。三位・出来杉英才、二位・馬鹿田はじめ、一位・佐藤莉理栖って、え~~ ここでリリスの名前が!!

「私が〈残念〉って言ったのは、リリスさんに勝てなくて〈残念〉だったね、っていうことよ」


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