表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢の迷宮  作者: Miyabi
48/82

第4章 闇黒の瞳 (7)

 5時限目、僕は英語の授業をうわの空で聞いていた。僕たちが学生食堂から教室に戻る頃には、もう昼休み終了のチャイムが鳴り始めていて、席に着くとすぐに5時限目の授業は始まった。

 僕は朝からの出来事を思い出しながら、自分と、そして自分の周囲が、あわただしく変わり始めていることに、とまどいを覚えていた。夢であるはずのリリスが現実の存在として僕の前に現れたこと、そのリリスが僕の婚約者をかたっていること、僕が不良の山田に歯向かったこと・・・ 山田!!

 そうだ! 忘れていたが、昼休みに屋上へ来るよう呼び出されていた気がする。あまりにも一方的で、断るタイミングがなかっただけだが、山田にしてみれば、約束をすっぽかされ、完全にコケにされたと思っているだろう。僕は恐る恐る山田の席に視線を向ける。するとそこには、怒りの形相で顔を真っ赤にした山田がいた。

 う~ん、これはもう言い訳が通じる状態じゃない。だけどもし昼休みに僕一人が屋上に行ってたとしても、どうせ山田は無理な要求をしてきたに違いない。ヤツの言いなりにはならないと決めた以上、山田ともめるのは避けられない。そもそもこの状況をつくりだしたのは、他ならぬ僕自身だ。最初に山田がカツアゲをしてきたとき、僕は怖くて何も言えず、ヤツに抵抗すらしなかった。その僕の弱い心と愚かさが、結果としてこの状態を招いているのだ。僕自身の弱さの積み重ねに、いま利息をつけて返さねばならない時がきたのだ。かなり面倒なことになりそうだけど、後で直接、山田と話をするしかない。ここは少年マンガや青春ドラマの定番どおり、放課後の体育館裏で話をつけるしかないだろう。僕は小さな紙切れに、

「放課後に体育館裏 伊藤」

と書いたメモ書きを、山田まで回すよう言伝ことづてして、隣の席の生徒に渡した。メモ書きは、リレー方式で生徒を伝わり、江国美咲を経由けいゆしてそのまま山田に渡された。クラス委員の江国が、授業と関係のないメモ書きをチラっと見ただけで、教師に何も告げずにそのままリレーしたことがちょっと意外だった。しかし昼間の江国の様子を思えば、僕は江国の性格を見誤っていたのかもしれない。クラス委員という肩書きで彼女を見ていたが、案外、彼女はごく普通の女の子だったのだろう。

 メモ書きを見た山田は、チラっとこっちを見たが、その怒りの表情が収まる様子はない。しかし5時限目が終わった後、休み時間の間、山田は僕に何も話しかけてはこなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ