第3章 星のかけら (21)
それは〈光〉だった。
正確に言えば、獣の形をした白い〈光〉だ。
白い光が、突如、ゲートを抜けて現われたかと思うと、〈光〉は獣のように怒りの波動を放ちながらいきなり鬼に襲い掛かる。白い光が稲妻と化して鬼とすれ違った瞬間、鬼の片腕は鉄の棒ごと無くなっていた。よく見れば、鬼の腕は肩のところから鋭く切り落とされ、棒を握りしめたままの状態で、鬼の足元に転がっている。
いきなりの出来事に、僕も、そして腕を切り落とされた鬼でさえも、何が起きたのかわからない。一瞬の間を置いて、赤鬼はようやく自分の片腕がなくなっていることに気がついたようだ。怒りのためか、痛みのためか、あるいは両方のせいか、赤鬼は全身からどす黒い炎を吹き出しながら叫び声をあげる。赤鬼の目は怒りに燃え、もはや狂ったようになって〈光〉に襲い掛かろうとする。
だが、怒りが収まらないのは、むしろ〈光の獣〉のほうだったのだ。光の獣は大地を震わすほどの波動を放つと同時に、再び鬼に襲いかかる。怒りに任せた容赦のない獣の攻撃は、もはや戦いと言うより、一方的な殺戮だった。光の獣が、鋭く腕を振り下ろすたび、鬼の体は無残に切り刻まれ、赤鬼は獣に触れることすらできないまま、その体が紙きれのように切り裂かれていく。鬼が恐怖におののき、悲痛な叫び声をあげるなか、最後は獣が鬼の首を食いちぎり、鬼の頭は体から転がり落ちた。ついさっきまで真っ赤な炎に包まれていたはずの赤鬼の体は、いまや手足と頭がバラバラの、幾つもの肉塊になって地面に転がっていた。そしてその散乱する肉塊は、なぜか全て凍りつき、氷の塊と化していた。
白い光の正体が何なのか、もちろん僕には分からない。しかし、その白い輝きにはなぜか見覚えがあるような気がする。それはどこかの世界で見た、あの凍るように白い月の光だ。あの月の輝きそのものだ。
僕は、どうして良いのかもわからず、ただじっと光の獣を見つめていた。獣もまた、じっと僕を見たまま動かない。
「マスター、やっと見つけたぜ。マスターの探し物はこれだろ!」
間が良いのか、悪いのか、絶妙なタイミングでステラが瓦礫の間から顔を出す。ステラの口には、クロスがしっかりと咥えられている。ステラの声が合図となってか、白い獣から強烈な波動が伝わってくる。それは「ゲートガ閉ジル」という強烈なメーッセージだったように思う。
ステラはクロスを咥えたまま、僕の肩によじ上ってくる。僕はまったく動かない左腕をかばいながら、ゲートへと走り出した。気がつけば右手に巻きついていたはずの〈ラブリークィーン〉は腕から外れている。走りながら振り返ると、女王様はバラバラになった赤鬼の体に巻きつきながら、手足や頭の塊を引き寄せ、赤鬼にグルグルと巻きついていた。女王様が何を考えてそうしているのか、僕には分からない。もしかしたら、あのようにすれば赤鬼は復活するのかもしれない。女王様は、赤鬼を憎んでいたのだろうか、それとも愛していたのだろうか、それすらも僕には分からない。しかし、女王様がこの世界から出て行くことを望んでないことは確かだ。僕は彼女をこのままにして行くことにした。
僕はゲートに飛び込んだ。そして僕のすぐ後を追いかけるようにして、白い光がゲートに飛び込んできた。