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夢の迷宮  作者: Miyabi
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第3章 星のかけら (20)

 赤鬼は、止まることなくそのまま突っ込んできた。交差点で信号を待っていたら、いきなり車が突っ込んできたような感じだ。

 ガグォーーーーー ドギバキーー ドゥォーン

 すさまじい咆哮と衝撃で、周囲のものが爆撃にでもあったかのごとく吹き飛ばされていく。僕は横っ飛びギリギリで避ける。少々のすり傷はあるものの、取りあえずは無事だった。しかし鬼のせいで、せっかく見つけたはずのムーンライトのクロスが、どこかへ吹き飛ばされ、砕け散った武具の間に埋もれてしまう。

 いくらなんでも、この状態であんな小さな物を探し出すのは無理だ。くっそ~ せっかくあと少しのところだったのに!! そんな僕の思いを察したのだろうか、

「マスター、オレに任せてくれ。さっき、マスターが手を伸ばしていたあのピカピカを探せばいいんだろ。オレなら隙間に入ってすぐに見つけ出してくるさ。オレを置いて先に行かないでくれよな!」

 そう言うなり、ステラは僕の肩からすべり降りてどこかへ行ってしまう。さすがにこの状況では、すぐに逃げ出すのが正解だ。しかしステラがどこかへ行ってしまった以上、彼を置いて、ここから逃げ出すこともできない。しかも女王様は戦う気まんまんだ。ここは覚悟を決めて、ステラがクロスを見つけ出すまでなんとか時間を稼ぐしかない。僕は戦いを(仕方なく)決意した。

 そして、僕のすぐ近くにゲートが開くのと、赤鬼が立ち上がったのは、ほぼ同時だった。

 赤鬼は立ち上がるなり、いきなり鉄棒を振り上げると、そのまま何のためらいもなく僕に向って振り下ろす。巨大な鉄の棒はうなりを上げて僕の頭上に襲いかかる。僕はもちろん避けるしかない。後ろに逃げるか、前に逃げるか、僕は瞬時に判断して前に逃げた。後ろに逃げても、すかさず攻撃されれば、二撃目は避けられないだろう。だから恐怖心を無視して、僕は前に逃げた。そしてそのまま鬼のふところ近くにもぐり込む。

 鉄棒は、ズシーンという音とともに地面にめり込んだ。もし当たっていれば、どうなっていたかは分からない。ここが夢の世界であって、現実とは違うということを差し引いても、アレをくらって、ただで済むとは思えない。どうなるかは興味深深きょうみしんしんではあったが、それを今ここで試してみる余裕も勇気もない。僕はそのまま鬼の後ろに回りこむと、唯一の頼み綱である〈ラブリークィーン〉を振り上げ、渾身の力を込めて赤鬼の足に向って振り下ろす。あの巨体にもし弱点があるとすれば、それは絶対に足だ! あの巨体を支えている足の強さこそが赤鬼の最大の武器であり、また最大の弱点であるはずだ。

 ズバシィ!!!! っという鋭い音が赤鬼の足を打ちのめす。それは偶然にも、前に僕が黒剣で攻撃したすねの部分であった。

 グゥゥォォォォォォォォォォォォォーーーーーーー

 鬼からすれば、当たりどころが悪かったということになるのだろう。攻撃としての効果は抜群だった。鬼は激痛の咆哮を上げて、僕への殺気をみなぎらせる。僕は鬼の咆哮が終わることを待たず、情け容赦なく二撃、三撃、四撃目の攻撃を繰り返した。ひたすら足への攻撃だ。鬼の足を止めないと勝ち目はない。いや、そもそも勝てるとは思っていない。時間を稼ぐのだ。ステラがクロスを見つけるまでの時間を稼げればそれでいい。できれば僕が無傷であれば、なお良い。いや、絶対に痛いのはイヤだ。頼む、ステラ、早くしてくれ~。

「お~~~ ほっ ほっ ほっ~~ いいわ~ いい音だわ~。もっと~ もっとよ~ もっと叩きなさい。赤鬼が泣いてひれ伏すまで叩き続けるのです。そして、我がいとしの赤鬼が泣いて、わたくしへの愛を誓うまで、叩き続けるのです」

「え?」

 ラブリークィーンが発した予想外の言葉に、思わず僕の腕が止まる・・・ 愛しの赤鬼? 愛を誓うまで???

 その一瞬のスキが致命的なミスだった。

 気がついたときには、赤鬼のなぎ払った巨大な鉄棒が僕の左腕にめり込み、僕の体はそのまま吹き飛ばされて宙を舞う。

 ぐぅ・・・・・・。

 地面に叩きつけられたとき、僕はあまりの激痛に息ができなかった。さらに左腕は半分押しつぶれたようになっていて、ひじから先の感覚は何もない。しかし潰れかけた上腕の痛みは凄まじくて、あまりの痛さに僕はすべてを忘れて泣き出していた。

 痛い! 痛いよ~ なんでこんなに痛いんだよ! 怖い! 怖いよ~ 誰か助けて! 痛い! 怖い! 痛い! 怖い! 誰か助けて!

 心の中の必死な叫びだった。それは恥ずかしいとか、戦いの途中だとか、そんなことを忘れた本能的な心の叫びだった。そのときの僕は、まるで小さな子どもが泣いているかのように、何も考えずただ必死に助けを求めた。

 これまでの僕は、鬼との戦いをまるでゲームのように考えていたのだ。ゲームなら死んでもリセットすればいい。これはどうせ夢だ、という油断がどこかにあった。だからつまらない言葉に気を取られ、自らスキをつくってしまった。今、自分が死ぬほどの痛い目にあって、僕は自分の甘さを思い知らされていた。僕は、ただ痛くて痛くて、怖くて怖くて、心の底から誰かに助けてほしいと願った。もう戦う気力などない。ただ助けて欲しいだけだった。

 鬼はそんな僕の気持ちなどおかまいなしに、更に僕を叩きのめそうと鉄の棒を大きく振り上げる。鬼は勝ち誇ったように叫び声を上げながら、巨大な鉄の棒を僕に向って振り下ろす。

 僕は初めて、〈死〉というものの怖さに対面した。もう避けられない。これで終わりだ・・・


 その時、それは現われた・・・。


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