第3章 星のかけら (19)
それからの道のりは、ずいぶんと騒がしい探索になった。ステラと女王様が、くだらないことでずっと言い争いをしているのだ。ステラは相変わらず僕の肩に乗りながら、僕の耳元でギャーギャーと女王様の悪口を言っている。女王様は、そんなステラを攻撃しようとムチの先を飛ばすが、ステラが上手によけるのでムチは僕の肩にバシバシと当たる。痛い・・・。なんだかんだで楽しい探索になったが、武器を探すという意味で言えば、今回の探索は完全に失敗だ。収穫といえば、変なムチが1本だけだ。
そんなこんなで歩いていると、気がつけば空がやや暗くなり、そして再び明るさを取り戻していた。〈真実の剣〉の言葉どおりなら、そろそろ僕はムーンライトが失くした〈何か〉に出会えるはずだ。僕は更に注意深く、辺りを見渡した。周りにはゴミのように朽ち果てた武器が数多く散乱していて、もし何かが落ちていても簡単には見つかりそうにない。僕は心を落ち着けて、ムーンライトのことを考えながら意識をレーダーのように周囲に拡散する。彼女との絆を通して世界を感じるのだ。彼女なら、それがどこにあろうと、すぐに分かると言っていた。ならば僕にもわかるはずだ。心を明鏡止水の境地にまで研ぎ澄ます・・・ことなど、もちろん出来はしない。しかし無理を承知で、意識を広く、広く、どこまでも広く、心を澄まして世界を感じる・・・。するとかなり前方のほうに、何かがキラリと光った気がした! その何かに意識を集中すると、その何かは、なんだかひどく懐かしいような、それでいて何か悲しいような、そんな強い想いとなって僕を惹きつける。あれだ! 間違いない! それが何かは遠くてよく見えないが、彼女が失くしたものは、きっとあれだ!
僕は、その何かに向って走り出した。あれを拾えば、長かった今回の探索もようやく終わる。僕が安堵の思いで、それをもう一度よく確かめようと目を凝らしたとき、その更に向こう、遥か遠くのずっとずっと向こうから、小さい小さい何かがこちらに向って近づいてくることに気がついた。それはとても小さい・・・、いや、小さくはない! 小さくはないのだ! まだ遠いから小さく見えるだけで、実際のそれは少しも小さくなどない。赤鬼だ! 赤鬼がこちらに向って全力で走ってくる。その姿は徐々に徐々に大きくなっていく。向こうはとっくに僕に気がついていて、怒り狂った様子でこちらに向って走ってくる。赤鬼が実は優しくてイイ奴、などという幻想は一瞬で吹き飛んだ。ようやく現実を理解した僕は、更に全力で走り始めた。あいつより先に、ムーンライトが失くした物にたどり着かないといけない。そして赤鬼がやってくる前に、そのままこの世界からサヨナラするのだ。僕は赤鬼のほうへ、赤鬼は僕のほうへと、双方ともに全力で走っている。まるで愛し合う二人のように・・・。
僕と赤鬼の距離はグングンと縮まっていく。そしてのそのほぼ真ん中には、キラキラと輝く何かが落ちている。タイミングは一瞬だ。心の中で叫ぶ。
〈ゲートを開けて!!! ムーンライト、今すぐだ。僕の近くにゲートを開けて!!! 今すぐ!!〉
「ステラ! 探し物は見つかった。これからゲートが開く。この世界からサヨナラだ。しっかり僕につかまってて!」
僕は二人に向って同時に叫んだ。
そのキラリと光る何かに、先にたどり着いたのは僕だった。それは首飾りのように鎖が付いた小さなクロス(十字架)だった。よし! あとはこれをもって、この世界から脱出すればOKだ。僕は左手を伸ばしてそのクロスをつかみ取ろうとした。しかし僕がそれをつかもうとした寸前、僕の右手が急に逆方向へと引っ張られる。僕の動きに急ブレーキがかかり、そしてそのままズルズルと赤鬼のほうへと体ごと引きずられていく。あっけにとられ、何が起きたのか分からない。僕は、僕自身を引きずっていく右手のほうへと目を向けた。するとそこには、僕の右手に巻きついた〈ラブリークィーン〉が、僕を鬼のほうへとものすごい力で引っ張っていた。
オイオイオイオイ!!! 何してんだよ、女王さま~~~~!!!
「さあ、今こそあの無礼者に、お仕置きするのです。我が愛の力、思い知らせてやりましょう」
ムーンライトは、僕の直感を信じろと言っていた。僕がラブリークィーンを最初に見たときの直感、あの嫌な予感をもっと信じていれば良かった・・・。
それにしたって、その〈愛の力〉って、いったい何なんだよ?