第3章 星のかけら (16)
道は真っ直ぐ進んでいるが、鬼の姿はまったく見えない。しかし確実に鬼が通った痕跡として、無残に砕け散った武器が道に散乱している。僕は鬼が戻ってこないことを願いながら、道を歩いていた。
道中、足元に散らばる武器に目をやりながら、何か使える武器はないかと必死に探す。もし万が一、鬼が戻ってきてこの道で鉢合わせでもしたら、この折れた剣では話にならない。せめてまともに戦える武器が欲しい。
「ねぇ、ステラ。この道はずっと真っ直ぐなの?」
ステラは、さっきからずっと僕の肩に乗ったままだ。トカゲ一匹乗っても重くはないし、邪魔にもならないが、自分だけ歩かずに楽をしているのが、なんだかズルい。僕はもうくたくたなのに。
「ああ、ずっとまっすぐだよ、マスター。確か、空が暗くなって、また明るくなるまで歩くんだろ。だったらずっとまっすぐさ。それにさっきあんなに走ったんだ。もしかしたら探し物の近くまで、もう来てるかもしれないぜ。ところでマスター。マスターの探し物って、どんな形してんだ? オレも一緒に探してやるよ」
「う~ん。それがよく分かんないんだ。そんなに大きくはないはずだけど・・・。たぶんキミの大きさと、同じくらいのものだと思う・・・」
それが何かは分からないが、きっと一目見れば分かるという確信がある。僕とムーンライトは、たとえ強くはないにせよ絆で結ばれている。彼女にとってそれが大切なものなら、僕が見てもきっと何かを感じるはずだ。それにこの世界には武器しかない。剣、槍、棍、弓、銃、斧・・・、種類や形は違えど、すべては武器という点で共通している。しかしムーンライトが失くした何かは、たぶん武器ではないような気がする。だから、もしそれを見れば僕には分かるはずだ。
僕は、役に立ちそうな武器と、彼女が失くした〈何か〉を探しながら歩き続けた。
そうしてしばらく歩いた後、最初に見つけたのが、クマ型ロボット零式だった。それは鬼に踏みつけられ、体が半分以上、地面にめり込んでいた。しかし丈夫に出来ているらしく、どこも壊れてはないらしい。僕が近づくと、自分で立ち上がって僕に話しかけてきた。その姿はマスコット人形のように可愛らしく、小さな女の子にあげたら、きっと大喜びして抱きしてしまうだろう。
「ワタシハ形式番号KM3-00。通称、終末兵器クマ参型零式デス。アナタハ、ワタシノ、マスターデスカ」
いきなりの質問に、あたりまえのように答えたのはステラだ。
「そうさ、この人がマスターさ。なんか用か?」
「ワタシハ、マスタートシテ入力サレタ者ノ命令ニ従ウヨウ、プログラムサレテイマス。アナタヲワタシノマスタートシテ承認イタシマス」
そう言うなり、零式は目から光を発して、いきなり僕の全身を照らしだした。どうやら僕をスキャンして、正式なマスターとして登録しているようだ。
「スキャン完了。アナタヲマスタートシテ認証イタシマシタ。今後ハ、マスターノ命令ニ従イマス。何ナリト御命令クダサイ」
突然現われ、突然命令しろと言われても、何がなんだかわからない。しかし兵器と名乗ってるのだから、きっと何かの武器なのだろう。うまくすれば鬼との戦闘で使えるかもしれない。
「じゃあ聞くけど、キミって、何ができるの? 何か攻撃のための武器とかあるの?」
「ハイ。ワタシニハ攻撃用兵器トシテ、次ノ三ツノ兵器ガ搭載サレテオリマス。マスターノ命令ニヨリ、イツデモ発動可能デス。
1、対人兵器1トシテ、細胞破壊ウィルスエボラβ-3ヲ所持。コノウィルス兵器ノ使用ニヨリ、惑星1個ノ知的生命体99.99%ノ殺傷ガ可能デス。
2、対人兵器2トシテ、中性子爆弾ヲ所持。コノ兵器ノ使用ニヨリ、惑星1個の全生命体100.00%ノ殺傷ガ可能デス。
3、対惑星兵器トシテ、反陽子爆弾ヲ所持。コノ兵器ノ使用ニヨリ、惑星1個ノ破壊ガ可能デス。ナオ、コレハ惑星使用時ヲ想定シタ破壊効果デアリ、現時点ニオケル変則的地形デノ使用ニオイテハ絶対デハアリマセン。理論値ニヨル推定デハ、コノ空間内スベテノ生命体ノ殺傷、オヨビ空間ノ次元的消滅ガ可能ト推測サレマス。
イズレカノ兵器ヲ発動サセマスカ。御命令クダサイ」
「うん。わかった。じゃあ、クマ参型零式よ、キミはこのまま永遠に機能を停止してくれ。できるか?」
「ハイ。了解イタシマシタ。形式番号KM3-00ハ、マスターノ命令ニヨリ、機能ヲ永遠ニ停止イタシマス」
零式はそう言ったきり、機能を停止し、ただの可愛らしい人形になった。過ぎたるは及ばざるがごとし。まったく使い物にならない。僕は再び歩き始めた。