第3章 星のかけら (13)
真実の剣は消えてしまった。これがなにかとても大切な出会いであったことは僕でもわかる。でもその出会いはあまりにも短くて、なんだか悲しいという感情は湧いてこない。一期一会・・・、ムーンライトが言っていた言葉だ。確か意味は、生涯に一度の大切な出会い・・・。
「なんだ、結局、ウソつき、っていうのもウソなのかよ。しかもサヨナラ言いにきたのに、逆にサヨナラ言われて、こっちは何も言えなくて。しかも最後まで訳わかんないことばかり言って・・・」
文句を言い続けるステラの声は、その言葉の内容とは裏腹に悲しげで、まるで泣くのをこらえるために必死で話し続けているかのようだった。仲間など一人もいないこの世界で、〈ジイサン〉はステラが唯一、心を許した相手だったのだろう。いつまでも終わらぬステラのつぶやきを聞きながら、僕はこれからどうすべきかを考えていた。
夢の実のことは、分からないことだらけだった。だからそれはあとでゆっくり考えることにして、それより今はどちらの道に進むかを決めなければならない。真実の剣は、このまま進めば〈三つの武具〉に出会い、来た道を戻れば〈魂のカケラ〉に出会うと言っていた。「どちらか大切なほうを選べ」か・・・。僕にとって大切なほう・・・、それは・・・
〈ドン〉 〈ドン〉 〈ドン〉 ???
〈ドン〉 〈ドン〉 ・・・???
〈ドン〉!!!!!
〈バキッ〉!!!!
そいつは、前からでも後ろからでもなく、突然、真横から剣や槍をへし折って現われ出てきた。巨大な体は象ほどもあり、体中から吹き出した真っ赤な炎が全身を紅く染めている。丸太のように太い腕には、それ以上に太い鉄の棒が握られていて、道を塞いでいる剣や槍を軽くなぎ払って、前進してくる。その姿は!!! 炎の巨人!!!
グワォ~~~
その咆哮は大気を震わせ、僕の体にビリビリと振動が伝わってくる。そのとき、僕の脳裏にはムーンライトの言葉が鮮明によみがえっていた。
― ちょっと面倒な小鬼がうろついていた ―
― 大丈夫。もし近くに小鬼がいたら、すぐに隠れればよい ―
― 無理はするなよ。危険そうなら戦わずに逃げるのだ ―
無理なんかするか!!!! これのどこが小鬼なんだよ!!!
僕は心の中でそう叫ぶと、ムーンライトの忠告に従って、一目散に逃げ出した。前に進むか、後ろに戻るか、僕に考えている余裕などなかった。だから直感にまかせて、体が動いたほうに進むしかなかった。でもそれで良かったのだと思う。なぜなら、たぶんそれこそが僕の本心、すなわち僕が無意識のうちに出した、僕の結論だったと思うからだ。
そう、僕は来た道を全力で引き返していた。