第3章 星のかけら (10)
「どうやら最後の時が近づいているようだ。おぬしの問いに答えられるのは、たぶん次が最後であろう。今、おぬしが真に問うべきものがあるとすれば、それが何かよく考えるのだ。もし1つしか問えぬのなら、何を問うべきなのか。その問いこそが、今おぬしの最も重要な部分につながっているのだ。小さな謎が大きな真実への扉を開くこともある。己が心に問うてみよ」
いま僕が問うべきもの、それは何だろう。問うことができるのは、たぶんあと1つ。真実の剣だけが答えられるものでないと意味がないだろう・・・ ・・・ ・・・ 夢の世界とは何か・・・ いや質問が漠然としすぎているからダメだ。〈僕〉って何、と聞くようなものだ・・・ リリスのこと・・・ 違う気がする・・・ ムーンライトのこと・・・ それも違うか・・・ 僕が進むべき道・・・ それは自分で決めるものだろう・・・ なんだろう、何を問えばいいんだ・・・ ムーンライトは僕に、〈自分の直感と知恵〉を信じろと言っていた。その直感が、さっきから僕の心の奥で何かを叫んでいる。何か重要なキーワードがちらついている気がするが、それがなんだかつかめない。すぐそこにあるのに、手が届かないときのようなじれったさだ。それにさっきから気になっていたが、真実の剣は、何か僕を導いているような話し方をする。それは、まるで教師が生徒を導くような話し方だ。僕が問うべきたった1つのものとは何だ。 たった1つ? たった1つのもの?? 今の僕につながるたった1つのもの。 !!! そう、1つだ! それがキーワードだと僕の直感が叫んでいる。真実の剣が導こうとしている僕にとっての重要なもの。それは夢の中で、たった1つだけ持ち出すことを許されたアイテム、〈夢の実〉。あのときはただ思いつきで選んでしまった。でも考えてみれば、僕はこの実の真実を知らない。〈夢を忘れない〉ということが、ドリームウォーカーになることかとも思ったが、やはり何か違う気もする。骨董品屋の老紳士は、この実をとても価値あるものだと言っていた。しかしあの店には、もっともっとすごい物が山ほどあった気がする。老紳士はなぜこの実をそんなにも価値あるものだと言っていたのか。この実が何か、そんな疑問はつまらない疑問なのかもしれない。でも、今の僕につながるたった1つの重要なものと言えば、それは〈夢の実〉だけだと思う。僕は自分の直感を信じてみることにした。
「真実の剣よ、だったら僕は尋ねたい。あなたは僕のことをさっき〈夢の子〉と呼んでいた。それはたぶん、僕が〈夢の実〉を食べたことと関係してるんだと思う。だから教えてほしい、〈夢の実〉とは何かを!!」
一瞬の沈黙があった。そして〈剣〉は語りだす。
「そう、それこそが、今、おぬしが問うべき問題の核心なのだ。その問いの答えこそが、すべての始まりなのだ。我は残された最後の時を使い、その問いに可能な限りで答えよう。だが先に言わねばなるまい。その質問の答えとは、この世界の最大の〈禁忌〉につながるものであり、語ることを許されぬ真実だということを。もしその禁忌を破ろうとすれば、我はその真実を語り出した瞬間に消滅するであろう。
ゆえに我は、今、おぬしに一つの物語を語ることで、その禁忌をほんの一時欺こうと思う。うまくすれば、この話が終えるまでの時をかせげるかもしれない。これから我が語る話は、決して真実ではない。この世の最も古き物語にして、真実と偽りの物語だ。ある男が、その息子に語りし物語。都合の悪い真実は改ざんされ、偽りが真実として語られた物語。この話のどこに真実があり、どこに偽りがあるのか。それはおぬし自身で見極めよ。それでは始めるとしよう。これはある男が、その息子に〈世界の始まり〉を語った物語だ。