表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢の迷宮  作者: Miyabi
27/82

第3章 星のかけら (8)

「あっ、はじめまして。僕はステラの友達で、彼にたまたま、あなたのことを聞いて、それで会いにきたんです。あなたがウソつきジイサンという方ですか?」

 このあいさつで良かったのだろうか。いきなり相手を「ウソつき」よばわりとは、失礼極まりない言い方だった気もするが、他にどう言えば良いのか分からない。

「我は時と場所により、さまざまな名で呼び慣らわされてきた。あるときは〈真実の剣〉、またあるときは〈いつわりの剣〉。聖剣と呼ばれ魔剣と呼ばれたこともある。〈ウソつきジイサン〉という名も、数ある名のうちの一つではある」

「えっと、ステラの話を聞いてて不思議に思ったんですが、あなたはウソつきなんですか、それとも本当は正直者なんですか。その答えがどうしても知りたくなってここまで来たんです」

「我がここでおぬしと語り合う時間は限られている。ゆえに問いかけには心して臨むことを忠告する。だがまずおぬしの問いに答えるならば、神により鍛えられし時の我が銘は〈真実〉。我はその問いかけに真実で応え、真実を求める者に、無限の祝福と加護を与える物として造られた。ゆえにおぬしの問いかけに答えれば、我は真実のみを語る物にして、常に正直なる物である」

「じゃあ、やっぱりあなたは正直者なんですね。ステラが聞いたという星の話だって、あれも本当のことでしたよね。なのにどうしてあなたは、〈ウソつき〉とか〈偽り〉の剣って呼ばれるんですか。あなたは本当のことしか言わないのに、どうしてウソつきになってしまうの? それって、おかしくないですか?」

「人の心は弱い。人間はみな、自分の信じたいことを信じ、自分が信じたくないことを〈偽り〉として拒絶する。自分を傷つける〈真実〉には向き合いたくないし、信じたくもない。自分をなぐさめる甘い言葉は心地よく、それを信じるほうが楽だ。自分に不都合な〈真実〉には目を伏せ、それを否定して〈ウソ〉にしてしまうのだ。自分にとって都合良く、心地よい言葉を〈真実〉と信じてしまう。それが人間の弱さなのだ。それゆえに真実のみを語る我は、いつしか〈偽りの剣〉と呼ばれ、否定されるようになった」

「そんなこと信じられないよ。いや、信じたくない。人間はもっと強いし、真実に向き合う心をもっていると思う」

「それはおぬしの希望であり、おぬしは我の言葉を拒絶して、自分が信じたいことを信じようとしているだけだ。とは言え、人間の心に真実をもとめる誠実さがあるのもまた事実であろう。己の弱さに向き合おうとする強さが人間にはある。それこそが、神が我を造った最大にして唯一の理由であった。我は真実を求める者に、無限の祝福と加護を与えるべく造られた。しかし真実を求め、己の弱さと向き合おうとする者は少ない。我が刀身に宿る神の力を開放し得た者は、悠久の時の中でさえ僅かに三人のみであった。以来、我が力は封じられしまま、やがて我が刀身もここで朽ち果てようとしている。夢の子よ。我は古き神との契約により、おぬしに助言と真実を与えるべく、その最後の時をここで待ち続けていたのだ。今おぬしに出合ったことで、契約という呪から開放され、間もなく我が刀身は朽ち果てるであろう。それまでの限られた時間の中で、おぬしは我から必要な真実を引き出すのだ」

 その瞬間、半分ほど朽ちかけながらかろうじて残っていた柄の部分が、ボロリと崩れ落ちた。そして心なしか刀身の錆びも徐々に広がり始めたように見えた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ