表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢の迷宮  作者: Miyabi
25/82

第3章 星のかけら (6)

「本当か。ウソじゃないのか。本当にここから出られるのか。オマエ、本当に鬼じゃないのか。そう言われてみれば、鬼にしてはずいぶんと弱そうなヤツだな・・・」

「そうだろ~、ってなに失礼なこと言ってるんだ!! まぁ、確かにちょっと弱いかもしれないけど、ここで武器を手に入れて強くなりにきたんだ。武器を手に入れたら、すぐにもここから出て行くよ。だからそのときトカゲ君も一緒に来ればいい」

 僕の話を聞いて、トカゲはちょっと元気になったようだ。心なしか明るい表情で、僕のほうに近づいてくる。

「よし、決まりだ! 本当にここから出られるんだな。ならばオマエは武器を手に入れる。オレはオマエと一緒にここを出て行く。ほんとに大丈夫なんだな。これで間違いないか?」

「うん。大丈夫。それでいいよ」

「よし、じゃぁ、武器はオマエの足元につき刺さっているその黒剣でいいな。ちょっと剣先のほうが折れてるみたいだけど、総黒の刃なんて、なかなかカッコいいし、レア物だぞ。その種類の剣は絶対に折れないってことで有名だ。絶対それにしろ。たまたま偶然近くにあるけど、それこそがまさに最強だ。強い剣が欲しいなら、それが一番。それにしろ」

 う~ん。なんだか調子のイイやつだ。絶対に折れないって、見れば剣先どころか刀紋の一部まで砕けているのはどうしてだろう。このチビは〈矛盾〉という言葉を知らないようだ。言葉を話せても、しょせんは爬虫類か・・・。

「いや、この剣はやめておこう。決めるのは、もう少し探してからにするよ。できるだけ強い武器が欲しいんだけど、トカゲ君は他に心当たりとかある?」

「あのさ、オマエはさっきからオレのことを〈トカゲくん〉とか呼んでるけど、オレの名は〈ステラ〉っていうんだ。〈トカゲくん〉なんて名じゃないぞ」

「あっ、ごめん。名前っていうより、君はトカゲだよね? だからそう言ってたんだけど、気にさわったならごめんよ」

「トカゲ? トカゲってなんだ? ウソつきジイサンはなんか違うこと言ってた気がするけど・・・、まぁウソつきだからしょうがないのか・・・。とにかく、ステラっていうのは自分で決めた名前だ。この近くに〈ウソつきの剣〉て呼ばれているジイサンがいるんだけど、ステラっていうのはそのジイサンの作り話に出てくる名前なんだ。ジイサンのホラ話によると、ステラっていうのは空に浮かんで輝いているちっちゃな球で、とても小さいのに本当はとんでもなく大きくて、そこに世界があるっていうんだ。小さいのに大きいって変だろ。しかもそれが世界だなんてバカみたいな話なんだ。そのジイサン、ウソばっかり話すから、オニたちから〈ウソつきの剣〉って呼ばれてるんだ。でもオレなんだかその話がすっごく好きでさ、自分の名前を〈ステラ〉って決めたんだ。もし本当にそんなもんがあるなら、オレは一度でもいいから見てみたい。本当にそんな世界があるなら、いつか行ってみたいって思ったんだ」

「ステラ。それはもしかして、星のことかな・・・。英語ならスター。たしかステラはラテン語だったような。星なんて、空を見れば」と言いながら僕は空を見上げた。空には何もない。そういえば、さっき空を見たときも何もなかった。そうか、きっとこの空間には星が無いんだ。星どころか、太陽も月も何も無いんだ。だからステラは星を見たことがないのだ。

「ステラ。この世界を出たら、きっとそれを見ることができるよ。僕が、キミに空に輝く美しい光を見せてあげる。空に光が浮かんでいる輝く無限の世界だ。約束しよう」

「おいおい、オマエまでそんなウソに付き合わなくてもイイよ。でも、〈輝く無限の世界〉なんてものが、もし本当にあったなら絶対に見てみたいな。まぁ信じちゃいないが、ここは楽しくだまされておくよ。きっとここから連れ出してくれよな。ところでオマエの名前はなんて言うんだ。これからオマエのことは、何て呼べばイイ?」

 僕の名前! ムーンライトからはまだ仮名を聞いてない。本当の名前を言えばいいのか? でもムーンライトからは名前をうかつに話すなと言われてる。とにかく今はなんでもいいから、ニックネームで答えておこう。

 名前・・・ う~ん・・・ ムーンライトとステラからは〈オマエ〉って呼ばれてるし、名前は〈オマエ〉! いやいや、いくらなんでも〈オマエ〉はイヤだ。なんか召使か子分みたいでちょっと悲しい。たとえば〈オマエ〉を漢字にして〈御前〉。そういえば、たしか古典の授業で習ったぞ。尊敬の接頭語〈御〉と、貴人を間接的に指し示す〈前〉、つまり〈御前〉の本来の意味は「主君」とか「主人」の意味だったはずだ。これを英語にすれば〈マスター〉か。よし! これでいこう。いきなり偉そうになったけど、〈オマエ〉よりかはずいぶんとイイ感じだ。うううっ、なんか召使から主人に格上げしたみたいで感無量~。

「僕の名前は〈マスター〉。本当の名前じゃないけど、僕のことは〈マスター〉って呼んでくれればイイよ」

「マスターか。ステラって名前ほどじゃないけど、なかなかクールな名前だね。ではマスター、さっさと武器を決めてゲートを開いてくれ。まずはどこに行けばいいんだい?」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ