第3章 星のかけら (2)
目をあけると、そこにムーンライトが立っていた。そこは学校の校庭で、昨晩の夢で彼女と別れた場所だ。
「遅いぞ! 若きウォーカーよ。子供は太陽が沈んだら、早く寝るものだ! 聞いてなかったが、おまえはヴァンパイアの種族か?」
いやいや、そんなに早く眠ってしまうのは、幼児くらいのものだろう。最近では小学生だって夜更かしするというのに、仮にも受験生の僕にそんなことが許されるはずもない。それにしたってヴァンパイア扱いされるほど、夜更かししていたわけでもないが、ここはおとなしく謝っておくのが良さそうだ。
「ごめんごめん。待たせたね。今後夜更かしには気をつけるよ。ところで今日から旅の始まりだけど、僕達はまずどこを目指すのかな?」
「うむ、それについてだが、まずはおまえ自身の問題を先に解決せねばならぬようだな。
おまえは、あのリリスとかいう女のことを、どう考えているんだ? あれは明らかに人間ではなかったぞ。しかもおまえを殺すようなことを言っておったが、おまえはあの女が怖くないのか? 殺すという言葉は、あながちウソではないように聞こえたが」
「いや、殺すと言ったのはキミのことで、僕のことは好きだって言ってたよ」と能天気な僕。
「おまえは本当にバカなのか?! それともこの私をからかっているのか?
まぁいい。ともかく私が言いたいのは、おまえには身を守るなんらかの術が必要だということだ。それも早急にだ。昨日はおまえのテリトリーの中だからこそ無事で済んだが、これから先は、そうはいかん。
おまえは何も知らないようだが、夢の中だから安全というのは大間違いだぞ。テリトリーの外で致命傷を負えば、おまえの精神もただでは済まん。最悪の場合、現実世界のおまえは永遠に目が覚めない、という可能性だってある。そうでなくても、心に深い傷を負い、おまえはもう人間としての生活ができなくなることだって考えられる。
リリスのことは別にしても、これからさき旅をするなら、とりあえず身を守る何かが必要だ。本当なら、もっとゆっくり準備してから行動すべきだが、そんな余裕はないと考えるべきだろう。いまここであの女が襲ってくる可能性だってある」
「つまり、何かの修行で僕が強くなるっていうこと? 夢の中だから、強くなるって望めば強くなれるとか? それとも薬でもって強くなれる? アリスのように薬で巨大化できるとか?」
「どれも無理だな。少なくとも、〈大至急〉という必要性の点で言えば、どの案も却下だ。修行には時間がかかる。それに望んで強くなれるのなら、ミジンコだって最強を目指すかもしれん。薬はあるが、簡単には手には入らん。巨大化薬はアリスが使ったのが最後の1瓶だった。どれもあきらめろ」
「じゃあ、どうすれば強くなれるのさ」と僕。
「うむ。方法は幾つか考えてみたのだがな。もっとも実行可能な方法としては・・・
・・・うむ、まぁ、これもベストな方法とはちょっと言いにくいのだが、・・・まぁ、てっとりばやく、手頃な武器を盗んでくる、ということだな」