第2章 ムーンライト (11)
白猫は僕をじっと見つめている。だがその青く透きとおった瞳は、目の前にいる僕ではなく、まるでどこか遠くの誰かを見つめているかのようにもみえた。
「・・・ ・・・ 約束・・・ ・・・ 友達・・・ ・・・そして運命か。
なかなか面白い。なるほど、この出会いは確かに私にとっても運命の分岐点なのかもしれぬ。一人では無理でも、二人なら新しい道が開けるということもあるだろう。おまえの提案を、ありがたく受け入れることにしよう。
我らは今ここに言霊による契約を交わし、いや、この場合は約束であったか・・・、今ここで我らが運命を結び合わせるもまた一興。
――我はここに誓約する。運命が二人の道を分かつまで、我は汝と共にゆくことに同意せん。我はこの制約なき契約、すなわち約束の代償として、真名とは別の名、すなわち仮名を我に授ける権利を汝に与え、それをもってこの制約なき契約、すなわち約束の証とすることをここに認めん――
さあ、若きウォーカーよ、もしおまえの覚悟が本物ならば、言霊をつむぎ、我らの絆にするのだ」
僕の決意に嘘はないつもりだ。きっかけはただの思いつきでも、僕はこの先、この選択に後悔はしない。そう心の中で強く誓うと、白猫が語る妙な言葉の旋律に応えるかのように、僕の口から自然と言葉がつむぎだされていく。
――僕もまたここに誓約する。運命が二人の道を分けるまで、僕はキミと共にゆくことに同意する。僕はこの制約なき契約、すなわち約束の代価として、キミの仮名を我がものとして受諾することに同意する。そして僕もまた真名とは別の名、すなわち仮名を授ける権利を、友情の証としてキミに与えたい。これにより、僕はこのなんら制約のない約束に、何より深い意義と価値があることの誓いとする――
言霊の詠唱が終わるその瞬間、目の前にいる白猫とは別に、僕の心の中に白猫の姿がイメージとしてくっきりと浮かび上がる。そのイメージは、さっき白猫を見たときに感じた白い光のイメージだった。この光は太陽・・・、いや違う。この純粋に白い光は月の光だ。そして僕はなぜかそのとき、いつかどこかで見た、あの世界を白く染めてしまうほどの強烈な月の光を思い出していた。それは誰もいない巨大な都市で、世界を白く染めてしまうように輝いていた、あの冷たく刺すような月の光・・・。どこかで見た記憶の中の真円の月・・・。
僕の心に浮かぶ、真円の月と白猫のイメージが一つに重なって融合していく。
その瞬間! 僕の目の前にいる実際の白猫が、突如、眩いばかりに白い輝きを発する。その鋭く冷たい光は、いままさに僕が心に思い描いていた、あの真円の月と同じ輝きだった。
・・・〈ムーンライト〉・・・。そう、それが彼女のもう一つの名前だ。