第2章 ムーンライト (10)
「だったら僕と友達になるっていうのはどうかな。
契約とか、導くとか、そんな大袈裟なものじゃなくて、ただ友達になるっていうのは駄目かな? キミとリリス、二人と話しながら思ったんだ。僕はここで何がしたいんだろうかって。そして結局、僕はこの世界で今、何の目的もないことがわかったんだ。だから、もしキミがこの世界のどこかに行くべき場所があるっていうんなら、僕も一緒にそこへ行ってみたいんだ。契約とかじゃなくて、僕とキミが友達になるっていう約束。それならどうだい」
僕の突然の提案に、猫は言葉を失っている。そしてこの時、真っ先に言葉を発したのは、猫ではなくてリリスだった。
「馬鹿なこと言わないで! あなた自分が何を言っているのか分かってるの?! そんな猫なんかいなくても、私がこの世界を案内してあげる。キミが望むところなら、どこだって連れて行ってあげる。だから、」
「でも、それじゃ駄目だと思うんだ!」
僕はリリスの言葉を途中でさえぎる。
「うまく説明できないけど、それじゃ駄目なんだ。望みが何でも簡単にかなうなんて、たぶん何の意味もないことなんだ。それにこれは僕と猫さんの問題だから、悪いけど少し静かにしててくれないか」
僕の思いが伝わったのだろうか、リリスはそれきり何も言わなくなった。
「白猫くん、キミは僕の夢の中に現われた最初の訪問者なんだ。そしてキミは僕にいろいろな助言をくれた。さっきのリリスの言葉じゃないけど、僕はキミと出会えたことに偶然以上の何か、運命っていうとすごく大げさだけど、何か縁のようなものを感じるんだよ。そして何ていうか、僕はここでキミと別れてしまうのが、とても寂しいんだ。
だから、これからも僕の欠点や間違いをいろいろと指摘してくれないかい。そしてキミの旅を、僕に手伝わせて欲しい。この夢の世界で、初めて僕に手を差し伸べてくれた君に、僕の友達になってほしいんだ」
僕の言葉に、猫はしばらく考える様子を見せる。そして猫は静かに語りだした。
「約束か・・・、うむ、懐かしい言葉だ・・・。
私が以前その言葉を耳にしたのは、もう遥かに千年以上も昔のことだろうか・・・。
この世界で〈契約〉の言葉を口にする者は、星の数ほどいる。しかしなんの強制もない「約束」という言葉に、価値を見出す者はいない。
若きウォーカーよ。私が行かねばならぬ場所は、おまえが思うより遥かに遠く、遥かに危険な場所かもしれない。楽しくもなく、退屈で、空しいだけの場所かもしれない。それでもおまえは私と共に行ってくれるというのか」
白猫の言葉は、なぜかとても優しい。その優しくも寂しげな猫の声を聞いたとき、僕の心にもう迷いはなかった。
「うん。もしこの世界が果てしない世界だっていうなら、僕はキミとこの世界の果てを旅してみたい。キミと一緒なら、いつか僕にも、僕が目指す場所、僕が行くべき場所、この世界での目的が見つかるのかもしれない。だけど今は・・・、その時がくるまでは、僕はキミと一緒に遥かな世界の果てを見に行ってみたいんだ」
そう話しながら、僕はなんだか胸の奥が不思議と熱くなってくるのを感じていた。
夢の世界の僕に、いま新しい目的ができた気がする。きっとこの胸の内にある熱い想いは、僕の中に生まれた新しい希望なのだろう。そうだ、これは僕の生まれたばかりの新しい夢だ。ワクワクするような熱い思いが体から溢れてくるようだ。