第2章 ムーンライト (6)
「そもそも、使い魔との契約は、そんなに難しいことじゃないの。双方が同意して互いに何かを差し出し、互いがそれを受け取れば契約は成立するの。
ねっ、とっても簡単でしょう。
差し出したモノの価値が大きければ大きいほど、互いの絆は強く結びついて、絆が強い制約を持つようになるわ。この絆の強さこそが、この無限世界の中で互いを結びつける呪縛になるの。
契約は、主人と従者の関係を前提にして結ぶ場合がほとんどだけど、単純に強い結びつきだけを求めて、双方対等の関係で契約を結ぶことだってできるわ。ドリームウォーカーの多くは、身近な生き物に強い条件付けをして、従者の立場を強制して契約を結ぶのが一般的ね。昔、魔女とか魔術師とか呼ばれていた人たちが、猫とかカラス、あるいはフクロウなんかを使い魔にしていたと言えば分かりやすいかしら。
彼らは使い魔を夢の中で使役したり、案内役にしていたわ。何か高度で複雑な命令をしたければ、下級悪魔を使い魔にするのが一番なんだけど、彼らとの契約はその条件がとても難しいし、相当な知識と経験が必要になるわ。契約に差し出す代価も、自分の魂とか寿命とか、あるいはもっと貴重な何かを要求してくるの。しかも悪魔は狡猾だから、油断させておいて、自分たちに一方的に有利な契約を押し付けてくることだってあるわ。
使い魔については、簡単に言えば、こんなものかしら。
それと夢の世界のことよね?
まずこの世界は、現実世界の宇宙全体と同じか、あるいはそれ以上に果てしがないわ。だから私が知っているのはこの世界のごく一部でしかないけど、どうやらこの夢の世界は幾つもの階層でできているらしいの。私たちが今いる階層の上にも下にも無限の階層世界があって、それぞれの階層は、時代・場所・次元といった要素と関係しながら複雑に結びついてできあがっているみたい。もしかしたら、どこかの階層には恐竜たちが見ていた夢の世界や、宇宙人や魔族の意識世界だってあるのかもしれない。でも実際に人間がその領域までいくことは、ほとんど不可能なほど難しいと思うわ。
あっ、それと忘れてはいけないのが、テリトリーのことね。夢を見ている人間は、みなこの世界に自分の精神世界を映し出したテリトリーを創り出すの。簡単に言えば、いま自分が見ている夢の景色、自分がイメージで造りだした自分だけの空間、それがテリトリーなの。人は眠っているとき夢を見ているけど、それは自分のテリトリーの中を自由に動き回っている状態だと思えばいいかしら。さっき伊藤君が教室の窓から出られなかったのは、今いるこの教室こそが伊藤君のテリトリーで、その窓がテリトリーの境界になっているからよ。その窓を越えると、それは他の人のテリトリー、つまり他の人の意識や記憶の世界だったりするの。イメージが重なると、テリトリーは引き付けあって結合し、連続した世界を構築していくわ。だから同じ時代、同じ価値観、同じ景色の記憶を持つ者ほど、同じ階層世界のより近い場所にテリトリーが創られることになるわ。
この世界は、夢がむすびついたり重なり合ったりしながら、無限に広がっていく心の世界なの。欲望、感動、悲しみ、喜び、愛、憎しみ、絶望、知識、知恵、怒り、安らぎ、そのほか全て、夢見るもの達の心がつむぎ出した世界、それはつまり心の世界ということね。
ごく簡単に言えば、こんなものかしら。そうよね、白ネコさん?」
「まぁ、使い魔とこの世界の説明についてはそんなものだろうな。
それとは別に重要な説明が1つ2つ抜け落ちている気はしないでもないがな」と白猫。