第3話
呆然としたままエヌラは日の出までそこに立ち尽くしていた。彼はあの三人がどこに消えたかを考えていたのだ。陽の光がエヌラの顔を照らした時、彼は三人がちょうどエヌラの隠れていた陰の一本手前の道を走っていたことに気付いた。彼は静かにズボンを上げて自宅に向かった。
彼の家は大型商業施設『癒着』の地下駐車場にある。そこは家というよりも箱と言った方が正しかった。エヌラが駐車場の端にある段ボールで作られた家に入ると同棲相手の『アーマ・ナマズー』が出迎えた。
「どうだった?」
ナマズーがお湯をマグカップに入れてエヌラに手渡した。
「いつもと変わらないよ…」
コタツに潜り込んでお湯を啜るエヌラが応えた。ナマズーの質問はエヌラが夜に行った露出行為の結果では無く、アルバイトの話しであった。今のエヌラにとってナマズーの質問はどうでもよかった。何よりも失敗したことが悔しかった。それにエヌラは4日前にアルバイトをクビになっていた。理由は女性従業員に対するセクハラ発言であった。
エヌラの応えを聞いた全身黒タイツ姿のナマズーは部屋の隅に戻って内職の続きを始めた。彼は今、ボールペンの芯詰めを行っている。二人が住む、いや、身を潜めている段ボール小屋は縦175センチ、幅が150センチで外壁を灰色に塗っていた。遠くから見れば段ボール小屋は駐車場の壁と一体になって見えるからである。
新しい職を探さないとナマズーにばかり負担を強いることになる。できるだけ短期間で稼げる職を探さないといけない。エヌラは毎日5秒間、新しい職について真剣に考えるが、すぐに女性のことを考える。だが、今日は違った。彼は真面目に転職サイトで職を探した。
接客業は俺向きじゃないから却下だ。できれば女性スタッフが多い場所がいい。だから、建設関係も無理だ。そうなると女性が多い所はやはり接客業かもしれない。例えばレストラン。制服姿の女の子を毎日拝める可能性が高くなる。そうなれば、女性にスカートを強制している店に応募すれば天国だ。
生足。エヌラにとって女性の脚は神よりも神聖なものであった。ここでエヌラはレストラン、またはスカート制服を採用している店を探すことにした。そして、エヌラは2つの店を見つけた。彼はその店に行ったことがあり、店員がスカート着用を強制されていることを知っていた。
ここいしかない。履歴書を送ろう。
エヌラが履歴書をダウンロードしようとした時、彼の目はアルバイト応募資格のページで止まった。そこには男子禁制と書かれていた。
クソ。なんてことだ。違うところを探すしかない。
エヌラは転職サイトのトップページに戻り、検索のボックスに「短期アルバイト、高給」と入力した。すると、先程まで無かった募集が掲載されていた。
「強くて逞しい男性を求む! 一緒に美女を守ろう」という件名であった。とりあえずエヌラは名前に惹かれ、そのアルバイトの履歴書をダウンロードした。
この時、エヌラは彼が住む木星に小型ポッドが墜落したことにまだ気付いていなかった。