3-1
魔動革命から既に1年の時が流れようとしていた。
シンがこの世界に迷い込んでからこれまで、元の世界へ還る手掛かりは何一つ手に入っていなかった。
だがシン本人としては元の世界へ還る事を切望していたわけでもないので、それほど気にはしていなかった。
強いて言うならこの世界にはアニメとプラモが無い事。
それ以外は概ねこの世界は過ごしやすかった。
元の世界ではあまり人と関わり合いを持っていなかったが、この世界では歳は離れているが大親友と呼べる相手に巡り合い、元の世界では異性との接点らしい接点が家族だけだったのが、今ではアニメ声の美少女の作るご飯やおやつを毎日のように食べられるのである。
それにプラモではない実際に動く巨大ロボットである魔動機兵を作る作業は、色々と大変で時間は掛かるが楽しい作業であった。
その為、シンは元の世界に戻らなくても良いとさえ考えつつあった。単純にこの世界で生きていく事に慣れたとも言う。
そんな彼の目下の課題は目の前の魔晶石を運ぶ事だった。
シンが今いる場所はイフリ山にある石切場。
魔動機兵の魔動フレームに使われる魔晶石は簡単に採掘出来る為、必要な分をシン1人で掘りに来ていたのだった。
1年前に鉱夫達と共にジルグラムの採掘を手伝ってから、シンは何度も手伝いを続け、今ではこうして1人で採掘が出来る程度にまで成長していた。
そしてそれに伴い、シン自身もかなり筋肉質の逞しい体つきになっていた。腕や足は1年前に比べ一回り以上太くなり、腹筋などは4つに割れた程である。
夕暮れが近付いていたので、そろそろ帰ろうと木造りの荷車に自分の身長ほどもある魔晶石を乗せる。
「くそっ、魔動機兵や魔動機馬でもあればなぁ……ってどちらにしろ俺じゃ使えないか」
いくらこの1年で筋力や体力が鍛えられたとはいえ、人力で石材を運ぶのは出来なくは無いが疲れる事に変わりは無い。
魔動機兵や半年ほど前に新しく開発された魔動力で動く機械の馬である魔動機馬があれば、その労力は半分以下に減るだろう。
しかし、魔動力を持たない彼の場合は、例えそれらがあったとしても、結局の所、人力で運ぶ以外選択肢は無いのだ。
「まぁ、無いものをねだっても仕方が無いし、頑張るしかないか」
シンは気合を入れ直すと荷車を引……こうとした直後、どこからか女性の悲鳴が聞こえる。
何かに追われているようなその声は徐々に近付いてきている。
1年近く前ならば、野盗に襲われる、国を追われた姫を助け、救国の英雄になる為、姫と共に旅をする、なんて夢想をしたかもしれないが、この世界では野盗は少なからずいるようだが、国を追われるような悲劇的な戦争というものはほとんど無い。
特にフォーガン王国は他国とは友好的な関係が続いており、この数百年、戦争らしい戦争は起きていない。
なので正直、今のシンの感想はと言えば、
(な~んか面倒事に巻き込まれそうな気がするなぁ)
という程度であった。
そう考えているうちに面倒事を予感させる人物が岩場の向こうから姿を現す。
それはシンと同じくらいかやや下の見た目の少女だった。
透き通るような長い金髪を振り乱し、白磁のような肌は汗にまみれ、身に着けている白いワンピース共々泥で汚れている。
「…お、お願……たす…て……野犬が………」
力の限り走って来たのだろう。シンの胸にぶつかるように倒れ込むと、息も絶え絶えに助けを求める。
汗で濡れた額に前髪が張り付いた状態でも、その少女は美少女と呼ぶに相応しい容姿をしていた。
少女の肩を抱きながら、シンは野犬を警戒する。だが野犬らしき姿は石切場に現れない。
なわばりから離れた為か、荷車に取り付けてあった松明から炎が上がっているのに気付いた為かは分からないが、どうやら彼女がここに辿り着いた時点で、既に危機は去っていたようだ。
「えっと、その大丈夫?立てる?」
シンに抱きついたまま、呼吸の乱れを正そうとしている少女は、一度首を縦に振った後、横に振る。
少女にとって恐らく人生でここまで全力を出して走った事など無かっただろう。膝は笑い、シンが手を離した瞬間、崩れ落ちてもおかしくなかった。
「えぇっと、ちょっと汚れるけれど、ここに座ってもらってもいいかな?」
既に服は泥だらけなので今更という感じであるが、シンは荷車の端に少女を座らせる。
クレスのおかげで慣れたとはいえ、元々異性とはあまり関わる事の無い日々を過ごしてきたシンにとって、これ以上、金髪の美少女が自分の胸にしがみ付いている状態は理性が耐えられそうになかったのだ。
荷車にちょこんと座った少女は、ようやく呼吸が整ってきたのか、シンに瞳を向けて何か喋ろうとする。だが次の瞬間、枯れた喉に言葉が詰まったようにケホケホと可愛らしく咳き込む。
「ほら、これでも飲んで少し落ち着いて」
シンは腰に提げていた水袋を少女に渡す。
「とりあえず日も暮れてきたし、いったん町に戻ろうと思うけれどいいかな?」
小さな口で水を飲みながら少女が頷く。
シンは荷車の取っ手を取り、気合を込めて引きはじめる。魔晶石の塊と少女を乗せて荷車はゆっくりと動き出す。
「疲れてるだろうからゆっくり休んでて。うちの工房までならそう時間は掛からないから」
こうしてシンは面倒な事になると分かっていながら、素性も分からぬ美少女を連れて帰路につく。
荷車を引くシンはいつも思う。
(工房が山に近い町外れでホントに良かった)
完全に日が沈み、辺りを闇が覆い始めた頃にシンはようやく工房の灯りが見えるところまでやってきた。
同乗した金髪の少女を気遣ってなるべく振動が無いように進んだせいもあって、普段の倍近い時間が掛かってしまった。
その道中、シンは少女の名がアイリといい、森で散策中に野犬に襲われる羽目になったという事を聞いた。
偶然にも近くで炎の揺らめきを見つけ、無我夢中で走ってきたのだという。
今日は鉱夫達は別の採掘場へ行っており、もしシンがあの場にいなかったら、アイリには絶望しか残らなかった事だろう。
シン自身はそこに偶然居ただけで、何かをしたわけではないのだが、彼女にとってシンは命の恩人であった。
「見えた。あれがうちの工房だよ」
徐々に近付くキングス工房を指差しながらシンはアイリに教える。
「あ、あの…シンさんは魔動技師の方でいらっしゃるのですか?」
助けを求めた時は掠れてて途切れ途切れだった為に気付かなかったが、アイリの声は、見た目通りの柔らかな雰囲気でどこか上品さが窺える声質だった。
「俺自身は単なる手伝いさ。今みたいにこういうのを運んだりね」
シン自身何故、さっき会ったばかりの少女とこんなに普通に喋れているのか不思議だった。
いや、若干緊張はしている。
だが、初対面の異性を相手にここまで気安く喋れるとは自分自身でさえも思っていなかったのだ。
ユウやクレスに対し敬語を使わなくなったのも1ヶ月近く掛かったというのに。
「これ程のものをお1人で運ばれるなんて、シンさんは力持ちなのですね」
そう言うとアイリはにっこりとシンに笑顔を向ける。汗と泥で薄汚れているにも拘らず、その笑顔の輝きは失われていない。
美少女は何をしていようとどんな姿であろうとその美が崩れる事は無い、というのを正しくアイリは体現していた。
そうこうしている内に荷車は工房の前に到着する。
「お~い、クレス~!ちょっと出てきてもらえるか~」
外から中にいるであろうクレスに大声で呼び掛ける。
程なくして夕飯の支度でもしていたのだろう、エプロン姿のクレスが出てくる。
「お帰りなさい、シン。大声で呼んで何かあったんですか?」
「悪いけど、この子に着替えを、あ、風呂が先だな。頼めるかな?」
「シン、この女の子は?」
「拾った」
「拾ってきたんですか。そうですか……って犬や猫じゃないんですからっ!!」
一瞬、クレスの脳裏に、拾ってくださいと書かれた箱に金髪の美少女が入っている姿を想像してしまう。
「一言で済まそうとした俺が悪かったよ!色々と訳ありなんだけど事情は後で説明するから、一先ず、彼女の事を頼むよ。このままって訳にはいかないから」
「もうっ、からかうのはよして下さい!」
そんな2人のやり取りを眺めていたアイリはクスクスと笑い出す。
2人は頭にハテナマークを浮かべながら怪訝そうな顔を少女へ向ける。
「ウフフ、お2人とも楽しい方ですね。そちらの方はシンさんの奥様でしょうか?」
傍から見たら2人のやり取りは夫婦漫才のように見えるのだろう。アイリは率直に尋ねる。
その問い掛けに2人はほぼ同時に顔を真っ赤にさせ、そしてほぼ同時に同じ内容の言葉を出す。
「ち、違うからっ!!」
「ち、違いますからっ!!」
そんな2人にアイリはどこかほっとしたような、邪気の無い笑顔を向けるのであった。
シンが採ってきた魔晶石を工房に運び入れ、居間で一息入れた所で、クレスと共に泥と汗を綺麗に洗い流したアイリが姿を現す。
シンもユウもその姿を見て、呆然と、いや、つい見惚れてしまう。
元々から美少女だったが、汚れを落としたアイリは神秘的とも言える美を放っていた。
汗で張り付いていて気が付かなかった透き通るような金髪は、軽くウェーブの掛かったフワフワの髪質で腰の長さまである。
髪と同じ金色の瞳を持つ目は大きく、対称的に鼻と口は小さく纏められていて、その頬は風呂上りということもあり、ややピンク色に染まっている。
着替えた服は恐らくシンかユウのものであろう生地が厚めのシャツで、袖を半分ぐらい折ってようやくちょこんと手が出ている。裾に至っては膝まで隠れるほど長さが余っている。
小柄で可愛らしいその姿はどこかフランス人形を彷彿とさせた。
「あ、あの、皆さん、色々とありがとうございました」
アイリはシャツの裾を摘まんで、それがスカートで無いという事を思い出して、慌てて裾を戻してからぺこりと頭を下げる。
そこでようやくシンとユウは石化が解かれたかのようにハッとし、慌てて呼吸を再開させる。
「もう、男の人ってどうしてこう可愛い子に目が無いのかしら」
頬を膨らませるクレスだが、風呂から上ったばかりのアイリに「可愛いです~」と言って抱きついたのは女性陣2人だけの秘密である。
「直ぐにお夕飯が出来ますからアイリちゃんも食べていって下さい。事情も聞かないといけませんからね」
その言葉通り、すぐに食事は運ばれて来た。
野菜がたっぷり入ったクリームシチューとバスケット一杯のパンが今夜の夕飯であった。
食卓を囲みながら、シンはアイリと出会った時の事から、帰り道で聞いた事情を説明した。
「それだけ聞くと、気絶してたかしてないかの差だけでシンみたいだな」
そうユウに言われて、シンは「おお、そういえば」と、ようやく気付いたかのように驚く。
「それはどういう意味なのですか?」
小首を傾げてアイリは尋ねる。その所作はいちいち可愛らしい。
「シンは、記憶を失ってこの近くで倒れている所を僕達が見つけたんだ」
そういえば記憶喪失なんて設定があったなぁ、とシンは心の中で思う。
過去というか元の世界の記憶は残っているが、異世界ということで記憶が無いという事にしたのだが、ユウもクレスもシンの過去には触れてこなかったし、シン自身も元の世界にそれほど良い思い出があったわけではなく、自分から喋る事はほとんど無かったので、すっかり忘れていた設定だった。
「アイリさんは記憶はちゃんとあるんですよね?」
「え、あ、は、はい」
ユウの問い掛けにアイリは若干歯切れ悪く答える。
「あら。それじゃあ、お夕飯が終わったら急いで帰らないと。ご両親が心配されてると困りますし」
日は既にどっぷりと暮れている。
町の中心部まで行けば、家々の明かりや『ライト』を応用した街灯があるので、それなりの明るさは確保されているが、キングス工房は町外れにある為、近くに街灯はほとんど無く、周囲は濃い闇色で覆われている。
あまり遅くなると、両親が心配するだけでなく誘拐や行方不明事件として大事になりかねない。
「んじゃ、クレスを送るついでに一緒に送っていくか」
そのシンの言葉にアイリは首を横に振る。その表情には憂いのようなものが浮かんでいる。
「あ、あの、今晩だけでいいのですけれど……その、こちらに泊まらせてもらう訳にはいかないでしょうか」
今日は帰りたくないという美少女の言葉。これがもし1人暮らしだったのなら凄くおいしいシチュエーションである。
泊めて貰ったお礼にあんな事やこんな事を妄想するだろうが、シンはそんな事よりも面倒事に巻き込まれるという予感が的中したという事と、この後の事を考えていた。
今のこの言葉とこれまでの彼女の行動を思い返す。
本人が何も言わないのであえて詳しく聞くことはしなかったが、きっと両親と大喧嘩でもして家を飛び出したのだろうとシンは予想していた。そうでなければ、いくら散策だからといっても女の子1人で山になんて入ろうとは思わないはずである。
家族と共にいることが苦になって逃げ出すという行為はシン自身にも経験があり、帰りたくないという気持ちは痛いほど分かる。そして頭が冷えれば自分の行動がどれ程、無意味な抵抗で馬鹿げた事だったのかと気付くのも分かる。
それが分かっているからシンとしては、一晩くらい、という思いはある。だがシンにそれを口に出す権利は無い。
ここはキングス工房。ユウ・キングスロウが家主であり、決定権は彼にあるのだから。
シンとクレスは黙ったまま、ユウの返答を見守る。
とはいえ、2人ともユウとは長い付き合いである。彼がなんと答えるかは分かりきっていた。
「帰る場所を思い出せない記憶喪失に続いて、今度はちょっとした反抗期の家出少女か。まったく、うちは魔動工房であって難民避難所じゃないんだけどなぁ」
苦笑交じりのユウの言葉にシンとクレスは笑みを浮かべる。
この場でアイリだけが、その言葉の意味を図りかね、何故、3人が笑顔を浮かべているのか分からずにいた。
「分かり辛い言い方だけど、つまりはOKって事さ」
シンのその言葉で沈んでいた表情が一瞬で花を咲かせる。
「事情は詮索しないけれど、明日になったら一度帰って、家の人に謝るんだよ」
ユウは少し語尾を強めてアイリにそう伝える。
「はい、分かりました。ありがとうございます!」
シンはやはり面倒事になったなぁと思いつつも、アイリの満面の笑顔を見ていると、これはこれで良かったのかなとも思う。
「アイリちゃんを置いて、私だけ帰るって訳にはいかないですから、今日は私も泊まっていきますね」
実家から通っている事もあり、基本的にクレスが工房に泊まっていく事は少ないが、徹夜仕事がある時などは夜食を作るために帰らない事もあるため、彼女の寝室も一応用意はされている。だがいくらこの工房でも寝室はこれ以上は無い。
3つのベッドに4人。となれば必然的に
「というわけでシンは今晩、ここでよろしくお願いしますね」
居間のソファの上にシンの枕と毛布が置かれる。
「やっぱり俺かよ!」
と口では言うが、当然だろうとシン自身も思う。
アイリは客だし、ユウは家主である。クレスは女性なので、彼女を差し置いて自分がベットで寝るのは、性格的に無理だった。
「あ、あの、無理を言ったのは私ですから、私が……」
「ああ、気にしない気にしない。そもそも女の子を差し置いて、ベットで寝るなんて俺には出来ないから」
アイリの言葉を遮ってシンは笑顔を向けてそう言う。
それにシンは前の世界にいた時から、プラモ作りの途中で寝落ちして机の上に突っ伏している事が良くあった事もあり、ちょっとした無理な体勢でも熟睡出来るのだ。
「あ、ありがとうございます。シンさん」
「あ、でも俺が毎晩寝てる部屋だから男臭かったらゴメンな」
「…シンさんの……お部屋……」
普段、男性が使っているベットで今晩、自分が寝ると言う事を想像したのか、アイリがポッと赤くなる。
「昼間に干しましたし、シーツも変えてますから臭くなんかありませんよ」
「えっと、あの、クレス……なんか『男臭い』から『男』を取って言われると、なんかスンゲェ、イヤなっていうか切ない気分になるんですけど……」
「え、何か違うんですか?」
「いや、ほら、気分的な問題と言うか、イメージ的にただ『臭い』って言うとゴミとかの『臭い』にも通じるわけで、だから……」
シンとクレスのやり取りを聞いて、アイリがクスクスと声を漏らして笑う。
「うふふ、やっぱり楽しい人達ですね。こんなに笑ったのは久しぶりな気がします」
アイリの何気ない言葉に、シンは一瞬だけ顔を強張らせる。
『笑ったのは久しぶりな気がします』
本人も笑顔なので、本当に何気なく出た言葉なのだろう。
だが、シンには経験があるから分かる。
元の世界にいた頃のシンは相手に心からの笑顔を向けた事があっただろうか?
幼少期にはあったのかも知れないが、覚えてはいない。気が付いたときには既に家族に対しても愛想笑いを浮かべる、そんな子供だった。
完成したプラモの出来栄えにニヤリとする事はあっても、それは自身に対してであり、他人に向けたものではない。
だけど、この世界でユウとクレスに出会えたおかげで、今ではこうしてバカな事を言い合いながらも自然な笑顔を向ける事が出来る。
きっとアイリも昔のシンのように何かしらのプレッシャーやストレスの中に身を置き、それを周囲に見せないよう過ごしているのだろう。
本当の心を見せる相手も居なく、家族との隔たりがどんどん広くなっていく。だからそこから逃げ出した。
アイリは森へ、そしてシンは……
(って、まさか、流石にそんな事で異世界にまでは逃げないだろうなぁ)
突拍子もない事を考えたものだと思うが、異世界という存在自体が既に突拍子も無い事なので可能性だけで見れば、ありえないわけではなかった。
「あ、あの、シンさん、どうかされましたか?」
考え事をしていたため、つい黙り込んでしまったのだろう。アイリが下からその大きな瞳で覗き込んでくる。
「ああ、ごめんごめん。ちょっと『男臭い』と『臭い』の違いをどう伝えればいいか考えていてね」
おどけた調子で冗談を言う。
それに対してもアイリは楽しそうに笑顔を浮かべている。
(ああ、そうか。どうして俺が会って1日も経っていない女の子とこんなに普通に喋れるのか分かった)
シンは気付く。
アイリは自分と境遇が似ているのだ。もしかすると無意識の内に共感を覚えていたのかもしれない。
気が付くとシンはアイリの頭を撫でていた。
「あ……」
「あっ、ゴメン。嫌だったか?」
「いえ。こうされていると気持ちよくて、嬉しいです」
幸せそうな顔でシンに頭を撫でられるアイリ。
その様子をすぐ傍で微笑ましく眺めるクレスの心の内に、何かもやもやしたものが浮かび上がる。
頬を赤らめて嬉しそうにするアイリと、それを優しく見つめるシンを見ている内に湧き上がったものだが、それが何なのか彼女にはまだ分からなかった。
こうしていつもより賑やかなキングス工房の夜は更けていった。
そして翌朝。
全員で朝食を食べた後、クレスが一度実家に戻るのに伴ってアイリは工房を後にした。
去り際に「このご恩は一生忘れません」と言った言葉は、どこか寂しそうでありながら、何か吹っ切れたような印象を与え、シンの心に深く刻み込まれたのだった。
新キャラ登場回です。
定番のお風呂回はもっと女性キャラが増えたらやりたいなぁ~と。
次回は2/8(日)0:00に更新の予定。