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異世界の機兵技師(プラモデラー)  作者: 龍神雷
第2話 魔動革命の訪れ
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2-2

 イフリ山。

 それは標高3000mを越えるフォーガン王国内で最も高い死火山であり、鉱物の宝庫である。

 その麓にあるヴァルカノの町もイフリ山で採掘されるジルグラム鉱石や魔晶石、魔晶鉄といった鉱物資源のおかげで生計を立てている鉱夫が多い。

 採掘作業という事もあり、鉱夫達は一様に日に焼けた黒い肌の筋肉質であり、巨大な掘削機を持つ者や採掘用魔動機兵に乗る者までいる。

 その中で1人異彩を放つ青年がいる。

 周囲に比べれば針金のように線が細く、色白の青年、シンはツルハシ1つを手に鉱夫の中に混ざってイフリ山に向けて歩いていた。

(嫌な予感、的中だよ)

 本来なら彼の隣には自分と似たり寄ったりの姿の青年がいるはずだった。

 だがその青年、ユウは今朝飛び込んできた突然の修理依頼の為、現在は工房に篭っているはずである。

 幸い鉱夫達は皆、気さくで、突然手伝いを申し出たシンを快く迎え入れてくれた。

 だが気が重いのに変わりは無い。

「おう、工房の兄ちゃん!大丈夫かい?」

 気の重さに俯き加減で歩いているのを疲れたとでも思ったのだろう。鉱夫の1人がシンに声を掛けてくる。

 その鉱夫は人と同じくらいの大きな筒の先にドリルが付いた掘削機のようなものを軽々と肩に乗せている。

「ええ、最近、色々と鍛えられたおかげでこれくらいでしたら」

 魔動具の使えないシンの仕事は基本的に力仕事が主になっていた。特に魔動機兵の部品や素材は巨大で重いものが多い。

 たった数ヶ月とはいえ、ほぼ毎日のようにそんな作業をしていれば嫌でも筋肉も体力もつく。

 最初に比べれば身体は大分、引き締まっていた。

 なのでこれくらいの山道ならそれほど疲れることは無かった。

「しっかし、魔動技師さんは家ん中で黙々と作業してるってイメージあったんだが、こんなこともすんだなぁ」

 何がそんなに可笑しいのか、がっはっはっと陽気に鉱夫は笑う。

「よく分からないですけど多分、こんなことしてるのはうちくらいじゃないでしょうか」

 どんな事でもそうだろうが、本職の仕事に素人が手を出すのは本職の邪魔にしかならない。

 そういう意味では魔動技師の仕事にシンがいても邪魔なだけなので、どちらにしても同じことのように思える。

「それに俺は魔動技師じゃなく、ただの手伝いですから」

 シンの小さな呟きは聞こえたかどうか。

「ほれ、もう直ぐ採掘現場だ。頑張れよ」

 鉱夫はポンとシンの肩を叩く。それと同時に目の前に開けた岩場が現れる。

 石切場のように整地されたそこから幾本もの洞穴が見える。

 鉱夫達はそれぞれの持ち場が決まっているのか迷うことなく次々と洞穴に入っていく。

「ほら、工房の兄ちゃんはジルグラムが欲しいんだろ?それもデッケェのが。なら俺に付いて来な」

 先程のドリルを担いだ鉱夫がシンを手招く。

 そこは周囲の洞穴より遥かに巨大な穴だった。魔動機兵が歩いて通れるくらい巨大で洞穴というよりはトンネルと言った方が正しい。

 トンネルには『ライト』が設置されていて、光源は確保されていた。

 そしてその光が反射しているのかトンネル内は所々、緑の輝きを返している。

「ここはジルグラムの鉱脈でな。特別にデッケェのが採れるんだよ」

 奥へ進むと採掘用魔動機兵が既に作業を行っていた。

 魔動機兵サイズのツルハシを手に激しく壁を砕いている。

「掘るのは俺らに任せて、兄ちゃんは土砂や岩を運んでくれ」

 鉱夫はニカッと笑って近くにある一輪車を指差した後、巨大なドリルを腰溜めに構える。

 魔動機兵が壁を砕くよりも更に激しい音をさせてドリルが回転を始める。

 耳を騒音から守りながら見ているシンの前でドリルは壁を削り、大量の土砂を排出しながら穴を開けていく。

「さすが男のロマンのドリルだ!」

 シンの驚きと歓喜の声が騒音に掻き消される中、土砂はどんどん背後に溜まっていく。

「やべっ、見惚れてる場合じゃない」

 懐から鉱夫から貰った耳栓で手早く防音すると土砂を運ぶ作業を開始した。


 昼を過ぎ、瞬く間に夕方になる。

 とはいえそれは採掘作業に集中していた者だけの時間感覚。

 慣れない作業、しかも単純な肉体労働のシンにとっては永遠とも言える長い時間に思えた。。

 日が沈みきる前に鉱夫長が大声を張り上げて今日の作業の終了を知らせる。

「終わっ…た……」

 そう呟くのさえ億劫な程、身体は疲れ切り、全身の筋肉は悲鳴を上げている。

「工房の兄ちゃん。今日一日お疲れさん。おかげで今日は上玉が手に入ったぜ!」

 ドリルの鉱夫が朝と変わらぬ陽気な笑顔を向ける。

 その奥では大小様々な鉱石が荷車に積まれている所であった。

 その中でも緑色をした水晶原石、ジルグラムは人の頭くらいの大きさのものがゴロゴロとあるのが見える。

 シンという素人が見ているという事で気合の入っていたドリルの鉱夫が景気良く掘削した結果、偶然にもジルグラムの鉱脈を発見したのだ。

 悪気は無いのだろうが、これをシンのおかげと言われても、当の本人としては素直に喜べるものでは無かった。

 何しろ土砂運び、というより土砂を乗せた一輪車の操作は、単純な割りにコツが必要だった。多くの土砂を運ぼうと盛り過ぎると重くて進めることが難しく、持ち手が悪ければ直ぐにバランスを崩す。自分にとって効率の良い量と角度を見つけるのにかなりの時間を要した。

 その上、全身に負担のかかる重量動であった為、1時間もしないうちに、シンの精も魂も尽きた。何とか回復して再び作業に入るが、また直ぐに力尽きる。

 今日一日の作業時間より、力尽きて休んでいた時間の方が遥かに多かった。

 鉱脈が見つかり、他の洞穴から援助に来てくれたから、大量に採掘出来たが、シン自身ほとんど役に立ってはいなかった。

 だから、おかげとか、お疲れという言葉はとても心苦しかった。

 とはいえ今の状態のシンを見たら、お疲れと言いたくなるだろう。

 彼は全身の疲労と酷使による倦怠感で、歩いて下山する事もままならず、鉱石を載せた荷車の上でぐったりと横になっていた。

(なんか、俺。こっちの世界に来てから肉体労働しかしてない気がするなぁ)

 アニメでは開発場面や整備場面は物語上あまり重要ではない為、端折られる部分だが、現実はかなりシビアな世界なのだと痛感する。

 もっと科学力が進んでいれば、自動車工場のように人の力は少なくて済むだろうが、この世界の技術水準は魔動具が多く普及している都市部でも良くて昭和初期か大正時代、ヴァルカノのような田舎になれば下手をすると江戸時代以前である。

 魔動機兵のように近未来的な二足歩行ロボットがあるかと思えば、弓や槍で原始的に獲物を狩る。

 外洋に出るのに手漕ぎ船や帆船で行かなければいけないかと思えば、食材保管庫は野菜や肉といった生鮮食品の鮮度を保ち続ける『氷冷箱』と呼ばれる魔動具のおかげで半年以上腐る事が無い。

 シンから見れば最新家電と3世代4世代前の骨董品が肩を並べているように見えるのだ。

 途中である発展した歴史が無いのは違和感を覚える。

 魔動具は500年前のオーバーテクノロジーの発掘品であるのだから、発展の歴史が無いのも当然かもしれない。

 だがこの世界には数多くの人間が魔動王国時代の知識や技術を調査し、解読し、発見している。

 ユウやユウの祖父のように自らの手で新たに作り上げようと思う者はいなかったのだろうか。

 修復するだけでなく一から作ろうと思った者はいなかったのだろうか。

(そういえばこっちの世界に来て3ヶ月くらい。こんな事、考えたこと無かったなぁ)

 色々と考えると不思議なこと、不自然なことは多かった。

 この世界で使われている共通文字は、ミミズが這ったようなグニャグニャした文字であったが、シンは何事も無くそれを読むことが出来た。書き慣れていない為に書くことは出来なかったが。

 会話にしても略語や方言で無い限り、ほぼ通じる。

 シンは魔動機兵に没頭していたということもあり、その辺は異世界補正だと思い、これまで気にもしなかった。

 だが考えれば考えるほど不自然さと違和感が際立っていく。

 そして不自然の極めつけは魔動王国の存在だった。

 これだけ高度な魔動具を生み出した国が、跡形も無いというのは不自然な話だった。魔動機兵や魔動具、そして開発書のような技術書は見つかっているのに、魔動王国の歴史書や文献というのは見つかっていないという。

 そして何より魔動王国語が日本語で書かれているというのも意味が分からなかった。

 元の世界との接点に魔動王国の存在があることまでは分かるが、具体的にどうすればいいのか。どう動けばいいのか。

 知識も何も無いシンには考えようが無かった。

 取りとめも無く、纏まる事も無い考えを巡らせていると

「工房の兄ちゃん。町に着いたぞ」

 ドリルの鉱夫がシンに声を掛ける。

 起き上がるのも億劫で顔だけを動かすと、夕日に照らされたヴァルカノの町並みが見えてくる。

「がっはっはっ、その様子じゃ歩くのも辛そうだな。ついでだからこのまま、工房まで連れてってやるよ」

 それはとても助かる申し出だった。

 既にシンは満身創痍な状態だった。というか下山する間、ずっと横になっていて体が冷えてきたせいか、腕や足がパンパンになり熱を帯びているのがはっきりと分かる。

(絶対これ筋肉痛で動けなくなるパターンだよな。というか既に痛くて動かすのも辛い)

 シンはなんとかドリルの鉱夫に「お願いします」と呟く。ただそれだけでも身体に電流が通ったような痛みが走る。

 その痛みに悶えているうちに、シンと鉱石を載せた荷車は工房前へと辿り着く。

「ほら、工房の兄ちゃん。嫁さんが出迎えて待っててくれたぞ」

 工房の前ではクレスが大きく手を振っている。

「ばっ、うごっ、そんなんじゃ、ぐあ、な…あがっがっ」

 慌てて否定しようと身体を動かしたのが運の尽き。

 先程の比ではない激痛が全身を走り、苦痛の呻きさえ出ない。

「がっはっはっはっ、若いねぇ」

 からかわれていた事をシンが理解するのは、ベッドに放り込まれ、鉱夫達が帰った後のことであった。

連日投稿2回目。

連続ということもあり、今回は少し文章量少なめ。


次回は次の日曜に上げられるよう頑張ります。

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