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異世界の機兵技師(プラモデラー)  作者: 龍神雷
第14話 量産機
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14-3

 夕食後のキングス工房のリビング。

 アイリとミランダは帰り、クレスは洗いものをしている為、今この場には居ない。

 居るのはこの工房の実質的な実働班だけである。

 一応、資格者であり、魔動王国語やアルザイル帝国の魔動知識のあるシーナもこちらに加えられている。

 お茶を一口啜りつつ、ユウは今後の方針を目の前の全員に伝える。

「とりあえず、明日には研究所から操縦席が届くから、まずはそちらの調整。フレーム作製はある程度、調整が終わってからって事になるかな」

 王立魔動研究所製の操縦席は元々グランダルク量産型用に造られている。

 その為、魔動制御回路は防御機用のものになっているし、重量機用としてパワー重視の調整がされている。

 まずはそこを変更しなければ使い物にならない。

「とりあえずこの作業を僕とシンでやるので、フレーム造りまでの間はフィルはシルフィロードの修理を進めておいてくれ」

「はいは~い。色々と改造案を考えてたから丁度良かった!」

 フィルが手を上げて了承する。

「俺がユウの手伝いって事は、また回路掘りって事か」

 魔動制御回路は未だ解明されていない事の方が多いが、回路図を模倣して金属板に彫り込む事でその回路に応じた動作が可能となる。

 複雑ではあるが、彫り込むのは基本的に手作業なので魔動力が無くても出来る。

 キスをすれば魔動力を発現出来るが、それをしなくても作業が出来るのでシンにはうってつけの作業だ。

「まぁ、そうなんだけど、シルフィロードと同じもので大丈夫かという問題があるんだよな」

 魔動機兵の性能は操縦技術や魔動力炉の出力だけでは決まらない。

 最も重要なのは魔動制御回路がどれだけ豊富な動きが可能かということだ。

 例えばの話、どんな優秀な操縦者でも腕が上下に動く回路図しか搭載されていない魔動機兵に乗れば、どんなに頑張っても左右に動かす事は出来ない。

 そういう意味ではシルフィロードの回路図は複雑且つ高度で、シンが思い描いた動きを全て再現してくれる。

 ただしこれには欠点がある。

 複雑な動作を再現できる代わり、動かし続けるには常にその動きを考え続けていなければいけない。

 歩くという行為だけでも常にそれを考えておかなければ、歩みを止めてしまうのだ。

 操縦するのがシンのような並列思考の持ち主とか、頭の回転が早い者にとっては欠点とは言えないが、一般的な人にとっては全ての動作を瞬時にそして同時に考え続けなければならない。

 ソーディが全速機動出来なかったのは、シルフィロードの動きに思考が追い付けなかったのが一番の原因なのだ。

 その結果、速さは本来の半分になり、負荷と合わさって集中力が持続しなくなるのだ。

 その点、グランダルクは魔動制御回路を移動用と戦闘用に分けてあり、ある程度自動で動く事も可能になっている。

 特に移動用の場合は最初に指示を出した後は、暫くは同じ動きをするようになっている為、別の事を考えている余裕があるのだ。

 つまりシルフィロードを万人向けにするにはここを改善するのが一番重要なのだ。

「そうは言っても回路図って解析はあんまり進んでないんだろ?それなら流用するしかないんじゃねぇか?」

 シンの言う通りである。

 単純な魔動具や作業用魔動兵器の回路図から基礎的な部分は解明しつつあるが、複雑なものになればなるほど類似品が少なく、どの回路がどういう動きをするかというのを解析するのは難しい。

「やっぱりグランダルクと同じように移動と戦闘で回路を切り替えるようにするしかないだろうな」

 もっと時間があれば、王立魔動研究所と協力して上手く改良を施す事が出来るだろうが、今回は時間が無さ過ぎる。

 妥協するしかないだろう。

「え~っと、ちょっといいかな?」

 突然、2人の会話にシーナが口を挟む。

「ああ、そういえばシーナさんに仕事を割り振っていなかったね」

 シンと同様に彼女も魔動力の無い人間であったが、今はキングス工房の一員である。何か手伝いをさせた方が良いのだろうとユウは気付く。

「あ、いえ、そうじゃなくて、今の魔動制御回路の事だけど、多分、私、ある程度の回路図なら描けると思います」

 シーナの台詞に全員が目を丸くして唖然とする。

「え?あれ?私、変なこと言っちゃった?」

 オロオロとし始めるシーナにシンが思わず顔を寄せて尋ねる。

「な、なんで分かるんだ!あ、もしかしてアルザイルって回路図の解析が進んでるとか?!」

「ちょっ、ちょっと顔、近いから!っていうかシンくんが知らない方が私はビックリなんだけど」

 間近にあるシンの顔に少し頬を染めながらシーナは答える。

「確かにアルザイル帝国の回路図の解析はこっちより進んでるし、帝国に居た時に一応、一通りは習ったというのはあるけれど、これの基本原理って高校の科学の授業で習った範囲よ。ライトとか単純な魔動具だと中学で習うようなレベルだったりするし」

 科学とか高校とか中学とか、ユウ達にはその言葉が何を意味するのかは理解出来ていない。

 理解出来るのは魔動王国語の単語か何かだという事くらい。

 けれどシンだけはその意味を知っている。

「いや~、俺って文系だから理数系って苦手でさ。あはははは」

 シンは文章としての文字を読むのは好きだが、数字の羅列を見るのは苦手だった。

 XやYのついた公式とかグラフ等を見るとどうしても眠くなってしまうし、未だにアンペアとボルトとワットの違いが良く分かっていなかったりする。

「もう。ちゃんと授業を聞いてないから……って、ごめんなさい。そういえば話が途中だったわね」

 2人にしか分からない内容に他の全員が更にポカーンとしているのに気が付き、シーナは慌てて話を戻す。

「え~っと、つまり簡単に言うと魔動制御回路に関してはシンくんよりも私の方が理解しているから手伝えると思います。多分ある程度なら自作も可能だと思うんだけど、まずはシルフィロードの回路図を見てからかな」

「え、あ、ああ、うん。それじゃあ僕の手伝いはシーナさんにやって貰うとして、シンはフィルの方を手伝うってことにしようかな」

 正直、そこまで出来るとは思っていなかったので少し面食らう。

 だが、もし魔動制御回路が自作出来るならば、多くの部分で自動化が可能となり、扱いやすくなるだろう。

 ユウはシーナに期待を込めた視線を送る。

「あ、で、でももし失敗しても怒らないで下さいね」

 ユウの視線に気づいたのか、苦笑いを浮かべるシーナだが、元々から自作出来るなんて考えていなかったのだから、失敗した所で怒ったりはしない。

 例え回路図の自作が今回の王国祭に間に合わなくても、可能性があるだけでも今後に繋がるので十分な成果と言える。

「まぁ、気楽にやって貰えればいいよ。もしダメだった時はさっき言ったようにグランダルクの移動用回路とシルフィロードの戦闘用回路を流用するから」

「はい、分かりました」

 その横でフィルがシンの袖を引っ張り、耳元で小さく尋ねてくる。

「ねぇねぇ、資格者ってみんな、なにか特殊な知識とか能力でも持ってるの?」

 そんな疑問を持つのも当然だろう。

 シンの予想では魔動王国時代に魔動具や魔動機兵を開発したのはその時代に飛ばされたであろう現代日本人だ。

 だから魔動王国語は日本語だ。

 ならば当然、回路図や他のものも現代日本の時代に存在する図式や数式といったものが使われているのは道理だ。

 恐らく、シンの知識に無いだけで、多くのそいういう技術や知識が使用されているのだろう。

 確かにフィルから見たら特殊な知識に見えるのだろうが、シンやシーナにとっては普通なのだ。勉強をちゃんとしていたらの話だが。

 なのでシンは、アイリから異世界人であることを口止めされているという事もあり、その問い掛けには笑って誤魔化すしか出来なかった。



 *



 作業を開始して1ヶ月。

 シンが魔動力を使える様になったおかげでスムーズに手伝いをする事が出来、シルフィロードはほぼ修理が終わっていた。

 後はフィルが改良を施した箇所のテストと耐久テストくらいである。

「んじゃさっそく稼働テストするから、シンはよろしくね~!!」

 シン達は今、拓けた鉱山跡に居る。

 修理を終えたシルフィロードを動かすには十分な広さがある。

 大岩を仮想敵としていくつか設置してあり、魔動機兵ならば徒手空拳で砕く事が出来るだろう。

 ちなみに折れたカタナはまだ打ち直していない。

 アドモントが良案があるからと言って未だそのままになっているのだが、その言葉を信じるしかない。

 なので今のシルフィロードはカタナも銃も装備していない。

 その代わりに両拳を覆うようにアダマス鋼で造ったナックルガードが装備されている。

 指は細い上に関節が多い為、他に比べて脆い。アダマス鋼でコーティングしてあるのでそう簡単に壊れる事は無いだろうが、万一に備えてのものであった。

『よし。んじゃまずは5割で行くぞ!』

 フィルとアイリ、そしてミランダが見守る中、シルフィロードが脚部に力を溜めていく。

 フィルが新しく設計した多重構造の魔動筋が効率良く足の裏へ力を注ぎ込んでいく。

 爆音と共に地面が爆ぜる。

 風圧が20m以上離れているアイリとミランダの髪とスカートをはためかせる。

 髪も短く、ツナギ姿のフィルには大した被害は無いが、2人の髪の毛は酷い事になっていた。

 そんな事になっているなど露知らず、半分の出力であるにも関わらず、シンの操るシルフィロードは驚異的なスピードで最初の大岩へと迫る。

「加速力が今までと段違いだな。この程度のスピードなら一瞬か」

 そう評する間に大岩は目前まで迫ってくる。

 そのスピードのまま、勢いを乗せて振り抜いた右腕が大岩を貫く。

 砕くのではなく貫いたのだ。

 大岩の中央に拳大の穴が穿たれている。

 肩と肘の関節にも多重構造魔動筋を使用した為に腕の振りも速くなった結果だ。

「おいおい、これって物凄くないか?」

 現状はまだ半分の出力しか出していないのだが、瞬間的なスピードなら今までと引けを取らないかもしれない。

 もし全開にしたらどれ程の速さになるのか想像すら出来ない。

 貫いた大岩を横目に直角に曲がって次の大岩へ。

 右脚を跳ね上げ、回し蹴りで大岩の上部を削ぐ。

「ん?」

 新しい魔動筋の反応が良過ぎたのか狙った所よりもかなり上になってしまった。

 若干の違和感を感じつつも次の大岩へと駆ける。

 直前で大岩を飛び越すようにジャンプする。

 これまでとは異なる負荷が掛かり僅かに脚部が悲鳴を上げるが以前よりも音は小さいので全く問題の無いレベルである。

 大岩の後ろ側に回り、しならせるように腕を振るい裏拳を見舞う。

 最後はこれまでより半分程の大きさの岩を目指す。

 直前で急制動を掛け、岩を蹴り上げる。

 上空に舞った岩を狙い定めて、飛び上がりながら下からアッパーのように岩を砕く。

『よし、それじゃあ続けて8割で行くぞ!!』

 そう宣言した後、先程と同じ工程で大岩を貫き、砕いていく。

 5割の時と違い、疑問や感嘆を口に出している暇は無い。

 それだけ初速から最高速に達するまでの速さが異常だった。

 そしてやはり先程と同様、右脚に違和感を感じたので、全開機動を行う前に一度フィル達の居る地点まで戻ってくる。

『フィル!右脚の関節の動きがおかしいみたいだ。全体的に若干ズレも生じるからチェックを頼む……って後ろの2人は一体どうしたんだ?』

 シンがフィルの背後に居るアイリとミランダを見ると恨めしそうな瞳でこちらを睨んでいた。

 その頭はまるで爆発したかのようにボサボサの髪である。

「うぅ~、シンさんのバカバカなのですよ~!!」

 頬を膨らませて怒っているアイリの髪をミランダは自分の髪を直すより先に何処からか取り出したブラシで梳かす。

「シン様。事前に分かっていらっしゃったのなら注意して下されば良いものを……」

 普段からキツイ印象の目が今日は更に鋭くてキツイ。

『ちょっ!俺が何か悪いことしたのか!!っていうか、何がどうなっているのかをまず説明してくれよ!!』

 はっきり言ってシルフィロードの踏み込みでそこまでの衝撃波が発生するなど乗っているシンには分からない。

 以前まではこんな事は起こっていないので、恐らくは多重構造魔動筋が影響しているのだろう。

『おい!フィルも笑ってないで説明しろよ!!』

 2人の髪型と理由も分からず怒りの目を向けられてオロオロするシンの様子を見て腹を抱えて笑い転げるフィル。

 膨れっ面のアイリ。

 ジト目のミランダ。

 絶対的な力を持つ魔動機兵に乗っているのにも関わらず、シンは彼女達に太刀打ち出来る気が全くしないのであった。

10万アクセス突破しました。

お読み頂いている方、ありがとうございます。


シルバーウィークって事で次回更新は明後日の9/22(火)0:00に更新します。

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